• Eomac + Kyoka = Lena Andersson

    アイルランド人プロデューサーEomacと、日本人アーティストKyokaのコラボレーションプロジェクトに迫る。…

    Interviews
by Native Instruments

BEHIND THE SCENES OF: FINAL FANTASY VII REMAKE

スクウェア・エニックスの鈴木光人氏が 世界中から注目を集める大人気ゲーム 『ファイナルファンタジーVII リメイク』の楽曲制作秘話を語る

1997年にスクウェア・エニックスから発売された『ファイナルファンタジーVII』を、当時の主要スタッフが最先端のグラフィック技術とサウンドツールでリメイクした『ファイナルファンタジーVII リメイク』(2020年4月 PlayStation®4版発売)。この大ヒットゲームの音楽を手掛けたのが、スクウェア・エニックス所属の鈴木光人氏です。今回は彼の仕事場である「WR3(Work Room 3)」にお伺いし、普段なかなか見聞きすることのできない制作現場の裏側や、各シーンで活躍した音源やエフェクトなどを紹介して頂きました。『ファイナルファンタジーVII』が大好きな方はもちろん、全音楽クリエイター必見の貴重なインタビューです!

─『ファイナルファンタジーVII リメイク』では、ゲーム内の音楽を複数の方が担当されているようですが、それぞれの作業分担はどのように決められているのですか?

大枠の分担については音楽面の全貌を把握しているCO-DIRECTOR(SCENARIO DESIGN)の鳥山(求)が割り振りを決めています。鳥山からは直接僕に「ここでこれが必要」、「ここでこんな風に鳴らしたい」というオーダーが来て、それを元に具体的な音楽やサウンドを制作していきます。

─鳥山さんからのオーダーに対して、鈴木さんはどのくらいの制作期間で応えていくのでしょうか?

2018年にスポットでいくつか作業し、2019年初頭からジワジワとオーダーが来て、夏以降はレコーディングと並行して様々な事が同時進行でした。頭の切り替えがなかなか大変でしたけど、楽しかったですね。今回は8割方は発注書をベースに作業を進めており、残りの2割は都度足りない部分をカバーする追加発注対応でした。

─今回の『ファイナルファンタジーVII リメイク』では、鈴木さんは何曲くらい作曲されたのですか?

チャプター4とチャプター9のほとんどを担当したので、約40曲程になります。「クレイジーモーターサイクル ー行くぜ野郎どもー」「陥没道路」「STAND UP」「忠犬スタンプ」など、ジャンルを問わずに様々なシーンの楽曲を担当しました。

─制作された楽曲全体を通じて、心掛けた点などはございますか?

オリジナル版で遊ばれてきた方には、懐かしくもあり新鮮に響くようにアレンジを施しました。また、初めて遊ばれる方に対しては斬新に響くような新楽曲の制作を心掛けました。とはいえ、なかなか言葉で表現するのは難しいですが、ダサい事だけは絶対にしてはいけないと常に念頭に置いて向き合っていましたね。ただしダサくても響く音楽は大好きなので、その辺のバランス調整が難しかったです。

─そのバランスを取るのに苦労した曲というのは、具体的にはどのシーンですか?

ウォールマーケットのシーンですね。ここで流れるBGMは「インタラクティブ・ミュージック」と呼ばれる手法で、DJミックスのような感じで移動する場所に合わせて、自由自在に曲が切り替わるんですね。このシーンでは、メインとなるメロディーラインと構成、そしてテンポは共通でファンク風、エスニック風、カントリー風の3パターンのアレンジを用意したのですが、アレンジ自体はそれほど大変ではないとはいえ、テンポと構成をまったく同じにするのは少々骨がおれました。でも、こういう作業は得意なので腕の見せ所でもあって燃えましたね。あと、カットシーンの尺変更というのが一番大変で、これは本当に苦労しました。特に「蜜蜂の館」ではダンスミュージックが基調となっているので、4小節ないし8小節でまわってる曲を6とか7に変更するのはかなり大変で。普通成立しませんよね(笑)。「え!もしかして尺変わってる!?」っていうのは、スタッフ間の合言葉で、今思い出しても恐ろしいです(笑)。

─音楽はゲームの絵コンテなどを見ながら作られるのですか?

まさにその通りで、絵コンテなどを確認して作業に入ります。今回はリメイクなので、オリジナルストーリーは既に頭の中に入っていると思っていたのですが、実際は部分的に忘れている部分も多々ありました。幸いオリジナルから見せ方も大きく変わった部分も多かったので、アレンジの場合でも新曲を作る気持ちで作業をしています。プロセス的に面白かった点と言えば「蜜蜂の館」のカットシーンでしょうか。通常なら動画の尺に合わせて楽曲を作るのに対し、ここでは楽曲先攻で作り上げました。絵コンテを見ていると、キャラクターの表情や性格、衣装や動きなどから音楽のインスピレーションが得られることもあって、それがとても楽しいですね。

─その他、特に音楽的にこだわったシーンを挙げるとすると?

チャプター9 伍番街陥没道路からクラウドとエアリスの2人で冒険に出る一連のシーンは印象的に残っていますし、気に入っています。音楽的にはアンビエント調の「真夜中のまちぶせ」から始まり、フィールド曲「陥没道路」に繋がり、2人の新たな冒険を盛り上げる雰囲気になるように作りました。「陥没道路」はアジア的かつエスニック要素を取り入れたエレクトロニックミュージックですが、シンセサイザーの響きと美しいストリングスセクションの融合を目指しています。ストリングスアレンジをお願いしたのは金子飛鳥氏率いるAska Strings。そして「陥没道路」だけでなく沢山のミュージシャンとのセッション形式から生まれた楽曲が多いのも今回の特徴と言えます。BOOM BOOM SATELLITESでドラムを叩かれた平井直樹氏、クレイジーなノイズギターを披露してくれたnon氏など挙げればキリがありませんが、どのセッションも刺激的かつ楽曲を構築する上で、他にはいないアーティストと一緒に楽曲を作れたのは光栄でした。

─オリジナルの『ファイナルファンタジーVII』と比べて、サウンド面で変わったと思われる点はありますか。

前作は23年前の作品ですし、サウンドの再生方式もまったく違っているので比べるのは難しいのですが、かといって今回全てを刷新したわけではなく、実は楽曲の中にはオリジナル音源をサンプリングして使用した曲もあるんです。ファンの人達にとっては懐かしい音を楽しんでもらえるかなと。こういった部分に僕なりのオリジナル版『ファイナルファンタジーVII』へのリスペクトを込めています。

─鈴木さんの仕事部屋である「WR3」にお伺いしておりますが、ここの音楽制作環境について詳しく教えて頂けますか。

コンピューターはApple Mac Pro、メインDAWはSteinberg Cubase Pro、キーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61です。この組み合わせは安定性が高く操作性も良いのでマストですね。モニタースピーカーはFOCAL Shape 50とSONY SRS-Z1の2種類を使い分けていて、インターフェイスはRME Fireface UFXです。その他、作業場にはキックやスネアを瞬時にミュートできるように改造したRoland TR-909やwaldorf kb37(Behringer MODEL D、strymon MAGNETO、Doepfer A-199 SPRVを収納)、Sequential Circuits Prophet-5といったハードウェアの楽器も置いてあります。

ミュートスイッチ改造が施してあるRoland TR-909
waldorf kb37にBehringer MODEL D、strymon MAGNETO、Doepfer A-199 SPRVが収納されている
Sequential Circuitsの銘機 Prophet-5

─ 作曲を始める際、オーケストラ系、ロック系など、シーンに合わせたテンプレートを使用することはありますか?

僕はテンプレートはまったく使いませんね。何故なら自分から表現の幅を狭めるような気がして昔からあまり好きではないからです。それはシンセサイザーを使った作曲だからかもしれませんが、時間がかかったとしても「自由度」というものを優先したいと思っていて。もちろん最終的に使う音源構成が同じ場合もありますが、直感的な選択は時に表現の幅を広げてくれますし、その点を重要視しています。ちなみに、雰囲気的な部分から作曲する場合はNATIVE INSTRUMENTSのMASSIVE X、きちんと音符を置く時はSpitfire AudioのALBION ONEやSpectrasonicsのOmnisphere 2を立ち上げることが多いですね。

─音楽を手掛けられたシーンの中で印象的だったシーンをいくつか教えて頂けますか?

チャプター9「蜜蜂の館」ダンスシーンです。ここでは、MASCHINE 2 ソフトウェアExpansionsを複数使用しました。Expansionsは、ジャンルごとにライブラリーが分かれている点も便利で、かかっているエフェクトをバイパスしたり、収録されている音色の作り込みができたり、楽曲のシーケンスと音色パーツの組み合わせを自由にカスタマイズ出来るのも良いですね。テンポが変更可能なプリセットライブラリーとして使用する事も多かったです。あと、チャプター4 バイクシーン「クレイジーモーターサイクル ー行くぜ野郎どもー」では、MONARKが活躍しました。Minimoog系のベースは大体これです。音色のエディットについてもKomplete Kontrol S61との組み合わせは最強だと思います。

「真夜中のまちぶせ」で使用されているMASSIVE Xのプリセット「Wisdom Oracle」、「Wintery Tinkle」が立ち上がっている

─チャプター9 伍番街陥没道路「真夜中のまちぶせ」のサウンドもとても印象的でしたが、ここではどんな音源が使われているのですか?

この曲は8割方MASSIVE Xで作ったのですが、冒頭から鳴るアルペジオ、メロディなどはプリセット音色から触発されて出来たものです。具体的にいうと、アルペジオはPlucked Stringsカテゴリーにあるプリセット「Wisdom Oracle」なのですが、構成音からリバーブまで景色や色まで浮かぶような音色で特に気に入っています。メロディーはPiano/Keysカテゴリーの「Wintery Tinkle」ですね。MASSIVE Xは空間系を得意としたシンセサイザーならではの音色で好感が持てます。いくらでも曲が作れる感じといいますか、良い音色はどんどん曲が湧き出てくる感じで嬉しくなります。特にMASSIVE Xの「WaveTable」、「NoiseSeed」で音色の質感を簡単に変える事が出来るし、内蔵エフェクターの「Reverb」も素晴らしく、「Decay」のみ楽曲に合わせて調整して使用する事も多いです。

─サウンドデザインや音質などバランス調整が必要になる場面は多いですか?その場合はどのような流れで行なっているのでしょうか?

エレクトロニック系、ストリングス系楽曲を問わずテンポとフレーズに合わせてADSRの調整を行う事が多いです。これが楽曲の方向性や抑揚の最初のポイントと言えます。ビートに対して「どれ位メロディやバッキングのタイミングが速い、もしくは遅い」など、シーケンス上でタイミング調整する事も多いですね。リバーブタイムにしても同様で、まずはテンポに合わせるところからスタートします。そうする事によって過剰な残響感を整理出来て、グッと聴きやすくなります。とはいえシューゲイズ的なカオス的空間を作る場合はまったくエディットやコントロールしない事もあるので、ケースバイケースとも言えます。

また、Komplete Kontrol S61上のDAWミキサーモードには Cubase上でグループを8つ作ってアサインしています。曲を作っている最中でもKomplete Kontrol S61からグループをミュートしたりソロにしたりして遊ぶ事が多く、たまにミスをしても それがかっこ良い場合や、トラックをごっそりミュートして展開を作るなど、アイデア出しの場面でも重宝しています。コンピューター上のパラメーターをマウスで操作するよりも、やはりフィジカルにライブ感が出せるのがいいですね。もちろん視覚的な効果もあるのですけどね(笑)。

─サウンドデザインを行う際に、コツなどがあれば教えて頂きたいのですが。

音源やコントローラー同様、音楽制作に欠かせないのがエフェクターです。REPLIKAはディレイプラグインですが、シンプルな操作性とエフェクト効果がわかりやすいので大活躍です。ゲーム音楽の場合、ループ前提で楽曲を作る事が多く、拍終わりでファイルを書き出す際にどうしてもスパっと曲が終わってしまいます。ゲームに実装する時はループ使用で問題ないのですが、後々サントラ用音源や編集バージョンを作る際、最後の一音にREPLIKAのプリセット「Clouds」をNormalモードにして「余韻」を足しています。「Clouds」はその名の通りディレイの塊がリバーブのような効果を生み、くぐもった雰囲気を出すのに最適です。GUITAR RIG 5 PROも好きで素材問わず汚したい時に使います。ギターだけでなくシンセやボーカルなどキャラクターの方向性を一発で変えてくれるので便利ですね。楽曲制作の時、まずは楽曲の全体像を構築する事が先決なので、過剰にエフェクト効果を得られるエフェクターにはとても助けられています。

─「陥没道路」のシーンでは、中東の音楽のエッセンスを含んだ印象が感じ取れましたが、これは制作時のリクエストなどによるものでしょうか?

『ファイナルファンタジーVII リメイク』はスチームパンクやディストピア的な世界観が全面に押し出されています。その上で中東エッセンスは違和感があるかもしれませんが、ストーリー的に新たな展開部という意味で音楽的にも僕の独断で少しだけ冒険をしました。おかげさまでプレイヤーの方々にも気に入ってもらえてるようで一安心です。そうそう、いまだにデモチェックの時は緊張の一瞬なのですが、この曲が採用された時は個人的にも嬉しくてそのまま速攻飲みに行きました。

─ 最後に『ファイナルファンタジーVII リメイク』の音楽的な聴きどころ・楽しみ方について一言頂けますか?

『ファイナルファンタジーVII リメイク』は映画のサウンドトラックのようであり、ロックやダンスミュージックといった様々なジャンルや要素が絡み合ってFFの世界観を構築しています。僕個人としては、ユーザーの方が音楽を聴いて感動して、それが一人歩きしてもらうことが一番だと思っています。そして、先ほどもお話したプレイヤーの操作に応じてシームレスに音楽が変化する「インタラクティブ・ミュージック」を採用しているのですが、ここはまさに今作のポイントの一つと言えると思っています。是非ゲームをプレイして、こういったサウンドの演出も楽しんでもらえたら嬉しいです!

ファイナルファンタジーVII リメイクとは

オリジナル版『ファイナルファンタジーVII』主要スタッフが手掛ける『ファイナルファンタジーVII リメイク』。壮大な物語や魅力的なキャラクター、当時の最先端技術が駆使された映像で多くの人を魅了した不朽の名作が、時を経て「新たな物語」として生まれ変わる。

コマンドバトルと直感的アクションが融合することで戦略性は高くなり、現代のグラフィック技術によって『ファイナルファンタジーVII』の世界をリアルに再現、再生する。

公式HP         https://www.jp.square-enix.com/ffvii_remake/

公式Twitter   https://twitter.com/ffviir_cloud

© 1997, 2020 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA/ROBERTO FERRARI

LOGO ILLUSTRATION: © 1997 YOSHITAKA AMANO

 

鈴木 光人 氏

スクウェア・エニックス所属の作曲家。

『ファイナルファンタジー VII リメイク』、『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』、『メビウス ファイナルファンタジー』、『スクールガールストライカーズ』などを担当。近年ではゲームのみならず、TVアニメ『スクールガールストライカーズ Animation Channel』の楽曲制作、音楽専門誌での機材レビュー執筆や舞台音楽の制作にも携わっており、多方面で才能を発揮している。

SQUARE ENIX MUSIC Official Blog「鈴木週報」

http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/suzuki/

 

Interview: Tetsuya Higashi (TuneGate)

Photo: Kazuo Kogai

関連記事