このシリーズではプロデューサー、DJ、レーベルの代表、そしてミックスエンジニアであるKevin McHughが、独自の視点で音楽プロデューサーが自身の技術を輝かしいキャリアにするための方法を探る。その中で彼は各分野の成功者と話し合い、聞き出した貴重な経験談を実用的なアドバイスに変えて、音楽作りを夢見る人々にお届けする。今回、彼はミキシングとマスタリングのエンジニア達と話し合い、どのように仕事を始めたのか、何が成功に役立ったのか、そして同じ道を志す人達がどうすれば同じ足跡を辿れるのかについて教えてもらった。
“情熱を仕事にしよう”というシリーズ記事の今作は、私にとって大事なテーマであるミキシングとマスタリングについて取り上げる。自身のトラックプロデュースやミキシング、そしてクラブでのテスト用に初期のデモをマスタリングするなどの12年間を経て、2017年から友達や同僚のためにもサービス提供をするようになった。頻繁な移動から逃れるためにも、開始1年の間にValence Studiosというビジネスを始めた。それはインスピレーション、挑戦、新しい交友関係を築くための大きな源となっている。今回はシリーズの目的である、プロデューサーやミュージシャンが音楽を仕事にして生活するために必要な技術をどのように培って行けば良いのかを見せる、という趣旨を完璧に捉えているだろう。
この記事のために僕は一流のエンジニア達に声をかけた。数名は個人的に色んな事を教えてもらったことのある人達で、そして皆、僕が長年アーティストやプロとしてその仕事を尊敬してきた人達だ。彼らの話を伺う前に、彼らの仕事について少し紹介したい。
Bob Westonはアメリカのインディペンデントミュージック界の真のヒーローだ。彼は元The Volcano Sunsのメンバーであり、後にSteve AlbiniとTodd Trainerと共にShellacに参加、そして再結成したMission of Burmaに参加した。彼が2007年に立ち上げたChicago Mastering Serviceは今では組織化し、数え切れないほどのアンダーグラウンドロック、ダンスアーティスト達のレコードを仕上げてきた。BobはLCD Soundsystem, Slint, Karen O & Dangermouse, Sleep, Jessy Lanza, Junior Boys, Big Black, Cold Cave, Shit Robotや伝説的なElvis Presley, Simon & Garfunkel, そしてMichael Jacksonなどの影響力の高いレコードをマスタリングしてきた。
Ike Iloegbuはニューヨーク在住のプロデューサー兼エンジニアで、I2 Masteringの所有、運営をしている。また、IkeはBas5d名義でのダブステップ活動と平行してエンジニアの仕事を行っている。彼がエンジニアとして関わったBlake Allen, Beyond Sonny, Mr Jukeboxx, Kid Q, OG CA$H, Jahari Kweli, James Stovalらとの作品はトップチャートを飾っている。
Heba Kadryはニューヨーク州ブルックリン在住のマスタリングエンジニアで、様々なジャンルの最前線にいる人たちと仕事をしてきた。エジプト生まれの彼女はカイロにある広告代理店のJ Walter Thompsonでジングルを作曲したことからオーディオの世界に足を踏み入れた。広告代理店で2年務めた後、アメリカに引っ越してオーディオエンジニアリングの腕を最初はオハイオ州のレコーディングワークショップ、後にテキサス州ヒューストンのSugar Hills Studiosで磨いた。そして2007年にはマスタリングに専念するためにニューヨーク市に移住し、ブルックリンでHeba Kadry masteringの運営を始める。彼女は坂本龍一やBjörkなどのエレクトロニックミュージックの伝説や、Slowdive, serpentwithfeet, Deerhunter, Yaeji, Diamanda Galás, Holly Herndonなど、数え切れないほどのアーティスト達と幅広く仕事している。
David Floresはテクノの制作で使用しているTruncateとAudio Injectionの名前の方が良く知られているだろう。彼の作品は、彼自身のレーベルや、Modeselektorの伝説的インプリント「50 Weapons」など、テクノやハウスの主要なDJのセットで必ずと言っていいほど使われている。彼が最近立ち上げたTruncate mixesはダンスミュージックのプロデューサーのためのミキシングサービスで、彼らの音をダンスフロアでよりインパクトのあるサウンドにすることを目的にしている。
Tim Xavierはプロデューサー、DJの両面でテクノの安定した勢力だ。彼はベルリンにあるManmade Masteringの創設者であり、共同所有者でもある。彼のレーベルであるFacetofaceと伝説的なLTD400は彼をアーティストの道に招き、Manmadeでのマスタリング仕事は彼をダンスミュージック界の重臣であるTresor, Ghostly International, Ostgut Ton, Minus, Kompakt, M-Plant, !K7らのためにマスタリングや、ラッカーの切り出しをするきっかけを作った。ManmadeはTimと彼のパートナーであるMike Grinserを主体としたベルリンのエレクトロニックミュージックシーンの中心的存在だ。
ミュージシャンという立場から、どういった流れで他のアーティストの音楽をエンジニアするようになりましたか?
Bob Weston: 小学生の頃から、音楽を演奏したい、裏方の技術者になりたい、という2つの本能的な欲求があったんだ。僕は学校では常にAVや機械のオタクだったよ。大学では電気工学を勉強していて、キャンパスのラジオステーションでは多くの学部上級生が下級生にそこにある機材の使い方やメンテナンス、修正、設置方法を教えてくれたんだ。そして僕らも上級生になったら下級生に教える、というサイクルを繰り返した。僕はこれらの機械的な学びと平行して、学校の音楽プログラムにもとても深く関わっていたんだ。小学生の頃にはThe Partridge FamilyとThe Monkeesにはまっていた。中学生の時にはKissとAC/DCに。そして高校生の時にはLed ZeppelinとThe Whoにね。
大学ではとてもバンドに入りたかったんだ。ラジオステーションの友人達は一緒に演奏をし始めていて、音楽の録音方法について探り始めていた。だからラジオステーションは僕の音楽に対する情熱と、技術オタクとしての情熱を融合させてくれる場所だったんだ。
僕のバンドがプロフェッショナルなスタジオレコーディングを行った時、僕はエンジニア達の気をおかしくしてしまうくらい、たくさんの質問をした。次第に僕は友人のバンドなどをレコーディングさせてもらえるだけの技術を身に着けた。ローカルの音楽やアートのコミュニティの一部になること、ミュージシャンと技術者になりたいという欲求と素質を持つことで全てが形になり始めたんだ。
Ike Iloegbu: 僕が初めて使用した楽器はWindows XPのデスクトップコンピューターで、12歳の時だった。クレイジーに聞こえるかもしれないけど、それが真実なんだ。中学1年生から高校1年生までの間はFruity Loops 4のデモ版で音楽を書いていたよ。僕はCalifoneのカセットレコードプレイヤーに、音楽の頭から終わりまでのプレイバックを録音する形で書き出しをしていた。高校1年生の夏の終わりには靴箱がFruity Loops 4で制作したビートのカセットテープで溢れていたよ。友達や家族の助けを借りて、2008年には親の家の地下に最初のスタジオを作ったんだ。これがオーディオエンジニアとして音楽業界で仕事する始まりとなった。若い時はフットボールもしていたから、学校に通うことはしっかりとしたキャリアを積む妨げになっていた。でも2016年にデルタ州立大学を卒業して、Entertainment Music Studiesの学士を取得してから全ては一新した。そのプログラムで一緒だったアーティストや、街の人達のためにミキシングやマスタリングをし始めたんだ。デルタは小さな街だから、僕のサービスはすぐに広まった。卒業後にニューヨークに戻ってからもそのサービスは続けていて、幸いなことに今でもその音楽の仕事を続けているよ。
Heba Kadry: 2001年の時、私はエジプトのカイロにある広告代理店でコマーシャルのジングルを作る仕事をしていたの。仕事として一番音楽に近いものだった。当時、私がいた場所の文化的に、音楽を仕事にするというのはあまり良い顔をされるものではなかったの。でもその広告会社でジングルの仕事をすることになったおかげで、カイロのダウンタウンにある素敵なレコーディングスタジオの世界に触れることができた。オーディオの道を進みたいという気持ちはすぐに芽生えたんだけど、何をしたら良いのか分からなかったわ。当時はまだYouTubeもない時代で、今のようにオンラインで情報を得るのが難しかったの。その頃、中東にはオーディオの学校もなかった。だから旅に出る必要があったのよ。アメリカに着いてからはオハイオ州で4ヶ月の短期プログラムを受けて、学校が終わったら長くて苦しい無収入のインターンシップをレコーディングスタジオでしたわ。最終的にはニューヨークに引っ越して、街にあるマスタリング施設のインターンから始めて、少しずつステップアップしていった。時間が作れる時には深夜のマスタリングルームに忍び込んで、マスタリングの独学をしたわ。マスタリングルームに立ち入れるようになるまでの道のりは他のエンジニア分野よりも専門的な分時間がかかるし、レコーディング、ミキシングスタジオでは一般入門レベルのアシスタント、インターンよりもマスタリングアシスタントの方が遥かに需要が低いの。マスタリングは制作過程で言うとプロダクション前の最後の段階だから、それだけ強いプレッシャーがかかるし、ミスが許されないからとても細かな部分に注意しないといけないわ。これらの理由から、見習いレベルの人間がマスタリングを任されるのはとても稀だわ。
大きな賭けで2013年にフリーランスになってからやっと私のマスタリングのキャリアが始まって、この仕事に専念できるようになったの。ある意味、この長い下積みが私をより良いマスタリングエンジニアにしてくれたのかもしれない。レコーディング、ミキシング、マスタリングはもちろん、スタジオ運営、スケジュール管理、請求書の書き方、保険、給与、クライアントとのプロとしての接し方まで、スタジオ業務に関わる全てを経験を得たことでね。その全てが重要なの。フリーランスの場合、優れたマスタリングエンジニアでもビジネス面がダメだと成り立たないのよ。
David Flores: パンデミックのせいで仕事が完全に無くなってしまって、新たな収入源を見つけなきゃいけなかったんだ。そこで自分の経験を踏まえて、他のアーティストのためにミキシングをしてみようと思ったんだよ。
Tim Xavier: 1997年からレイブのDJを始めたり、アウトボードのシンセやドラムマシンに触れるようになったんだ。DJセットを直接Sound Forgeに録音出来ることにも気付いた。録音やエディットできることもすぐに分かってきて、学びながらやっていたよ。次第にローカルのDJ達が僕にCDフォーマットやトラックマーク(DDPフォーマット)の仕上げをしてほしいと依頼して来るようになった。シカゴには2000年の夏に引っ越したよ。
シカゴに移ってからはテクノ/エレクトロニックミュージックの制作にとても頑張って打ち込んだよ。Charles Little, Frankie Vega, Andrei Morant, Angel Alanisなどの素晴らしい人達からの助けもあり、2003年の終わりには22曲入りのテクノ作品をリリースすることができた。彼らがいなければ成し得なかったね。シカゴ中を駆け回ってテクノのEPやリミックスを仕上げている中、自分自身で旋盤を所有し、マスタリングビジネスを運営したいと夢見るようになったんだ。2004年にはニューヨーク州のブルックリンに引っ越して、ローカルのカッティングエンジニアであり、ラガジャングルで有名なJacky Murdaの元で見習いをしたよ。この幸運な機会を得て、僕はJack’s Scullyの旋盤を使用したレコードの切り出し方であったり、マスターのラッカーディスクに音楽を変換する際にかかる制限などについて学んだんだ。
きつい仕事と眠れぬ夜を1年間過ごした後、Intergroove(ニューヨーク支社)の安定したクラインとを獲得し、Deitrich SchonenmanのComplete Distributionサービスのほぼ全てのカタログをカッティングしていたよ。13年後、僕はマスタリングとカッティングサービスの会社であるManmade Masteringをベルリンで僕のビジネスパートナーであるMike Grinserと運営している。
Heba Kadryのマスタリングセットアップ。
クライアントが求める音と、自分が最高だと思う音とはどのようにバランスを取っていますか?また、どれくらいの頻度でその2つが噛み合わないことがありますか?
Bob Weston: マスタリングはコラボレーションだ。理想的なケースは、僕に依頼してきたバンドが僕のマスタリングしてきたサウンドを好んだ上で依頼して来てくれていることだね。だから、ほとんどのプロジェクトの場合、始めから同じサウンドを追い求めているよ。僕は1回目のマスタリングでは彼らのミックスや事前リクエストがあればそれを踏まえた上で、自分がどのようなサウンドであるべきかを基準に作る。それでバンド側が僕のサウンドの方向性が気に入らなかったら、フィードバックやメモをもらって、マスタリングの再調整をする。彼らが満足するまで、そのやり取りを続けるんだ。
少しの修正で済むこともあって、その場合はバンドが求めているサウンドと、僕の理想とするサウンドが一致したということになるね。修正が多い場合は、僕がベストだと思うサウンドから修正を重ねるにつれ、クライアントが求めるサウンドに近づけていく。最終的には彼らに完全に喜んでもらわないといけないんだ。本当に稀だけど、完成したマスタリングが自分的に好きになれないことがある。でも僕の仕事はアーティストが求める音のマスターを作ることなんだ。だからこういうチャレンジがこの作業を面白くしてくれるし、新しいことを試したり、新たな方法を学ばせてくれたりする。そしてよく自分自身が好きでは無いだろうと思い込んでいたような新しいサウンドを感謝させてくれたりするんだ。
僕が個人的にバンドが求めているサウンドが好きじゃなくても、彼らの好みや欲求は僕のフィルターを通して完成したマスターに現れるんだ。そしてそのマスターがエンジニアの求める音にならなかったり、関わった部分がとても微量だったとしても、そこには必ずエンジニアの美学が多少なりとも含まれるんだ。
Ike Iloegbu: 自分はクライアントのクリエイティブな体の中の血管だと思っている。だから、僕はクライアントの要求であれば何でも試す。だけど、その要求が技術的に矛盾するようなアイデアであれば、それがどのように音楽に悪影響を及ぼす可能性があるかについて説明するよ。控え目に言って、自分が間違っていたこともあれば、とてつもなく間違っていたこともある。正直、そういう時が最高な瞬間なんだ、クライアントにとっても自分にとっても驚きがあるからね。「そのアイデアは絶対に上手くいくとは思わなかった!」という瞬間はためになるよ、将来の仕事で使えるテクニックが増えるからね。
クライントは満足しているけど自分が納得行かないケースの場合、僕のクライアントの多くは僕の音に対する耳と意見を尊重してくれるんだ。クライアントの代弁は出来ないけど、僕がクライアントの想像力をとても大事にしていることを、彼らも分かってくれているようなんだ。僕がクライアントとプロジェクトの核となるサウンド感について何度もやり取りをしないといけないような問題は起こしたことがないよ。
Heba Kadry: それには、沢山のコミュニケーションが重要よ。よくあるのは、何の情報もなしにミックスを送ってきて、素晴らしいマスターが返ってくることを期待する人がいるけれど、それは私の仕事のやり方ではないの。もちろん私達の仕事には、プロダクションパーツの作成やクオリティーコントロールなど、技術的な要素が大きく関わっているけど、レコードの実際のマスタリングは、ミックスと同様に非常にクリエイティブなものよ。私はマスタリングをただの技術的な過程ではなく、あなたのレコードや将来のレコードをより良くするための協力的で創造的な取り組みに出来たらと思っているわ。私にとってコラボレーションはとても大事で、一番楽しんでいる部分なの。
そうね、アーティストの求める方向性が私のそれと同じではない時はあるけど、そのレコードはエンジニアのものではなく、アーティストのものであることを忘れてはいけないわ。もしも私がなぜ違う風に思うのか、というのを指摘する隙があれば、実際に私が考えるバージョンのマスターも作って見せてみる。こういうデリケートな問題は戦略的にアプローチしたいから、私が考える方向とアーティストが考える方向の2つのマスターを渡して、彼らにABテストをしてもらうの。相手が必要な情報を持った上で判断できるようにね。それでもアーティストが自身の方向性を好んだら、エンジニアはそろそろエゴを引き出しにしまって、アーティストに従った方が良いわね。
場合によっては何年も前に作ったマスターを聴いていて、当時は別の方向性の方が正しいと思っていたものでも、いや、これが正しい選択だったんだ、って気付かされることもある。それは私の意見が無意味という意味ではなく、ただエンジニアとして、いつクライアントを喜ばせるために舵を切って作業すべきかを知らないといけないのよ。自分の考えに執着することで問題は解決しないし、相手をマスタリングの過程でイライラさせてしまうわ。柔軟さや意見を交わし合うために余裕は必要よ。
David Flores: 僕は自分の曲だったらどうミックスしてほしいか、という事を考えてミックスをアプローチするよ。その後にクライアントと密接にやり取りをして、彼らが要求する変更や調整を反映させていく。反対意見がある時は、クライアントと相談して、一緒に最高な結果を出すようにするよ。
Tim Xavier: 正直、まずは自分のやり方で進めてみる。医者と同じで、患者に応じてケアを使い分けないといけないんだ。だって、普通の風邪の患者に対して化学療法を行わないよね。つまり、僕は素材を診断して、必要な処置を決めて、マスターを作り、納品時に祈るんだ。修正のリクエストが来た場合は、クライアントの要望に答えながらも、相手を「教育」すべき部分があればそうする。オーディオのセラピストとエンジニアの2つの役割をしている感じだね。最終的な目標はクライアントの信頼を得ることなんだ。反対意見がいつも以上に強い場合は、謙虚になって自身に問いかける必要があるのかもしれない、「自分はどこで過補償になっていて、どうしたらそのやり方を改善できるのか」って。学びは尽きないね。
Ike Iloegbuのスタジオ機材の一部。
多くのエンジニアはその人のサウンドやスタイルで有名になります。あなたは特定のジャンルで認知されていると思いますか?また、それを窮屈に感じますか?まだ関わったことのないジャンルで、仕事してみたいと思いますか?
Bob Weston: 僕は幸運なことに、複数のジャンルで誇りを持てる仕事をさせてもらった。マスタリングを始めた頃は、インディーのロックギターバンドからしか依頼が来ないんじゃないかって少し不安だったんだ。でもマスタリングスタジオを始めた当初からエレクトロミュージック(ダンス・ミュージックや実験的エレクトロニックミュージック)、ジャズ、アコースティックミュージック、アバンギャルドクラシック、マーチングバンド、フォーク、バグパイプ(!)などと共に、ポップ、インディーロック、メタル、ガレージロック、ストーナーロック、ドュームメタルなどを自費出版からメジャーレーベルまで、様々なレーベル形態の仕事をさせてもらえたんだ。僕がマスタリングしたケイジャンミュージックのアルバムがグラミー賞を受賞したこともあるよ。これだけ多様なプロジェクトに関われるのはとても楽しいことだよ。とても満たされるし、飽きることがない。特にエレクトロニックミュージックとダンスミュージックの仕事が好きで、それらの仕事が増えないかなっていつも願ってるよ。クラシック音楽ももっとやりたいんだけど、結構閉じた分野だから、その中に入るのは難しいんだ。
Ike Iloegbu: 僕がオーディオエンジニアとしてキャリアを継続してこれた成功の秘訣は、自分の「精神的な自由さ」だと思う。僕には音楽の仕事がしたい、という想いしかない。そしてどんなジャンルに飛び込んでも、良い結果を出せる自信があるよ。2020年に僕がミックスしたBlake AllenのSonatasというアルバムはビルボードで4位、iTunesで1位となったんだけど、そのミックス作業の合間にはがっつりとしたダブステップの制作をしていたよ。
Heba Kadry: 私は1つのジャンルのみで仕事するのは絶対に嫌、つまらないと思うわ。私はエレクトロニックミュージックでよく知られていると思うけど、基本的に特定のジャンルに追いやられるのは嫌いなの。自分には幅広い音楽的なパレットがあって、遠く離れた音楽ジャンルのミュージシャン、エンジニア、プロデューサーを多く知ってるから、入ってくる仕事は常に様々よ。とても気が引き締まるわ。この仕事の一番良い所は、本来気にかけることのないレコードの仕事をして、徐々にその仕事を通して、私が彼らのファンになることなの。すごく興奮する!レコードを漁る感覚に似ているかもしれないわ。結局の所、私は音楽ファンで、一緒に仕事する人達が大好き。私は1人で仕事しているわけではないし、人との関わりや、それを囲うコミュニティの雰囲気が好きなの。その人達を喜ばせる為に自分に出来る最大限の仕事をしようと思わせてくれる。それに加えて、こんなに多くの素晴らしいアーティストの音楽を経験できる特権は、私がどれだけ恵まれているのかを再確認させてくれるわ。これが当然だなんて1秒たりとも思ったことはないし、 どれだけイライラしたり、落ち込んだりしていても、スタジオに入ってレコードを取り出せば、そんな気分は全部吹き飛ぶわ。ありきたりに聞こえるかもしれないけど、本当よ。
David Flores: そうだね、僕は確実にテクノミュージックで知られていて、リリースしてきた作品はほぼテクノのジャンルだから、アーティスト達は僕のジャンルにおける知識と経験を求めてミックスの依頼をして来るんだと思うよ。自分が知られていないジャンルのミックスも挑戦してみたいから、少し制限的には感じているね。何でもミックスできる良い耳は持っていると思うんだ。もっとボーカルのあったり、シンセ以外の楽器があるようなジャンルにトライしたいね。
Tim Xavier: 僕なりのサウンドはあると言われたことがあるよ。この仕事は個人のスタイルとプロセスを組み合わせることであり、それに加えて、デジタルオーディオの基本的な制限の理解や、一般的な再生機器でどのように聴こえるかを知ることなんだと思う。スピーカーは常にストレスを受けていて、そのストレスを軽減させるのか、もしくはある点の圧をを強めるのか、という判断はマスターを活かしも殺しもする。それらの制限や手加減を知ることでマスター制作のパフォーマンスは向上するよ。僕は主にエレクトロミュージックの仕事をしているけど、ジャズ、ロック、レゲエのマスターやリマスターをしたこともある。最近、テクノレコードのカッティング以外では、長いアルバムの面をカッティングしてるんだ。片面最長25分でとても困難ではあるけど、アコースティックと忠実性の探求と、直径12インチの円盤から可能な限りのデシベルを絞り出す、という2つの対立する要素と向き合っているよ。
Bob WestonのChicago Mastering Serviceにあるカッティングマシーン。
ミキシングやマスタリングのサービスを仲間に提供できるようなスキルを身につけたいと考えているミュージシャンにアドバイスをお願いします。
Bob Weston: 僕が知っている最高のエンジニア達は皆ミュージシャンでもあり、バンドやアンサンブルで演奏したり、していた人達だね。まずはバンドに入るのが良いスタート地点になると思うよ。もしも仲間のためにミックスやマスタリングがしたいなら、すぐに飛び込んで始めると良いよ、そこで学べるから。本を読んだり、エンジニアに質問をしたり、それを友達や仲間で試したりしてね。そこで技術が身に付く。もちろん、試させてもらっている内は無償でやるように!君は彼らを利用して技術を磨かせてもらう代わりに、彼らは無償でエンジニアリングをしてもらう。それが取引さ、そうして君の音楽やアートのコミュニティが繁栄していくんだ。
僕がもう1つ気付いたのは、最高のエンジニアの多くは様々な仕事の経験をしていて、それにより色んな事がこなせる、深い知識と問題解決能を持ったエンジニアになっている。様々な仕事というのは、例えば、クラブやツアーのライブサウンド、ツアーマネージャー、ロッククラブマネージャー、リモートレコーディング、スタジオレコーディングとミキシング、ラジオまたはTV放送のオーディオ、ビデオエンジニアリング、電子機器のデザインまたは修理、コンピュータープログラミング、フィルムプロジェクションと展示、DJ、楽器修理、自宅オーディオ/ビジュアルの設置、レコーディングスタジオの設立、配線、設置、ツアーミュージシャン、レコードレーベルのプロダクションマネージャー、映画やTVの制作スタッフ、撮影スタジオ業務、シアターサウンド、証明、ステージ美術などなど…
Ike Iloegbu:耳を鍛えることだね。鍛えるんだ!ピッチ、スケール、インターバルを聴き取る練習をして、何となくではなく、正しく音を処理できるようになるんだ。0.2 dBの違いや、0.5 dBのゲインリダクションを聴き取れるように。これは練習やトレーニングなしでは習得できないことだ。僕はDave MoultonのGolden Earsで訓練したよ。もうサービス終了してしまったから残念なことに直売店はもう存在しないけど、ReverbやeBayでは見つけられるかもしれないね。
Telefunkenが自社のマイクで制作した無償マルチトラックはここからダウンロード。そしてCambridge Music Technologyから提供されたより詳細なマルチトラックのリストはこちら。
Heba Kadry: 私が彼らに訪ねたいのは、マスタリングだけに専念してやって行きたいと思っているかどうかね。中途半端にやった程度では技術は育たないの。最高の仕事をするマスタリングエンジニアは何年も技術、リスニング、機材集め、正確なモニタリング環境の構築などの経験を積み上げて今の地位にいるのよ。
レコードのマスタリングにはレコーディングやミキシングにはない、大きな責任が伴うことに皆気付いてないと思うわ。マスタリングエンジニアは最終的な仕上げを行う立場だから、エラーは絶対に出せないの。絶対によ。マスタリングエンジニアの仕事は、実際のエンジニアリング作業を除けば、多くの問題解決したり、その段階までに見逃されてきた問題を解決したりするの。もしも不出来なマスターをレコード製作所に送り、滅茶苦茶なレコードが出来上がってしまったら、誰かがラッカーの再カッティング代を払わなきゃいけなくなる。またはデジタルのマスターをDSPに送って、それがエンコーディング後のインターサンプルピークエラーだらけだったら、全て自分の責任になるのよ。この仕事には本当に多くのプレッシャーが伴っていて、日々それと上手く付き合いながら、常に良い仕事をしないといけない。エキスパートは重要よ、時間とお金の節約になるからね。
でも、理解を深めるために適切な処置をした部屋と良いモニター環境が欲しいと思うのであれば、プロにマスターしてもらったものを分析すると良いわ。DAWでテンプレートを組んで、あなたの最終ミックスと最終マスターを並べてABテストをするの。それで違いを確認して、マスターを真似たり、出来ればそれ以上のものが作れないかを試したりするのよ。それらのマスターや、商業的にリリースされているアルバムをリファレンスすることで美しく新しい、予測出来ない発見や学びがあるはずよ。あなたの聴く能力も格段に上がるわ。リファレンスして、リファレンスして、リファレンスするの。あなたのマスタリングエンジニアに何をしたのか尋ねて、もしも立ち会いが許されるのならマスタリングセッション中はエンジニアの隣に座り、どのように機材を使っていて、部屋がどのように鳴っているのかを掴み取ろうとしてみて。そうすることで何のツールを使って効率的な仕事をしているかの全体像を掴めるし、この仕事について確実に学べることがあるはずよ。
David Flores: 僕の一番のアドバイスは自分の耳を本当に信頼する事だよ。とんでもなく才能がある、という場合以外は、ミキシングとマスタリングの技術は長年の経験でした身に付かないものだと僕は思ってる。だから急に始めるな、と誰かを落胆させたいわけじゃないけど、自分がアーティストの立場だったら、経験豊富なエンジニアにミックスやマスタリングをしてもらった方が断然気分が良いと思うな。
Tim Xavier: 僕は友人や生徒にはとにかく作品を作り、やることで学んでくれと頼んでいるよ。経験は時間と忍耐から生まれるんだ、本の知識ではある程度しか身に付かない。そして試行錯誤の末に自信が生まれるんだ。ほんの少しのビジョンとノウハウは必ず必要だけど、それさえあれば他は付いてくる。レコードを作り続けなきゃね!