多くの「音」に囲まれている現代人にとって、心地良い背景的な音楽こそ理想的な癒しなのかもしれない。同じように、超高音質な音楽、映像制作が可能になったデジタル時代の今、一部のアーティスト達は自身の活動を逆のベクトルに向けている。Hi-Fi音楽が当たり前となった今、Lo-Fi音楽を作ることが彼らの挑戦になったのだ。
このチュートリアルではLo-Fiミュージックについて学び、チルでありながら面白みのある上質なLo-Fiビートの作り方について紐解いて行こう。
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Lo-Fiビートの5つの要素:
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Lo-Fiミュージックとは?
Lo-FiミュージックとはLow Fidelity(低い忠実度)の意味で、演奏ミスや環境ノイズなどのレコーディングでは本来望ましくない「不完全」な要素が含まれる音楽を指す言葉だ。Lo-Fiミュージック制作においてこれらの要素は意識的、意図的に使用されている。このようなサウンドにビンテージ感を抱く事は間違いではなく、実際、多くのLo-Fiミュージックはこのようなテープ録音のザラザラ感を再現しようとしている。
現代のLo-Fiビートは一般的にHi-Fi機材で録音され、DAWの中で最近のプラグイン音源と処理方法を使ってミックスされ、一般的にLo-Fiヒップホップビートは1990年代のカーステレオのサウンドを模倣している。
最近のLo-Fiビートの例をいくつか聴いてみよう。ザラザラとしたビンテージ感が感じられるはずだ。
レコードを聴いているような印象があるだろう。
Lo-Fiミュージックの基本が理解できたら、次は簡単なテクニックを使ってオリジナルのLo-Fiトラックを作ってみよう。
1. スローテンポでシンプルなビートから始めよう
Lo-Fiビートは常にシンプルでチルなヒップホップビートから作られる。このジャンルはスローである事が重要なので、テンポはほぼ必ず60 bpmから90 bpmの間に収まる。60 bpmよりも遅いケースは考えられるが、90 bpmより速いケースのチル感がなくなってしまうので注意しよう。ビートに重要なのはキック、スネア、ハイハットだ。今回は4/4拍子で進めよう。
変化や不完全さの要素は後で足すので今は忘れよう。その情報から知りたい方はセクション3にスキップだ。まずはシンプルなビートを作りたいので、1と3拍目にキック、2と4拍目にスネア、そして全ての8分音符にハイハットを入れよう。重要なのは、シンプルにすることだ。
こちらがDRUMLABで作成した参考例だ。DRUMLABは意図したサウンドを簡単に作ることができるNative Instrumentsの高品質なドラム音源だ。
ビートはこのようなサウンドになる。
2. ビンテージサウンドとジャズ風コードを足そう
Lo-Fiビート作りで重要な要素の1つが、ジャズ風でありながらシンプルな、滑らかで簡単なコードだ。中でもメジャーセブンスコードには楽観的な明るさがあり、ジャズ奏者も一般使用するサウンドなのでおすすめだ。コードの他に重要なのがビンテージ感のあるサウンドであり、Hammondキーボードやエレクトリックベース、ビブラフォンなどがいいだろう。
こちらがNative InstrumentsのPlay Series音源、LO-FI GLOWを使用したシンプルな2コードのパターンを作る方法だ。LO-FI GLOWは曲にファズ感、ディストーション感を足すのに最適だ。
このようなサウンドになる。
3. あらゆる箇所に「不完全さ」を足そう
Lo-Fiビートを作る時は、目立たない方法で音楽の面白みを持続させたい。そうすることで必要最低限の変化でユニーク感やクールさを演出する事ができチル感を保つ事ができる。
まずはドラムに不完全さを加えてみよう。先ほどもお伝えしたように、シンプルである事が重要だ。しかし、シンプルすぎてつまらない、というのも問題だ。丁度良いバランスでビートに少しの変化と不完全さを加えるには、ドラムのMIDIをグリッドから少しずらしてみよう。少ない数の音符を前後にずらしたり、抜いたり、追加したりするのもオプションなので色々試してみよう。
この原理を応用して、他の楽器にも小さな変化を時々加えてみよう。この小さな変化は大きな結果を生む。あくまで認識出来るか出来ないか程度の変化を加えたいだけなので、やりすぎないように注意しよう。些細すぎてもつまらなく、やりすぎてもチル感が失われてしまうので、塩梅が大切だ。
ベースラインにも遊びを加えたいので、SCARBEE MM-BASSでシンプルなベースラインを作成した。以下の参考例でも分かるように、いくつかの音符をずらすことでグルーヴに面白みを加えている。
不完全さを生み出す他のおすすめの方法は、サウンドのEQやトーンに対して変化を加える事だ。次のステップで詳しくご紹介しよう。
4. EQ、トーン、サチュレーションを調整しよう
全てのLo-Fiビートに共通する要素はその名前にある。先ほどお伝えしたように、Lo-FiはLow Fidelityを意味した言葉だ。つまり録音対象の生音の忠実度が低い事を意味しており、この忠実度の低さが指しているのは不完全なビンテージ機材の潰れた、埃がかったような温かみのある音だ。そして、このようなサウンドは少ない手順で簡単に作る事ができる。
まずは、EQで両極の音域を削ることで、ビンテージラジオの制限された帯域幅を再現しよう。具体的には200 Hz以下と5K Hz以上を全て削ることで、あの潰れたサウンドを作る事ができる。また、ディストーションとサチュレーションを使って埃っぽい質感を演出する方法もおすすめだ。これでサウンドに埃っぽさ、ザラザラ感を足す事ができる。この2つのステップを組み合わせることによってチルで温かみのあるサウンドに仕上げる事ができる。
そのため、我々の例ではEQとサチュレーション兼コンプレッションエフェクトを各チャンネルに追加した。まずはアナログ式Solid State LogicのEQハードウェアを再現するSOLID EQを追加しよう。サウンドの本質的な部分を保ちながら、ミュートや潰れた感じがするように設定した。その後に、サウンドにコンプレッションと質感を加えるSUPERCHARGERを追加しよう。我々のドラムチャンネルのエフェクトチェーンは以下のようになっている。
これらの要素の詳しい内容は次のステップでご紹介しよう。
5. サンプルを使用して空間と雰囲気を足そう
Lo-Fiビートのあのチル感は、空間を感じられる設計から生まれている。良質なソファのように、没入感と質感がしっかりとありながら、詰まりすぎたり騒がしい印象はない。このような空間と質感をビートに加えるには、深いリバーブの背景レイヤーを重ねてみよう。
まずは環境音の録音、またはサンプリングから始めよう。これは車の走行音、飛行機の飛行音、窓にあたる雨音、または背景的なテレビの音など、何でも構わない。滑らかで距離感のあるサウンドであることが重要だ。そのサウンドに対して、深いリバーブをかけてみよう。Lo-Fiビートの背景になるようにそのレイヤーを配置することで、あなたのリスナーに浮遊体験を与えるような空間と雰囲気を演出する事ができる。
こちらは録音した歩道の足音を使用した参考例だ。オリジナルの録音はこのようなサウンドになる。
このエフェクトチェーンを通した後はこのようなサウンドになる。
この5つの要素があれば、とてもシンプルなアイデアからバイブス、グルーヴ、そして面白い質感のあるトラックを作る事ができる。これらの要素が組み合わさる事でこのようなサウンドが生まれるのだ。
Lo-Fiビートを作り始めよう
これらの要素は様々な方法であなたのLo-Fiジャンルのアイデアに適応させる事が出来るので、色々と試してみてほしい。そして、LO-FI GLOWやDRUMLABなどのLo-Fiミュージックの制作に役立つインストゥルメントを多く取り揃えたKONTAKTもチェックしてみよう。