• Eomac + Kyoka = Lena Andersson

    アイルランド人プロデューサーEomacと、日本人アーティストKyokaのコラボレーションプロジェクトに迫る。…

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by Vivian Host

Real Talk: Orchin

デジタルポップの反逆児がフェイクギター、センチメンタルなドラム、ディストーションのかかったシンセ、そして、印象的なポップボーカルを作る秘訣を紹介する

LA在住のプロデューサーのJeremy McLennanは、Tamaryn、Hatchie、Launderといったバンドのギタリストやドラマーとして世界中をツアーしていたが、近頃ではコンピュータソフトウェアで作った奇妙な音にシューゲイザーのエッセンスを加えた新しいスタイルの作品を発表している。ソロプロジェクトであるOrchinでは、90年代のユーロダンスやトランス、繊細なエモ、PCミュージック的なアヴァン・ポップからの影響が混ざりあっていて、2019年にTerrible Recordsからリリースされた「Serene」の中でその多幸感溢れる世界を聞くことができる。このアルバムはThe Faderに「思わず惹きつけられてしまう音のフランケンシュタインのようなアルバム」と評された。

「LAに住んでいて、よくドライブをするんだけど、ドライブ中はいつも音楽を聞いてて、そのことが僕の音楽制作に影響を与えていると思う。なぜなら、いつも、浮かんでる感じとか天空みたいな不思議な空間とか、とても感情的で体から抜け出しそうな感覚が大好きなんだ」とJeremyは語る。そんな雄大で掴むことのできないサウンドを手に入れるために、以前の彼は、Cocteau Twins、My Bloody Valentine、Jesus & Mary Chainといったファズロックの巨匠達がどんなペダルを使っていたかについてリサーチしていたが、最近のOrchinのアプローチはもっとデジタルで伝統から逸脱したものだ。「若い頃は、機材関連のブログを長い時間かけてチェックして『どんなエフェクトを使ってるんだ?』って感じだったけど、機材系のブログには(彼の好きなバンドが使っている)探してるようなペダルは載ってないんだ! 彼らは、近所の楽器屋で売ってる安くて新しい機材を使ってるんだよ。最近A.G. Cookがインタビューでラップトップは新しいフォーク音楽の楽器だって話してたんだけど、まさに今がちょうどそんな感じだよね。つまり、目の前にあるツールを手に取って使うってことで、他の人が今までやっていたことと同じことをやる必要は全然ないんだ。だって、彼らはその時に手に入るものを使っていただけなんだから!」

「前回のアルバムは全曲、ギターで作って、それを録音しただけだった」作曲方法の移り変わりについて、彼は説明する。「新しい曲は全部、エレクトロニックな手法からスタートしてる。まずはループを作って、それを加工したりProToolsのプラグインでランダムなドラムを加えて、その後に、MIDIキーボードを弾いてクオンタイズをかけて、何か面白くて予想外なことがおきないか待つんだ。『ギターの音がシンセのオシレーターみたいにならないかな?』という感じのアプローチを試してるんだよ。シンセサイザーのフィルターやLFOなどで音を加工してるんだけど、本物のギターのように聞こえるけど実はそうじゃないサウンドをコンピュータで作るのが好きなんだ。みんな音を楽器と関連づけて考えていて、楽器はそれぞれ特徴的な音がするよね。だから、その点を利用すると、みんなをびっくりさせるような可能性がたくさんあるし、 そういう奇妙な聴覚的幻覚を作り出すことが好きなんだ」

Real Talkの最新エピソードで、Jeremyは最近リリースした「dRiVe,」のステムについて解説しているが、この曲では、KOMPLETEのMIKRO PRISM、KONTAKTのBeat Em Downキットのパーカッション、RAUMリバーブが、MIDIのギターラインと共にに使われている。今回の記事では、Orchinがアコースティックとデジタルサウンドを融合させた方法、驚くようなパラレルチェーンでのコンプレッションの使い方、そして、印象的なボーカルやドラムを作るための秘訣について紹介している 。

さらに素晴らしいことに、今回Orchinは「dRiVe」のステムを提供してくれた。君だけのリミックスが完成したら、ぜひタグを付けて我々にも教えてほしい!

ステムのダウンロードはこちら

ループから入って行く

この曲は、とてもスタンダードなアコースティックギターのループで始まってる。 ループさせる時、オーディオの繋ぎ目に奇妙で小さなギャップを作ると、倍音やハーモニクスが変な感じにカットされて「ここで繰り返されてるんだ」って意識が引き戻されるような効果が作れるんだ。とても微かで潜在的なものだけどね。それと同時にとてもポップな曲に仕上げたかったから、ナッシュビルチューニングのアコースティックギターをループに重ねた。12弦ギターのようなサウンドになるんだけど、とても繊細でキラキラしたCocteau Twinsのような雰囲気が生まれたよ。ギターをエフェクトなしでマイクを使ってドライに録音したら、箱の中みたいなひどいサウンドになっちゃったから、そこにハーモニックディストーションやEQ、コンプレッションやスプレッダーをパラレルで加えて音を加工して、その後でいい感じのホールリバーブに送ったんだ。

 

ポップを押しつぶす

当時Backstreet BoysやN*Syncをよく聞いてて、バキバキに潰された90年代のMax Martinっぽいサウンドのビートにしたかったんだ。そこでKONTAKTのBeat Em Downのプリセットを使ってドラムのビートを作って、そこにトラップのハットを加えた。今は2020年だから、トラップのハットが入ってなきゃダメだよね(笑)! サンプリングが必要な時はいつもそうなんだけど、ハットはKONTAKTのものを使った。ドラムはbusに送って、少し歪ませるためにローファイなプラグインをかけて、人体モデリングがベースになってるAntaresのTHROATトークボックスプラグインを通した。ボーイズバンドがビートボックスに挑戦してるみたいな感じで、Backstreet Boysの曲っぽくしたかったんだ。自分ではビートボックスがうまくできないからね。フォルマントにはランダムオートメーションをかけて人間らしさを与えたよ。その後は、中域を全部取り出して高域と低域を強調させたり、バスに送ってパラレルでプロセッシングを色々やった。そして最後に、コンプをたくさんかけて、加工していない音と混ぜ合わせるんだ。昼夜関係なしに集中して作業してたね。

 

デジタルドラムに人間味を加える

ドラムをプログラムする時、ベロシティがたくさんあって気が変になっちゃうけど、人工的なサウンドやシーケンスに人間らしさを加える鍵でもあるよね。僕のグリッド上では、全てがきちんと並んでるわけじゃなくて、クオンタイズの濃淡を意識して演奏することで、オーガニックな手触りを与えてるんだ。その他に、かけてるかどうかわからない位少しだけスウィングも加えてる。人間はロボットじゃないから、もし人間が自然な感じでドラムを演奏したら、絶対少しはスウィングがかかるからね。この曲のスナップも、人工的なものとオーガニックなものを融合させてるいい例だね。指を鳴らしてる音を3トラック録音して、そこに909のクラップのサンプルを重ねて、全部busでまとめて大量のリバーブをかけたんだ。

 

ボーカルにインパクトのあるポップな要素を加える

本物のポップソングを作る時みたいに、ボーカルはすごく重要だと思ってる。いい感じのループが見つかったら、そこにボーカルを加えてAuto Tuneに入れるんだ。Auto Tuneを使うのはかっこいい音になるからで、歌が下手だからじゃないよ! リードボーカルは全部だいたい40Hzぐらいでゲートをかけてて、バックグラウンドのノイズを取り除いてる。最初のコーラスまでは、とても狭い周波数帯域のEQにボーカルを通してフィルターがかかったような音にして、その後コーラスが入ってきたら、印象的でハイファイなボーカルになるようにオートメーションでEQを外すんだ。(初めのコーラスまで、ドラムもそうしてる)すごくたくさんのsendを使ってて、ディストーションをかける時には高域や低域のハーモニクスなしで温かみのある中域だけあればいいから、ディストーションと一緒にEQか他のフィルターも使う。コンプレッションは、まずはベースラインにかけてから、次にサブミックスにたくさんかけて、最後に他のサブにダブラーをかけて、ボーカルを広げてる。他には、ハイパスフィルターを16000 Hzぐらいでかけてその少し上でサウンドをブーストさせるって言うテクニックも使ってて、どうしてそうなるかわからないんだけど、サウンドに艶や輝きが加わって、急に普通のボーカルがポップレコードのボーカルサウンドに変わるんだよ。このテクニックはハイパスとハイシェルフがあるEQなら何でも使えるんだけど、フェーズをフリップしないと、コンプレッサーのゲインが変になってうまくいかなかったり、聞こえないぐらい静かになっちゃうんだ。

 

シンセ特有のサウンドを奇妙なものに置き換える

最初はシンセのメロディをJunoで作ってたんだけど、「どれぐらい多くの人々が、アコースティックギターとドラムマシンとJunoのリードサウンドで曲を作ってるのかな?」と考え始めた。それでもっと奇妙なサウンドにしたくなって、プリセットを色々試してる時に、KONTAKTインストゥルメントのKinetic Treatsの中で今回使ったシンセサウンドを見つけた。潰れたドラムサウンドにぴったりの、パーカッシブで水中のようにウェットな音が欲しかったんだ。その音を右にパンニングして、ProToolsのディレイに送って、左にとても短いディレイをかけてスラップバックっぽい感じにした。その後に、EQとコンプレッションをかけて、曲の最後の部分にだけ出てくる別のシンセを加えたんだ。オシレーターみたいなサウンドにしたかったから、1つの音をピッチホイールで動かして作ったんだよ。

 

強く打ち付けるベースを作る

ベースのポイントは音色だね。この曲はとても空間的でオープンに広がっていく感じにしたかったから、忙しく動き回るベースで低音が詰まってる状態は避けたかったんだ。シンセベースらしい勢いがあるけど、本物のベースの手触りも欲しかった。録音したベースだけじゃそうならなかったから、ローパスフィルターを通したサイン波で低音を加えた。それでもまだベースとキックが完全に一体化したようなインパクトある打撃音にならなくて、KOMPLETEで808の短いサンプルを加えて強さを出したんだ。重要なことなんだけど、エレクトロニックな曲じゃなくても、今の時代に曲を作ってたら、すごくハイファイで低音が強調されてる曲の次に自分の曲が流されるってことを意識した方がいいと思う。もちろん曲の感じにあわない時にはやらなくていいけど、例えオーガニックでアコースティックな曲だとしても、もし印象的なサウンドを作りたいと思っているなら、少しだけエレクトロニックな要素を付け加えることは全く問題ないよ。そう思わないかな?

 

スネアをダイナミックに変化させる

「dRiVe」ではあまりやらなかったけど、打楽器的な要素の音色を変化させるテクニックはいつもよく使ってるね。例えば、スネアのサンプルをKOMPLETEに入れて、MIDIコントローラに割り当て、ある部分ではスネアのピッチを高くしておいて、曲に強さを与えたい時にはスネアを低くする。とてもさりげなくやることで、特にエレクトロニックな曲の場合、セクションの間にいい感じでダイナミックな変化を作ることができるんだ。大げさにやると馬鹿げた感じになるけど、すごくかっこよくなることも時々あるね。

 

ギターサウンド:エフェクターで作るか?デジタルなフェイクか?

MIDIギターの部分は、KOMPLETEの中のMikroPrism(無償のREAKTORシンセ)のLight Bellプリセットからスタートした。全体の音色やクオリティの面で参考にしたサウンドはNINTENDO 64の「ゼルダの伝説 時のオカリナ」のサウンドトラックなんだ。Light Bellの音だけでもギターっぽいんだけど、MIDIのアコースティックギターの音を重ねて低域から中域にかけて厚みを与えたり、色々手を加えたよ。元々はとてもハイファイなサウンドだったけど、ゲームサウンドみたいにしたかったから、16ビットに音を劣化させたんだ。

最終的に、2つのMIDIトラックに送って、EQやコンプレッサーをたくさんかけた。異なるコンプレッサーを5つ使ったよ。MIDIトラックには、Waves CLA-2Aコンプレッサー、R-Comp、チューブのスクリーマープラグイン、それに、さらに音を潰して歪ませるためにビットクラッシャーも少し使ってる。予備のサブミックスに送って1つにまとめて、そこから他のAuxトラックに送って、Aphex Vintage Aural Exciterを使ってハイエンドの音をチープにした。その後、全てのサブミックスをNIのRAUMリバーブのWeird Metalっていう名前のプリセットに入れたんだ。Weird Metalはいい感じに音をぐちゃぐちゃにしてくれるね。RAUMのAiryモードも大好きで、この曲のスナップみたいに瑞々しくキラキラとしたサウンドを作り出すお気に入りのリバーブだよ。一番最後に、全てをWaves API 2500コンプレッサーに送って、リバーブをかけて、デジタルなドラムルームへと送ったんだ。

コンプレッサーがかかりすぎてるアコースティックギターの録音みたいな音にしたかったんだけど、同時に、ギターのダイナミクスを取り除いて、フェイクなサウンドにしたかった。聴いた人はギターの音だって思うんだけど、明らかにギターじゃない感じのサウンドだよ。面白いことに、みんな僕にどうやってこのかっこいいギターの音色を作ったのか聞くんだよね。全部MIDIで演奏したものなのにね。

 

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Vivian Host (@stareyezzz)がホストのReal Talkは毎週木曜日、1PM Pacific / 4PM Eastern / 9PM GMTに @nativeinstruments Instagram Liveで配信中。これまでの他のエピソードはこちらから見ることができる。

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