KREVAは日本のヒップホップマエストロだ。日本においてヒップホップはラップばかりに注目が集まっている。もちろんラップは重要なエレメントではある。間違いない。だが常にビートと運命共同体でなければいけない。ビートの本質とは何か。それは「かっこ良けりゃなんでもいい」という実験精神とどデカく鳴るドラム。極論それさえあればヒップホップになる。そのシンプルさが世界中に衝撃を与え続け、今やあらゆるポップミュージックになんらかの影響を与えるほどに巨大化して細分化もされた。
だが、こと日本においてはビートがなかなか理解されない。それは歌のダイナミズムを楽曲の主眼においてきた日本のポップミュージックの近現代史に関係があるのかもしれない。だが彼はそれも踏まえて、日本の音楽シーンに大きな足跡を残し続けている。日本人が一緒に歌えて、踊れる。しかもいつも新しい。
そんなKREVAが愛機に指名しているのが「MASCHINE」シリーズ。2019年に発表したアルバム「成長の記録〜全曲バンドで録り直し〜」ではホワイトにカスタマイズしたMASCHINE MK3をジャケットに登場させたほど。彼が「MASCHINE」シリーズにこだわる理由、そしてフラッグシップモデルの「MASCHINE+」を触った印象などを語ってもらった。
KREVAさんが音楽活動を始めたきっかけを教えてください。
中学生くらいの時にダンスブームがあって。最初はダンスをしていたけど、徐々に踊るための音楽に興味が出てきて、DJを始めて、ラップに辿り着き、自分でも曲を作るようになりました。それが19歳くらいだったと思います。
最初はどんな機材を購入されたんですか?
1番最初に買った機材はターンテーブルとミキサーです。タンテはTechnicsのSL-1200 MK3で、ミキサーは確かMelosでしたね。筐体に「DMC」のロゴがプリントされてたのを覚えています。バイトして貯めたお金を持って秋葉原で買いました。ビートメイクで最初に買った機材はMPC3000です。当時は30万円くらいしました。人生で初めてローンを組んだんだけど、まだ未成年だったからお店から親に電話をかけさせられたんですよ (笑) 。えちごやミュージックという渋谷の楽器屋さんでしたね。
「MASCHINE」はどのタイミングから使い始めたんですか?
「MASCHINE」は初号機、つまり2009年にMK1が出てすぐ買って使い始めました。当時4×4で16個のパッドが並んでる機材はいろんなところから出ていたけど、自分はMPC以外は1回も買ったことがなかったんです。でもMK1は大して触りもせず迷わず購入したんですよね。なんでだろう? 自分でもそこはわからないけど、見た目がすごくカッコいいからかな (笑) 。これはNative Instrumentsの製品すべてに言えることなんだけど、キーボードにしても、DJコントローラーにしても、工業製品が持つようなシャープな美しさ、機能美があると思っていて、きっとそこに惹かれたんだろうなと思います。
KREVAさんはMPCが全盛だった当時、実際にMASCHINE MK1を触ってみてどんな印象を持ちましたか?賛否両論もあったみたいですが。
きっと賛否の否は、4×4の16個パッドスタイルの機材で定着してた使用感と違ってたからですよね? 確かに最初は違いを感じました。それまでの自分は、グリッドオフでパッドを感覚的に叩いて、最高のグルーヴが出た小節をコピーしてシーケンスを組んでたんです。MASCHINEでそれをやったら、小節が先端のグリッドに吸着されてしまって。その時は正直「なんだよ!」って思いました (笑) 。実際使いこなせていない感覚もあったけど、今思うとそれはあまり大きいことじゃなかったなって気がしています。
MASCHINEはMK1から鳴りの良さが飛び抜けてる。自分はヒップホップがサンプリング全盛だった時代を生きてきたから、良い素材にたどり着く大変さをすごくわかっているつもりです。そのディグカルチャーを踏まえた上で、ヒップホップには「ドラムはオリジナルからサンプリングしなきゃダメ」っていう傾向もあった。でも俺は「 (カッコよければ) どこから持ってきても良いんじゃない?」とも思っていて。その意味で、 MASCHINEはドラムキットが素晴らしかったんです。サンプリングのオリジナル至上信仰をひっくり返しかねないポテンシャルを感じました。それは今でもMASCHINEシリーズの魅力なんじゃないかなと思います。
サンプリング元がどこからということより、ドラムの音質が大事だったということですか?
そう。MK1が発売される前はまだサンプリング用ドラムキットのダウンロード販売なんてほとんどなくて。一応「ヒップホップドラム」「ダンスドラム」みたく謳ったCDはちょっと売っていました。でもそこに入っていたドラムには、自分からするとヒップホップやダンスを感じなくて。でもMASCHINEのドラムキットはヒップホップやダンスに寄せすぎてないけど、質が良い。だから聴いてすぐ使えると思いました。そのあと出た「BATTERY 4」もすごく良かった。
KREVAさんが作曲するスタジオのセットアップを教えてください。
ちょっと前まではPro Toolsをメインに使っていたけど、ここ1年半くらいAbleton Liveで作ってます。去年 (2020年) 新型コロナウイルス感染症対策で緊急事態宣言が出て自宅でも制作するようになって、まずMASCHINE MK3を触るところから始めてます。
具体的には?
それまではMASCHINEをDAWの中のプラグインとして使ってたんです。でも今は、MASCHINEを触るところから始めて、それをDAW上で展開していく感じです。俺は普段から気になるサンプルにライクをつけて目星だけつけておくんです。実際に作る時はそこからピックアップして、それをチョップしてやり始めてみるパターンが多いですね。あと自分が欲しいコードを探して作り始めることもあります。
「KREVA YouTube Live !」でビートメイクしてた時もそういうふうに作り始めてましたよね。
そうですね。1回目の時は「PARADISE RINSE」ってハウスっぽい音が入ってるExpansionsを使ってヒップホップのビートを作ってみました。俺はキットに入ってる音を積極的に使っていきたくて、むしろ「入ってる音を使うなんて….」って思うことが今はちょっとカッコよくないんじゃないかなって気はしますね。
青春時代に刷り込まれた価値観をアップデートするのは難しくないですか?気づくと初期衝動が自分の中で美化されていたり。
言ってることはわかるけど、俺は自分がパフォーマーだからそこは少し柔軟な部分があるのかもしれないですね。というのも、世の中の基準はどんどん変わっていくから、ずっと昔のものにしがみついているだけだと、淘汰されてしまうんですよ。
KREVAさんは制作が煮詰まった時はどのように対処しているんですか?
違う曲をやります。もしくは前に作ってて形になっていなかった曲をもう1回触ります。煮詰まった状態から早めに脱却するようにしてますね。最近は量が質を生むこともあるかなと思っていて。もちろん質より量を優先するとまでは言わないけど。だからなかなか形にならない1曲を粘って良くするより、新しいことに着手するようにしているんです。ちなみにDAWをPro ToolsからAbleton Liveに変えたり、最初にMASCHINEから作るようにしたのも、そういう面があります。
それはどういうことですか?
マンネリ打破というか。なぜMASCHINEから作るようにしてるかというと、制限をかけることで生まれるクリエイティビティーがあると思ったからです。あとはコロナ禍の影響もありますね。自分はスタジオに行くことで制作のスイッチを入れるような感じだったけど、そうも言ってられなくなったので、スタジオに2台あったMASCHINEのうちの1台を自宅に持って帰ったんです。家だと最初はなかなかスイッチが入らなかったけど、思い切って機材のセットアップを変えたら結構新鮮な気持ちになれた。 周りのミュージシャンにも今あえて古いサンプラーを引っ張り出してきたり、DAWバリバリの人が初めてハードのサンプラーを使ってみたりとか。普段プラグインにしてるものを外に出すだけでもかなり変わると思いますよ。
制作を始める前に心掛けている事やルーティーンなどがあれば教えてください。
やっぱり気になるサンプルに目星をつけておくことかな。あとはどうしても曲が作れない日もあるから、そういう時は買ったままにしておいたキットを聴いて、ひたすらフェイバリットボタンを押し続けてますね (笑) 。普段は使わないようなテクノっぽいキットを聴いてみて、「これならいけるかな?」ってやつを探しておくというか。「KREVA YouTube Live !」の話題の時に話した「PARADISE RINSE」なんかもまさにそんな流れで目星をつけたキットでしたし。本気で作る時のための準備をしておくという感じですかね。
自宅で制作する際、作業する時間を決めたりはしますか?
できる時に気分でやってます。大体15〜18時くらいがやりやすい感じです。
調子が良いとそのまま朝までとか….
それはないです (笑) 。
MASCHINE MK3は主にどのような作業の時に使いますか?
俺の中だと最初のチョイスですね。まず触ってみるっていうか。パッドモードよりも、キーボードとコードモードを使ってることが多いと思います。自分が欲しいキーがなんなのかを見つける。もちろんそういうのを解析してくれるソフトもいっぱい持ってるけど、それよりもMASCHINEのキーボードで「メジャーかな? マイナーかな?」って音を一つ一つ探っていくのが自分には一番合ってるみたい。それが結局早い。いつも「ALICIA’S KEYS」のドライがMASCHINEのGroup.AのPad1に立ち上げてあって、それでキーやコード進行をチェックしたりしてます。
「ALICIA’S KEYS」は「Kreva YouTube Live 3」でも紹介されてましたね。軽く弾いてもピアニストっぽく聴こえてしまう。
でしょ (笑) 。それをやらせてくれるのがMASCHINE MK3なんですよ。ディスプレイがカラーで2画面あるこのスタイルは素晴らしい。これは確かMASCHINE STUDIOからでしたよね? 今までのも2画面だったけど、ちょっと画面が小さくて、すべての機能を使いこなせていない感じがしてたんです。持ち運びを考えてMASCHINE MIKROを使ってたりもしていたけど、MK3になって自分が欲しかった情報が完全に見えるようになった。そこからやれることが抜群に広がりましたね。
「MK3でパッドのサイズを大きくしてパッド同士の間隔を詰めたのは革新的な考え方だと思った。」
MASCHINE MK3の気に入ってる機能を具体的に教えてください。
やっぱりキーボードモードかな。パッドの感度もいいですね。あとは薄さ。自分はMPC育ちなので、当時MK1を買った時はちょっと薄いと思ったけど、それは間違ってましたね。この薄さが良い。さらに言えば、MK3でパッドのサイズを大きくしてパッド同士の間隔を詰めたのは革新的な考え方だと思います。自分もその発想はなかった。いわゆる世間的なパッドの感覚に縛られてたけど、MK3のパッドを使ってびっくりしました。例えばアイロンの先端が片側だけ尖ってることに開発されてから50年間誰も疑問を持たなかったらしいんです。2010年になって新しい形 (Wヘッド) が作られて使ってみたら、使いやすくなった、みたいな (笑) 。
わかりやすい例えですね (笑) 。
パッドが大きくなったことによって、具体的にはドラムフィルを3連で打ちやすくなった。あとパッドの感度が良くなっているのでハイハットの強弱を思った通りのフィーリングで打てる。これまではキーボードでMIDI入力するのが最強だと思っていたけど、MK3はそれ以上が出たりしますね。
ちなみに、今日もお持ちいただいている「成長の記録〜全曲バンドで録り直し〜」のジャケットに使用されたホワイトにカスタマイズされたMK3。これはどのような経緯があったんでしょうか?
デザイナーさんとジャケットの打ち合わせをしている中で、「ちょっと昔の家電にあるレトロっぽい良さがある機材を使いたい」みたいな提案をしてもらったんです。俺はそういう機材を使って曲を作ってなかったけど、「実際使ってる機材をレトロに寄せることはできます」って答えて。デザイナーさんが欲しがってた質感を出すために、ghostinmpcというアーティストに頼んで外側をペイントしてもらったんです。すごく気にいってます。
ではMASCHINE+を実際触ってみた印象を教えてください。
思ってた5倍くらい良かった。小さな違いかもしれないけど、ノブ周りの素材が金属になったのがめちゃくちゃデカい。
金属だと何がいいんですか?
単純にカッコいい (笑) 。あと素材が変わったことで、回し心地が程よく重くなったんですよね。今までは1から2に進んでいたのが、1.1、1.2、1.3….とより細かく進んでいくイメージ。1と2の間を選択するための精度が上がった感じがしました。俺の直感をしっかり感知してくれているから、細かいピッチの調整とかにもやる気が出ちゃうんですよね。今聴きたい音、選びたい音をしっかり選べる。だからストレスがないんです。あとジョグホイールを倒す動きにもクリック感があって、触ってるとどんどん使いたくなる。別に大した差はないのかもしれないけど、自分的にかなりデカい。不思議です。
KREVAさんは、MK3とMASCHINE+をどのように使い分けていますか?
MASCHINE+はスタンドアローンじゃないかなと思います。俺はずっとそれを待っていたんです。自分のライブ映像にはMASCHINE MK3が出てくるところがあるけど、実は見えないようにテーブルの下にPCを隠してるんです。MK3はそういう工夫をしてでもライブに使いたいと思わせる魅力があった。今はライブができる状況じゃないからまだパフォーマンスで試せていないけど、さっき言ったノブやジョグホイールが金属っぽくなったのは、持ち運ぶことを前提にしてるから剛健になったと思うんですよ。早く持ち出したいですね。
では最後に、KREVAさんが普段聴く音楽を教えてください。
最近はあまり聴かなくなってますね。Twitchをつけると誰かしらがビートを作っていて、有名な人から「どこの国?」かなみたいな人まで。そういうのを観ていることが多いです。そこから発見があるんです。自分が思ってもいなかったプラグインの使い方をしてる人や、持ってても使ったことのないプラグインを改めて知ったりとか。そういう意味では、これはお世辞じゃないけどTRANSIENT MASTERは2020年で1〜2を争うトレンドだったと思います。いろんなところでいろんなビートメイカーがまず挿すというか。俺もほぼ全サウンドにTRANSIENT MASTERを挿してましたから。もちろんMASCHINE上でも、DAW上のプラグインとしても。自分は音楽を聴くよりも、そういうのを観るほうがためになるんですよね。音楽を聴くのは楽しさもあるけど、インスピレーションを感じるためにっていうのもあるので、今、実際に作ってる人のことを観るほうがより刺激を受けますね。
使用機材:MASCHINE+, MASCHINE MK3, ALICIA’S KEYS, PARADISE RINSE, BATTERY 4, TRANSIENT MASTER
当記事はfnmnl.tvの記事を再構成したものです。
Original article: Keita Miyazaki
Additional interview: Soichi Ōno (Native Instruments)
Photographer: Teppei Kishida, Jun Yokoyama
Stylist: 藤本大輔 (tas)