by Jan Korte

Dr. Julian Parkerによる
RAUMリバーブの制作秘話

NIのエンジニアと一緒に、最新エフェクトのアルゴリズム、コントロールレンジ、そして、コームフィルターの核心に迫ろう。

もしすでにRAUMを試すチャンスがあったなら、大変シンプルに使えることに気づいただろう。RAUMは、適切な音源に使えば、より良いサウンドを即座に生み出してくれるエフェクトだ。ミックスという観点からのリバーブの配置方法には良い方法と悪い方法があるが、RAUMの場合、サウンドが台無しになってしまうようなセッティングの組み合わせを探すことは難しい。

とても簡単に使えて価格が手頃なので、RAUMはシンプルなエフェクトだと思ってしまうかもしれないが、ソフトウェアエンジニアのJulian Parker博士によると、そうではない。”いい感じに動いてくれる”エフェクトを制作するためにどれだけの熟考が必要なのかを理解するため、我々はシニアテクニカルライターのJan Ola Korteを送り込んだ。ちなみに、もともと今回のインタビューは、RAUMマニュアルの付録として、Jan Ola自身によって書かれたものだ。

RAUMプロジェクトでのあなたの役割は何でしたか?​​

​​リバーブのアルゴリズムの開発を担当し、それと共に、チューニングも担当しました。 チューニングとは、美学的な観点をリバーブに与えるような作業です。​​

 

リバーブアルゴリズムの詳細と、それがどのように最終的な製品に関係しているのかについて説明してくれますか?​​

​​RAUMのGroundedとAiryのアルゴリズムは、多くのディレイラインから成り立っているフィードバック・ディレイ・ネットワークというアイディアが基になっています。大きなミキサーによって全てが繋がっている構造をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。専門用語ではマトリックスと呼ばれているもので、すべてのディレイラインの間の繋がりを記述する数の大きなグリッドです。

リバーブのスムーズさは、生成できるレゾナンスの数によって決まり、ボックスルームが多くのレゾナンスを持っていないのと同様に、メタリックな音色のリバーブは多くのレゾナンスを持っていません。ところが、不規則な幾何学形の部屋は、よりスムーズな響きになります。私は、人々がフィードバックマトリックスを使っている方法が最適ではないということに気づきました。つまり、最終的にお互い同じ周波数帯域の響きが重なりあうようになるため、より多くの密度をリバーブに与える代わりに、その部分のボリュームが上がってしまうのです。そこで、AiryとGroundedのDenseモードは、可能な限り最大の密度を与えるようにデザインしました。それが、今回のプロジェクトの技術面での最初のきっかけでした。​​

アルゴリズムをデザインしていた当初、もう1つ、試してみたいことがありました。それは、アーリーリフレクションをリバーブネットワーク自身に統合することです。アーリーリフレクションを扱う伝統的な方法は、2つをパラレルに扱うことです。まずは、ディフューズになるレイトリバーブを生成し、次に、アーリーリフレクションになる別のパラレルな構造をつくります。このパラレル構造は、はっきりと別のものとしてデザインされているので自由度がとても高いのですが、同時に、アーリーリフレクションのバランスを取りながら響きの尾っぽの中に上手く流れをつくらなくてはならず、これは大変難しいことなのです。

​​

つまり、今回の場合、リバーブ開発の上での複雑なチャレンジのいくつかは、アーリーリフレクションの生成に関する新しい手法で解決できたということですか?

はい、その通りです。別々でパラレルな構造のアーリーリフレクションを使う代わりに、アーリーリフレクションをメインリバーブの内側から特定の方法で取り扱いました。つまり、1つ目のエコーがこのディレイラインからこの長さでやってきて、そして、2つ目のエコーが他のディレイラインからこんな風な長さでやってくる。しかし何であれ、それらはリバーブ全体の中に存在するものです。つまり、反響の中に存在するものはいつでも、遅れてやってきたディフューズの尾っぽの重なりの中にも存在するということです。もちろん、これは実際に現実で起きていることで、ディレイが鳴りやむまで、音が飛び跳ねてどんどん重なっていきます。だから、これは2つのものを1つにする試みだと言えるのです。

 

​​私が理解している限りでは、フィードバック・ディレイ・ネットワークの基本テクニックは、20年や、もしかすると30年以上の歴史がありますよね。RAUMの開発の中で、既存の機材が果たした役割はありますか?​​

広い意味ではそうとも言えますね。つまり、現実的なリバーブを開発したかったのですが、しかし同時に、LexiconのリバーブやAlesis Quadraverbなどの代わりの役目を果たすものにしたかったんです。音がいいソフトウェアのリバーブにしたかったけど、同じアルゴリズムに立ち戻ることはしたくなかった。もっと現代的で、もっとハイファイなサウンドにしたかったんです。ところで、Cosmicはフィードバック・ディレイ・ネットワークを使っていなくて、LexiconやAlesisの伝統的なリバーブや、 Eventideのものに近い方向性です。

 

一般的なエフェクトはたくさんのモードやコントロールを装備することで自由度の高さを提供していますが、RAUMは焦点を大きく絞っていて、他のリバーブと比べてコントロールは少なく、アルゴリズムは3つだけですね。機能をカバーする範囲とコントロールを選択したプロセスの背景には、どのような考えがありましたか?

私たちの狙いは、すべてのパラメーターが興味深いもので、同時に、パラメーターの範囲が広いものにしようとしました。ただ、範囲が広くても、ちゃんと知覚できて、すべてのセッティングが興味を引くような形で違っているものになっていなくてはいけません。このことは特に、範囲がとても広い時の大きさのコントロールに、よく当てはまると思います。繊細に細かく設定することも、まばらに設定することも可能なので、グラニュラーエフェクトのようになるのです。しかし、ダイヤルの勾配角度は意味がある情報だけに調整してあるので、「どうしてここにダイヤルを回すんだろう? 必要ないじゃん」と思ってしまうようなポイントは全くありません。

すべてのコントロールについて同様の視点からデザインしました。例えば、モジュレーションもまた、いい例です。使い始めの頃は、一般的なリバーブのモジュレーションを使うように、エコーをかけるためにほんの少し動きをつけるぐらいだと思います。RAUMのモジュレーションは、30から50%ぐらいまで上げるとコーラスがかかって、70%以上になると音が外れて不協和音のようになり、奇妙で超常的な領域に移り変わります。1つの同じコントロールで3種類の使い方をまとめて試すことができるので、使っていくうちに、意味のあるやり方で変化させながら、それぞれの間を移動できるようになるのです。

リバーブは、一度セッティングしたらその後は忘れてしまうようなエフェクトとして捉えられることが多いですが、RAUMは操作性が大変高く、オートメーションの時にも素晴らしいサウンドになりますね。どのコントロールにもオートメーションを適用できて、しかも音が素晴らしいです。これは意図的なことですか?

はい、もちろん意図的です。まず初めに考えていたことは、MASCHINEで使う場合のリバーブについてで、オートメーションビューで使っている時にすべてのエフェクトのサウンドを素晴らしいものにしたいということでした。でも、時代精神もあると思います。例えば、Tom Erbeが開発したErbe-Verbは、リバーブのリアルタイムなコントロールについて深く取り扱っているものですが、RAUMに取り組み始めた時、このことについてもう一度じっくりと考えました。​

​​この点について、特にフォーカスしている部分は、プリディレイとFreezeだと思います。つまり、Freezeは、一度設定したら忘れてしまうような機能ではなく、オートメーションにするかライブ演奏をする必要がありますよね。だから、パフォーマンスできるインタラクティブな要素なんです。また、リバーブの音色をノブで調整する時とライブ演奏の時の両方の状況を想定しながら、心地よい感触のフィルターになるように大変注意深く調整しました。​​

リバーブにこういった要素を加えることはとても興味深いと思っています。エフェクトを使ってテクスチャーに変化をつけたりミックスすることで、楽器のようになりますよね。また、オートメーションの時にいい感じになるようにパラメーターをデザインすると、単にノブを回して調整する時でも心地よい感触になるんです。だから、普通の使い方をしたとしても、ユーザーエクスペリエンスに貢献しています。​​

​​

 

理論とノブをひねって実際演奏してみることのどちらが、リバーブ開発の中で、より大きな役割があると思いますか?

ノブをひねることはとても重要だと思いますが、壁にものをぶちまけて何がくっついて残っているかを観察するような方法ではありません。リバーブだけに限らず、ノブをひねることによる音の変化について理解することが好きなんです。そうすれば、何が正しいか聴き分けられるようになって、自分の思い望んでいるサウンドになるようにノブを回せますよね。それは原因と結果についてしっかり理解するということなんですが、リバーブの場合、相互作用する要素を多く持つ抽象的なシステムなので、時としてそれが難しいことがあります。自分が成し遂げたいことと実際に耳で聞こえることの両方をしっかりと繋ぐような部分は保っていたいと思っています。

​​どちらも同じぐらい重要なんですよね。アルゴリズムは何ができるかという枠組みを与えてくれますが、その枠組みの中にはたくさんの悪い音もあります。だから、チューニングをしてパラメーターに意味を与えることが、良い音を作り出すのです。例えば、もしアルゴリズムがとても限定されたものだったら、特定の1つの状況に関しては素晴らしいサウンドをつくることができるかもしれませんが、様々な広い状況に対する適応力は備えていないでしょう。

​​

 

お気に入りのRAUMの使い方を教えてください。

プリディレイをレゾネーターやコームフィルターとして使うことが好きですね。

 

​​プリディレイについて詳しく聞かせてください。

​​すべてのリバーブにはプリディレイがあって、同期できる状態のこともありますが、通常は単なるユーティリティとして扱われています。私たちは同期できるようにしたかったんです。それで、やったことと言えば、ここにディレイラインを入れただけで、入力にディレイをかける以外のことは全くやっていません。つまり、たった1つのフィードバック経路を加えただけで、突然とても面白いサウンドが生まれるようになったんです。そして、このようにして最終的に、フィードバックをコントロールできるようになりました。

​​ただ、ここでは他にもたくさんのことが起きています。特徴のあるプリディレイのサウンドなので、まったく同じ訳ではないですが、REPLIKAのModernモードのような感じです。ディレイでは特定のディレイタイムになるよう補間することが多いと思いますが、問題は、補間するとフィルタリングが必ず起きてしまうということです。特にフィードバックがある場合は信号の再循環が起こるので、劣化したサウンドとして耳で認識できるぐらいになります。

​​このことについて、基本的に今回のプロジェクトでは、ディレイタイムにミリ秒単位のわずかな端数のエラーがあっても気にしないと決めました。整数値のサンプルになるように全てのディレイ値をクオンタイズするのですが、これは補間による損失がないということを意味しています。このようにして、ユーザー自身がフィルターを使わない限り、全く損なわれることなくディレイラインを手にすることができるのです。このことによる違いは、誰でも聞き分けられると思います。特にコームフィルターの場合は、高い周波数の透明感が少し普通とは違う感じになるので、わかりやすいはずです。​​

また、音がクリーンではなくなってしまうので、コームフィルターを使う時、ピークを抑えるためのディストーションは使いたくありませんでした。しかし、完全にリニアなコームフィルターの場合、とても強い大音量のレゾナンスが起きるので、それを抑える必要があります。そこで代わりに、フィードバックの経路にリミッターを入れたのです。メインの信号経路ではなく、ディレイが再循環した時にリミッターを通るようにして、リミッターのリリースタイムをディレイタイムに合わせることで、リミッター特有のサウンドにはならないようにしました。つまり、フィードバックが暴走してしまうことを防ぎながら、ちゃんと良い響きになるように開発したのです。聞けばわかると思います。こんなに素晴らしい高周波サウンドをコームフィルターで作り出せたのは、今回が初めてです。

 

このプリディレイのクリーンなサウンドを生かす使い方で、おすすめの方法は他に何かありますか?

そうですね、高い周波数がフィルタリングされていないので、その部分を気にする人にとっては、普通のプリディレイとして使うだけでも、明らかにより良いものになっています。また、ルーパーとして使うのもいいですね。とても長いディレイタイムが使えて、確か、最長で4小節分だったと思います。リミッターと組み合わせることもおすすめで、リミッターがオート・オーバーダブのようになります。​​

完全にクリーンなサウンドが100%のフィードバックで永遠に循環し続けるので、他の音を上に加えられるような余白が生まれます。もしも補間していたら、このようには行かないで、20回ぐらい繰り返すとフィルタリングされた音が重なっていくことに気づくはずです。RAUMの場合は、ダイヤルをフィルターに合わせない限り、クリーンなループが永遠に続いていきます。

​​

インタビューの前半で、Cosmicは違うアルゴリズムだとおっしゃっていましたね。

Cosmicはまったく違います。基本的には、REPLIKAのDiffusionモードの新風味といった感じですが、RAUMではモジュレーションの範囲がより広く変更されています。また、REPLIKAでは1つのコントロールでモジュレーションの量と周波数の両方を操作できて、それはそれで良かったのですが、少し制限がありすぎると感じたため、今回はもっと自由に操作ができるようにしました。RAUMは、モジュレーションデプスの幅がとても大きく、また、低音部にまで至るような広い周波数範囲をカバーしています。このことにより、ノイズを即座に生成し、豊かで様々な種類の音色を与えてくれます。


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そして、プリディレイフィードバックもどこかに使われているんですよね?

​​そうですね、Cosmicはたくさんのカスケード形式に配列されたオールパスフィルターで、長いリバーブをつくるためにはフィードバックとディレイループの中に配置されなくてはいけないんです。GroundedとAiryは、プリディレイの後に設置され、フィードバックループの中には配置されていません。でも、Cosmicのリバーブ部分は、フィードバックループの中に配置されています。

Cosmicの素晴らしい点は、プリディレイでエコーを生み出す度に、どんどん音がぼやけて溶けていくことです。しかしまた、GroundedとAiryの良い点は、どんな使い方をしても、すべてが不鮮明に混ざり合ってしまわずに、トップに空間を残せることです。2つのアプローチは、それぞれまったく違う種類の強みと使い方があります。だから、私たちは3つ全部を含めたかったんです。

 

RAUMの詳細はこちら、そして、お手持ちのDAWで30分の体験ができるデモ版はこちら

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