Carlos Rafael Riveraはエミー賞受賞歴のある作曲家として映画やテレビの劇伴作りをするほか、教育界でも輝かしい経歴を持っている。過去の教え子であり、長年の監督仲間でもあるScott Frankとは映画A Walk Among the TombstonesやNetflixのウェスタンドラマGodlessを通じてその仲をより深めた。彼らの最新TVプロジェクトであるNetflixのThe Queen’s Gambitは、デリケートなテーマでありながらファンが番組の魅力を発信し続けた結果、一世を風靡する大ヒット番組となった。尚、この作品はチェスの神童の人生通して自己制御や中毒などのテーマについて描いている。
以下の解説動画”CarlosがTVシリーズで使用したサウンドパレットについて”を見てから、記事を読み進めてほしい。コロナ環境下での制作について、 NOIRE, ALICIA’S KEYS, その他KONTAKTライブラリをどのようにサウンドトラック制作に使用したのかについて語ってもらった。
やぁ、Carlos。チェスにどう音楽をあてたんだ?
僕もこの仕事の依頼が来た時に、まず自問したよ!音楽以前に、この作品テーマでお客さんに興味をもってもらえるのか?それってどんなピッチミーティングなんだ?まずディレクターのScott Frankに制作許可が下りたことが信じられないね。Scottは作品について説明をする時、「天才の代償」についての話だと言うけど、自分は常にこの物語がどのような調性感で成り立つのか、ということを気にかけていた。ディレクターやプロデューサー陣は抽象的な表現をするのが大好きな人達だから、作曲家はそれを上手く解釈しなくてはならないんだ、特に制作の初期段階で受ける指示は分かりにくいことが多いけどね。
なぜこんなにもピアノを使用しているのか、説明して頂けますか?
Scottと作品コンセプトについて話をした時、元々は全てピアノで欲しいと言われていたんだ。音楽の作り始めはまず、ピアノをクワイアに見立てて「声部」を分ける形で書いていた。第一話の制作にはとても時間がかかったよ、ピアノソロがとにかく多かった。最初のラフカットは約2時間ほどの長さで、音楽も均等に散りばめられていたんだけど、編集で映像が短くなるにつれて音楽の密度が濃くなりすぎてしまった。その時にピアノソロのみでは成り立たないことに気がついて、サウンドパレットを広げることになった。一つの転換点となったのはBennyとの対決シーンで、テーマを意識した曲作りよりも、文脈に応じた曲作りが重要だと気付いたことだね。
どのピアノを使用しましたか?
RadioheadのMotion Picture Soundtrackは自分のお気に入りなんだけど、曲の半分はほぼハルモニウムの機械的なノイズで出来ているんだ。このレコードが持っている手触りや触感には強く影響されたね。Jonny GreenwoodのPhantom Threadサウンドトラックに含まれるピアノエフェクトにも強く影響されていたから、Native InstrumentsのNoireの中にあるParticles Engineを見つけた時は自分のスタジオでも試さなきゃ、と思ったね。ただNoireのピアノは音色が暖かすぎたからもう少し明るさを出したかったんだけど、人工的にEQでどうこう、ということはしたくなかった。逆にAlicia’s Keysはこれまでにもたくさん使用していて、明るさがあることを知っていた。そこで思いついたのはこの二つの音源を混ぜることで、そこで魔法が起きたんだ。サンプルライブラリから学べることはたくさんあるね。ライブラリの製作者が手間暇をかけて作っている分、ユーザーも時間をかけて中身を探る価値がある。
ピアノ以外の編成はどのような感じですか?
質問メールを多くもらったよ、ピアノとパーカッションについてなんだけど、シェーカーか何かを使用しているんじゃないかと予想されてね。実際、パーカッションに聴こえるものはほとんどNoireで作ったものなんだ。設定はTONAL MALLETを選んで、Particles EngineのモードをAROUND AN OCTAVEにした。他のライブラリも使用してはいるんだけどね、Kinetic MetalやAction Stringsのシーケンスとか。Spitfire Audioの中にも良いものがいくつかあったから、それも使用している。オーケストレーターのJeremy Levyは大変だったと思うよ、自分がこのようにパッチを混ぜたり、複雑な曲を渡したりしたからね。
アレンジにおけるアドバイスは何かありますか?
多くの作曲家がテンプレート使用しているのをよく映像で見かけていて、自分も同じようにできたらと思うんだけど、どうやら自分には適していないみたいなんだ。だから自分はたくさんのチャンネルで異なる設定のピアノを立ち上げて、MIDIデータをコピー&ペーストしていく。きれいなやり方とは言えないけど、ありがたいことにKontaktは負荷が少なく感じるからそれが一番楽な方法なんだ。それぞれのトラックのタイミングや設定は異なるようにしてね。この方法だと個々のパートに対してのオートメーションコントロールが効くんだ、自分はいつも手書きで書き込んでる。
エフェクトは何か足していますか?
エフェクトの使い方には変化があったんだ。昔の曲ではたくさんかけていたよ、個々のチャンネルやマスターバスにもね。最近の曲ではEQとリバーブ以外はほぼ外していて、マスターバスにもほとんど何もかけていない。リバーブEQについては音を濁らせないためにたくさん勉強したんだけど、すっきりとさせるためにLogicの Space Designerを使用して200Hzから1kHzの中音域を削っている。
COVID-19は制作にどのように影響しましたか?
パンデミックが深刻になるにつれて、生録音のセッションが行えなくなるんじゃないかという心配はあったね。その事態を想定して、打ち込みの質をとても短期間で上げなくてはいけなかったんだ、質を75%から95%にするイメージかな。すばらしい作曲家であるDavid StalやAsuka Itoの手も借りたよ。彼らの助けがなければ曲の質は今の半分以下になっていたと思う。このような助け合いは作曲家の間でよくあることで、お互いに学び会えることがたくさんあるよ。
ではコラボレーションが鍵なんですね?
まさしく。合理性のためには同じDAWを使用していることが重要だね。僕らは皆Logicを使用している。基本的に自分が最終調整を行うから、例えばDavidが使用している音源を僕が持っていなかったら、MIDIをもらって作り直すんだ。こうやってMIDIがお互いを行き来するにつれて、曲が育ち進化していく。全く同じ設定環境で作業しているわけではないから、実際の作業量は増えるんだ、特に納品データに関してはね。例えば最終ミックス段階でAsukaから送られてきたUna Cordaのステムを再生していた時、何か違和感があったんだけど、原因はすぐには分からなかった。結局たった一つの設定違いが原因で、20曲ほどの修正が必要になったんだ。
レコーディングはどのように進めましたか?
実を言うと、これまでに一度も現場で生のオーケストラを指揮した経験はなくて、リモートでしか録音に参加したことがなかった。今回はSource Connectを使用したんだけど、ログインするだけで奏者の演奏と音楽が聴けるんだ。Budapest Art Orchestraとは何度か仕事をしているけど、参加者がそれぞれ違う都市からというのは初めてだった。録音は円滑だったよ。
このサウンドトラックがこれほどの注目を集めると思っていましたか?
リリースされたこと自体が奇跡だし、世間の反応にもとても驚いているよ。Godlessの作曲をした時、Netflixはちょうどオリジナルコンテンツを作り始めた頃で、その意識は薄かったと思う。だから彼らがサウンドトラックのアルバムをリリースすると決めた時は人生で一番喜んだ瞬間だった。手に取れる商品にはならなかったけど、自分にとって形式はどうでも良いことで、とにかくそれがリリースされたということに意味があり、価値があることだったんだ。経歴のためなどではなく、あくまで個人的な事として。今自分は作曲家として注目されていることは認識しているけど、数ヶ月後には興味を持たれなくなることも理解している。そんな例を見てきたからね。だからこそ音楽がリリースされたことはとても意味のあることなんだ。
Netflixの番組で仕事をもらう秘訣はなんですか?
僕はただ運良くこの仕事を貰ったんだ、17年前にScott Frankのギター講師をしていたきっかけでね。だからあまり参考になる例ではないと思う。でも、誰かに教えるというのはおすすめするよ、同じ道を進もうとしている人たちと出会うきっかけになるからね。出会いといえばネットワーク作りのイベントに顔を出すのも重要なんだけど、君の成した仕事が一番の声となり、プロモーションとなることを分かって欲しい。きっかけは本当にいつどこからやってくるのか分からない。正直、自分は仕事を得るためでなければソーシャルメディアはやってないよ。僕のように心からクリエイター気質な奴は喜んで何時間もコンピューターの前に座るものさ…好きでやっているからね!
CarlosのThe Queen’s Gambitのスコアは主な配信プラットフォームで入手可能。彼の最新のプロジェクトはcarlosrafaelrivera.comでチェック。