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by Tim Cant

Hip-hop drums 101: ドラムパターンの作り方

Hip-hop drums 101

過去50年の間、ヒップホップが最も影響力のある音楽文化であった事は間違いない。その歴史はアンダーグラウンドDJがブロックパーティでブレイクビートを発明した頃から始まり、現代に至るまで、多くの進化を遂げてきた。しかし、その人を踊らせる魅力はジャンルの誕生から変わらず、ファンキーなドラムパターンに隠されている。

この記事ではヒップホップドラムパターン作りの入門ガイドとして、定番曲を参考に、ヒップホップのビート作りの基本要素を分析する。そして、トラック作りの基盤となるビートを作れるようになるために、それらの要素の作り方を詳しく解説しよう。この入門ガイドはヒップホップドラムパターン作りのカンニングペーパーだ。

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EMPIRE BREAKS, KONTAKT 7, CRUSH PACKを使用してこのチュートリアルを進めよう。
EMPIRE BREAKSの製品情報

ヒップホップビートはどのように作られているのか?

近代的なデジタルのヒップホップサンプリングが生まれる前、DJは2つのターンテーブルとファンキードラムのブレイクダウンを収録したレコードを駆使して、ビートを基調に拡張したグルーブを作り出していた。

ヒップホップ文化が栄え、アーティスト達がヒップホップレコードを作り始めた1970年代後半から1980年代前半の頃、プロデューサー達はこのレコード基調のアプローチをアナログ録音したブレイクビート基調のアプローチに変化させ、それをWest Street MobのBreak Dance – Electric Boogie (Incredible Bongo BandのApacheを使用)や、トラックを生バンドと共に再生したSugarhill GangのRapper’s Delight (ChicのGood Timesの再構築)などのトラックに応用した。

1980年代にはドラムマシンの性能が上がり、価格も下がったことで多くのヒップホッププロデューサーが使用し始めた。ドラムマシンを使ったファンクらしいビートはRun DMCのSucker MC’sなどのトラックで確認することができる。

デジタルサンプラーが手頃になり始めた1980年代後半から1990年代前半以降、ヒップホッププロデューサー達はブレイクをサンプリングし、それを切り刻み、新しいパターンで再構築した。The Honey DrippersのImpeach The President, Melvin BlissのSynthetic Substitution, そしてSkull SnapsのIt’s a New Dayなどのファンクブレイクはいくつものヒップホップトラックの柱となった。

ヒップホップビートがファンキーな理由は?

ブレイク自体の音質感の他に、定番のヒップホップドラムビートのサウンドを決める大きな要素はプログラミングの方法だ。E-mu SP-1200Akai MPC60などの人気ハードウェアサンプラーには内蔵シーケンサーが搭載されており、これを使ってプロデューサーはプログラミングされたドラムにスイング感を与えることができた。この機能は8分音符、16分音符のタイミングで音符を少し後ろにずらす事によって、リズムに魅力的なグルーブを与えている。

1995年にリリースされたMobb DeepのShook Ones Pt.IIの中で、このスイング機能の実用例が確認できる。

A bar from “Shook Ones Pt.II”
Shook Ones Pt.IIからの1小節

この画像例では、Ableton Liveのシーケンサーグリッドは6分音符に設定されている。8分音符で演奏される音は全てグリッドに完璧にシーケンスされていることが分かる。

しかし、1.2.4と1.4.4のキックドラムは16分音符であり、それらは本来の位置と次のグリッド線の間に位置している。

これが16分音符のスイングであり、ヒップホップの中にある人々を動かすファンク感の正体だ。

以下の画像例は2015年にリリースされたJ. ColeのWet Dreamzからの1小節だ。ここにも1.2.4に16分音符のスイングが見受けられる。

A bar from “Wet Dreamz”
Wet Dreamzからの1小節

以下の画像例は2022年にリリースされたDenzel CurryのWalkinからの1小節だ。このトラックの特徴はテンポチェンジを含んでいることであり、80 BPM代前半のヒップホップスイングから始まり、トラックの3割ほど進んだ所でスピードアップしたトラップ系のサウンドに変化する。

A bar from “Walkin”
Walkinからの1小節

この小節はトラックの冒頭部分からピックアップしたものであり、1.1.3, 1.2.3, 1.3.3, そして1.4.3のハイハットがグリッドに対して遅れていることから、8分音符のスイングがあることが分かる。8分音符のスイングには16分音符のスイングのよりも強い揺れがある。

スイングは目よりも耳の方が認識しやすいので、まずはビートを作り始めてみよう。これらのドラムビートテクニックはヒップホップのみでなく、ラップやトラップのジャンルにも使用されているものだ。今回はヒップホップビートに特化したライブラリであるNative Instruments EMPIRE BREAKSを使用して進めて行こう。この音源は無償のKONTAKT PLAYERで使用出来るので、ビート作りを始める方に最適だ。

ヒップホップドラムパターンの作り方

1. キットを選択する

適切なサウンド選びは制作の基本なので、ビートのプログラミングを始める前に、重量感と滑らかなヒップホップ感のあるキットを選ぼう。EMPIRE BREAKSのドラムサウンドはMIDIコントローラーからの演奏、または楽器のインターフェースにあるドラムパッドで演奏することで確認できる。インターフェースのプリセット名セクションにある矢印ボタンを使って、試したい様々なキットを選択することができる。Disco Kit (122 BPM)プリセットは大きなヒップホップビートに相性が良さそうなので、これでヒップホップMIDIドラムパターンを作ろう。

Selecting a drum kit in EMPIRE BREAKS
EMPIRE BREAKSでドラムキットを選択する

2. ビートをプログラミングする

DAWのテンポを88 BPMに設定して、1小節のMIDIクリップを作成しよう。1と3拍目にC1キックを、2と4拍目にD1スネアを、そして拍の間にF#1クローズハイハットを入れよう。

基本的なビートは完成したが、スイングがないので、これではまだ機械的なサウンドだ。

A basic hip-hop beat
基本的なヒップホップビート

3. スイング感を足す

3拍目前の最後の6分音符である1.2.4にC1キックを追加しよう。スイングなしではまだ退屈なので、DAWの自動的にMIDIをグリッドに沿わせる機能(またの名をクオンタイズ)をオフにして、キックを今と次の16分音符の中間くらいの位置に遅らせよう。

DAWにはこのようなスイング調整を自動的に行ってくれるスイングクオンタイズ機能が備わっているが、実際に手動で行うことで、スイングの理解が深まるだろう。

この作業でキックがよりヒップホップらしく仕上がったが、少し音量が大きいので、ベロシティを少し下げよう。

Adding a swung kick drum
スイング感のあるキックドラムを追加する

4. 変化を加えよう

3つ目のクローズハイハットをオープンハイハットに変更することで、ファンク感を足すことができる。MIDIをG#1に上げよう。オープンハイハットが加えられたことで、スイング感のあるグルーブに自然な流れが生まれた。

Switching the third closed hat to an open hat
3つ目のハイハットをクローズからオープンに変える

5. ダイナミックレンジを狭める

EMPIRE BREAKSのキットには内蔵プロセッサーが搭載されており、FXボタンをクリックしてGlobal FXセクションを選択すると、多くのエフェクトが楽器のメインアウトにかかっている事が分かるだろう。Limiterモジュールをクリックして、Thresholdノブを下げよう。これはリミッターが作動し始める音量を決めるパラメーターなので、これを下げることでダイナミックレンジが狭まり、より大きなサウンドのビートに仕上げる事ができる。

この作業のコツは力強いダイナミクスと個性的なザラザラ感のバランスを正しく取ることだ。-8 dBくらいのスレッショルドが丁度良いだろう。

Turning down the threshold to make the beat louder
スレッショルドを下げてビートの音量を上げる

6. ギラギラとした光沢感を加える

ここにディストーションを加えることで、よりギラギラとした仕上がりにすることができる。Distort FXをクリックすると、DriveとDampingのパラメーターの隣にある黄色い点に気付くだろう。これはインターフェース下部にあるAgeマクロのノブでコントロールされている印であり、Ageマクロ自体の隣にも黄色い点がある。Ageマクロを15%に上げよう。マクロの微調整はShiftキーをホールドしながら行う事ができる。

これにより定番のヒップホップブレイクと1990年代のローファイヒップホップパターンを彷彿とさせるビンテージ感のあるクランチがビートに与えられた。

Adding distortion with the Age macro
マクロコントロールの "Age" でディストーションを足す

7. ベースサウンドを見つける

ビートが完成したので、次はベースラインを加えよう。ジャズ風のヒップホップトラックにはアップライトベースが使われることもあり、この大きく、音域を満たすサウンドには研ぎ澄まされたソリッド感がある。

KONTAKT 7のFactory Library 2には素晴らしいベース音が揃っている。KONTAKTライブラリを選択して、BanksフィルターをBandにして、Bassタグをクリック、Jazz Uprightパッチをダブルクリックでロードしよう。

Loading a jazzy bass patch in KONTAKT
KONTAKTでジャズ風ベースパッチをロードする

8. ベースラインを作る

こちらはCマイナーセブンスコードを軸に作られたベースラインだ。これは生演奏なのでグリッドにクオンタイズされていないのだが、この僅かなタイミングのずれが自然なサウンドを生み出している。

MIDI for the upright bass
アップライトベースのMIDIノート

このサウンドに力強さを出すために、Native InstrumentsのCRUSH PACKに含まれるDIRTを足して、Berlin Treblemasterプリセットを選択しよう。このままではDAWのマスターチャンネルがクリップするので、ドラムとベースのトラックの音量を-3 dBに下げよう。

Saturation from DIRT enhances the bass sound
DIRTのサチュレーションでベースサウンドを強調する

完成したヒップホップドラムパターンはこのようなサウンドになる。

ヒップホップドラムパターンを作り始めよう

この記事では1からヒップホップドラムパターンを作る方法、ファンク感を出す方法、そして生々しいサウンドを作る方法についてご紹介してきた。このテーマについてより深く知りたい方はHip-hop Sampling 101Understanding instrumental hip-hopHow to make a Type Beatなどの記事もチェックしてみよう。(※現在は英語版のみの公開)

音楽制作におすすめなEMPIRE BREAKS, KONTAKT 7, CRUSH PACK, BATTERY 4, そしてBUTCH VIG DRUMSなどのインストゥルメントとエフェクトもチェックしよう。
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