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by Native Instruments

Loïc Couthier: MASSIVEで「WipEout」のエンジン音をデザイン

PlayStation人気レースゲームのシリーズ最新作「WipEout Omega Collection」のエンジン音をMASSIVEでデザイン。

Loïc Couthierは、ロンドンのPlayStation Europe Creative Services Groupを代表するサウンドデザイナーだ。 Native InstrumentsはCouthierにインタビューを行い、PlayStationを代表するレースゲームの最新作「WipEout Omega Collection」のエンジン音をどのようにして制作したのか尋ねた。

 

「WipEout Omega Collection」は昔のゲームのリメイクということですが、サウンドの刷新に関して気を使った点はありますか?

技術的に言うと、このゲームは古い3種類のゲームをリマスタリングしたものです。「WipEout HD」とPlayStation 3の「Fury」、そして、PS Vitaの時代の「WipEout 2048」の3つですね。およそ10年前にリリースされた 「WipEout HD」と「Fury」は未来的なレースを描いたもので、当時、サウンドと音楽は賞をもらいました。でも、今回同じサウンドを使っても上手くはまらないと思ったんです、もはやそれは未来的ではないですから。

ここ10年間、プレイヤー達はたくさんのSF映画を見て、たくさんのゲームで遊んできました。「スター・ウォーズ」のポッドレーサーから「トロン」のライトサイクル、「オブリビオン」のドローン、「トランスフォーマー」のロボットまで。 これらすべてがユーザーの耳に影響を与え、彼らの期待感を「アップデート」してきたのです。

オリジナル版と現代のゲームと比べて明らかになったことは、「WipEout」のサウンドを未来的に再デザインするべきだということでした。

実際に存在しないものをどのようにデザインするのですか?

まず、様々な種類のレーシングカーやスピードの速い乗り物の録音を使って、現実世界のレイヤーを作り始めました。合成音は大好きなのですが、SFでの100%の合成音には満足できません。合成音をオーガニックで現実感のあるサウンドとレイヤーして、もっと複雑でハイブリッドな音を作り、 あたかも現実に存在しているかのように感じるサウンドを生み出すのです。

私は、マシンにパワーとスピード感を与えることを目標に掲げ、 電動レーシングカーから戦闘機、宇宙ロケットまで、様々なプロトタイプをデザインしました。このプロトタイプのショートビデオでは、ゲームの中で使われたサウンドを聴くことができますが、同時に、サウンドデザインに使用した元素材も確認できます。

このプロトタイプには十分すぎるくらいのサウンドがありますが、それでもまだ、何か大きな要素が足りていませんでした。アイデンティティーとパワーに満ちた、あの唸るようなエンジンのトーンが足りていなかったのです!


どうやってその唸りを加えたのですか?

理想の世界なら、時間をたっぷり使って、パワフルな乗り物から動物や自然音のようなオーガニックでエキゾチックな要素まで、実世界から音を探そうとしたはずです。 でも現実には、このレイヤーの解決策を見つけるまでに1週間しかありませんでした。締切までに非常に限られた時間しかなかったのです。

ここで重要なのは、ゲームでは、プレイヤーのインタラクションが音をコントロールするということです。満足感のある話ですが、同時に、サウンドデザイナーにとっては厳しい課題です。ゲームの中ではエディットに頼れないので、迫力のあるサウンドを再利用することは不可能です。エンジンが絶えず回っていたり、ギアが上がり続けたりするようなトリックでプレイヤーを誤魔化すことはできません。エンジン音、特にピッチ変調に関しては、非常に特殊な方法で反応する必要があります。 このことが多くの制約を加え、リスクを取る時間もなかったので、シンセサイザーを使うことに決めました。シンセサイザーなら特徴のあるSFエンジンを設計し、ピッチの動きも完全に制御できると思ったのです。

まず家でAccess Virus TIをいじることから始めて、どんなタイプのシンセシス、フィルター、エフェクト、プロセスが未来のエンジン音にふさわしいか考え巡らせました。いろいろ実験した後、職場でのサウンドデザインにはどのツールが最適なのかも考えなければなりませんでした。また、マシンごとに異なるエンジン音を作る必要があるため、チーム全員がその音に取り組むことができるという点も重要でした。そこで私たちはMASSIVEを使うことに決めました。チームのみんながKOMPLETEを持っていて、MASSIVEなら必要な機能がすべて揃っていたからです。

最初のパッチはどうやってデザインしましたか?

まずは、ゲームの中で最初の選択肢となるFeisarチームのエンジン音からデザインしました。とても人気のある、バランスのとれたマシンです。きっと厄介なことになると予測していたのですが、なんと10分でパッチができてしまいました! 下の動画では、MASSIVEでそのサウンドをどうやって作ったか詳細に解説しています。

サウンドデザインが終わると、次はどのような作業が待っていますか?

素材をゲームエンジン用にレンダリングしなければなりません。MASSIVE上で速度を制御するためのマクロを設定し、そのマクロの値を変更しつつループをレンダリングするだけで書き出しは簡単に完了します。Reaperでこれをオートメーション化しましたが、下のスクリーンショット見てもらえれば、10%づつ増加している様子がわかります。

ゲームのマスターセッションでは、状況がさらに複雑になります。下のスクリーンショットでは、シンセでデザインした各マシンの音色のアセットを見ることができます。DAWにReaperを使った理由は、多数のアセットを持つ巨大なセッションの管理に優れていて、リピートやエクスポートがやりやすいからです。

ゲームでは最終的にどのようなサウンドになりますか?

これがDAWからエクスポートされ、ゲームエンジンであるWwiseにインポートされたアセットです。それぞれのサウンドファイルの間にクロスフェードが見えますが、これがマシンの異なる速度を表しています。

ゲームはインタラクティブなもので、ゲーム内でのプレイヤーの行動がサウンドに影響を与えます。ゲームエンジンがこれを管理し、作成したアセットを取り出し、EQとエフェクトを使って、最終サウンドを作り上げます。

Wwiseでは大まかに次のような処理が行われています。

  • 数多くのEQ(カメラの視点、ミックス状況、加速、速度、スロットル、傾斜、高さ、ドップラーとリンク)
  • ディストーション (加速、速度、スロットル、傾斜、エアブレーキとリンク)
  • リバーブ(ゲーム内の環境とリンク)
  • トレモロ (主に加速、ドップラーとリンク) これがおそらく最も重要なエフェクト
  • ピッチとボリュームの変調(物理的なものやミックスなど、ゲーム内で利用可能なすべてのパラメーターとリンク)

つまり、マシンが加速すると、アセットのボリュームとピッチが加速パラメーターと速度パラメーターによって変調され、そこに、MASSIVEでデザインしたループのクロスフェードが組み合わさることになります。

下のビデオは、ゲームに登場するAG-Systemsが加速する際のサウンドです。

MASSIVEの無償ダウンロードはこちら

 

photos: Kristina Sälgvik

MASSIVEはNative Instruments GmbHにより全面的に設計・開発されたものです。Massiveという単独の名称については、Massive Audio Inc, USAの登録商標です。

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