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by Paul Hanford

ゲーム「Celeste」のLena Raineが、ゲームの作曲家になるまでの道のり

シアトル在住のプロデューサーLena Raineが、ミックステープ作りやロックダウン中の生産性の上げ方、そしてなぜMASSIVEがインディーゲームのヒット作品『Celeste』のレトロなサウンドに必要なシンセだったのかを語る。

ミックステープ作りは今やプロデューサーの通過儀礼だ。楽器の弾き方を学ぶのではなく、自分の好きなサウンドを自分なりの工夫を凝らして組み合わせ、音楽の世界への第一歩を踏み出したプロデューサーが今までにどれだけいるだろうか。インディーズゲームのヒット作『Celeste』や『Guild Wars 2』の作曲家であるLena Raineもその一人だ。

「昔、よくゲームのサントラからミックステープを作っていました」とLena RaineはNIに語る。幼い頃にゲーム音楽、特に初期のファミコンのサウンドトラックに没頭していたことが、BAFTA(英国アカデミー賞)にノミネートされ、ASCAP Video Game Score of the Year(最優秀ゲーム音楽賞)を受賞したゲーム『Celeste』の音楽のきっかけとなった。「ゲームからオーディオを取り出してテープデッキに繋ぎ、サウンドテストを録音して、そのトラックをループさせて作った曲をテーププレイヤーで聴いていました。」

と、故郷シアトルからZoomでインタビューに応えてくれた彼女は過去を振り返る。10年以上もの間、Kuraine名義でゲーム音楽を制作したり、ソロ作品をリリースしたりしていた Lena Raineにとって、『Celeste』の成功は大きな驚きだったはずだ。「私の事を12年間誰も知らなかったのに、突然誰もが私の音楽を聞きたがったんです。まさに爆発的な注目度で、嬉しかったけど、逆に圧倒もされました」

『Celeste』は世界中で高い評価を受け、初年度に50万本を売り上げた。このゲームは、表面的には登山のスリルと魅力を表現しながら、実際は、精神疾患の認知、対処、そして克服という大胆なテーマを取り上げている。Lena Raineのレトロな雰囲気のサントラによって、ゲーム内のアクションはしっかりと強調され、そして増強されている。そして、そのサウンドのほとんどはMASSIVEによって生み出されていた。

「もともと意図的に懐かしさや記憶を呼び覚ますつもりであの音を使ったわけではなく、単純に自分の心に響く音を使っただけなんです。でも、結果的に多くの人がそれに共感してくれたのは本当に嬉しかったですね」と彼女は言う。Lena Raineの音楽は、「物語」と「そこに湧き起こる感情」を上手く表現しており、彼女がゲーム音楽に没頭してきた中で培われた直感(本人も実際「物心付いてからずっと」と言っていた)によって、その両方を表現している。

「子供の頃は割とつまらない子でした。特に危ない橋を渡る方でもなかったし、そもそも人見知りで…だからパーティーに行ったりとか、あまりアクティブな方ではなかったですね」と彼女は言う。シアトルで育ったにもかかわらず、彼女のミックステープ作りに影響を与えたのは、グランジではなく、『ゼルダの伝説』や『マリオ』のような初期のファミコンのゲーム、そしてキングダムハーツシリーズの下村陽子のサントラだった。「グランジはジャンルとして知ってましたが、私はベッドルームにこもってオンラインRPGをするような子供でした。父はレコーディングエンジニアとして音楽業界に携わっていて、よくグランジバンドのレコーディングスタジオに出かけていったりしていたので、私もたまに見学しに行っていましたけどね。」

「私が音楽の世界に入ったのはゲームの音楽が好きだったからで、父が色んなかっこいい機材を持っていたからです。昔はよくファミコンやメガドライブのチップチューンをスタジオのモニタースピーカーで聴いていました。新しいゲームのサウンドトラックを見つけては日本から輸入することに夢中だったんです。」とLena Reineは明かす。「年齢を重ねて気づいたのは、ゲームの作曲家たちがどれだけ様々な影響を受けているかということでした。ゲーム音楽は、当時のハードウェアの制約から一定の音色しか表現出来なかったけど、スタイル的にも作曲的にも非常に洗練されていて、アイリッシュミュージックやJ-Popなど、シアトルで生まれ育った私が聞いたことのない、世界中の様々な音楽ソースからの影響を受けていたんです。」

“私はMASSIVEを買って色々と試してみたけど、これまで出会った中で最も親しみやすかったし『やったー!ツマミがいっぱい!』って思いました。”

しかし、これだけエレクトロニックなサウンドが話題になっているにも関わらず、Lena RaineはMASSIVEを手に入れるまではシンセをあまり使ったことがなかったと言っている。「子供の頃からあまり機材に詳しくなかったんです。モジュラーシンセを使った音楽はやってなかったですね。シンセの経験はDX7とか古いMoogのような、ほとんど父のスタジオに置いてあったキーボードからでした。Moogは楽しかったですね。ポルタメントのセッティングがあって、いつもスライドノートを弾いて遊んでました。子供の頃の機材の良し悪しの基準は『変な音が出るかどうか』でしたね。」

「MASSIVEのことは、Fezというゲームのサントラの作曲家の Rich Vreeland 氏(通称 Disasterpeace)が、講演会で実際のMASSIVEのUI を見せながらパッチをどのように作っているかを紹介していた時に知りました。私もMASSIVEを買ってきてすぐに色々試しました。今まで出会ったシンセの中で一番親しみやすいシンセでしたよ。当初、私にとってはツマミだらけのシンセで取っ付きやすくて『やったー!ツマミがいっぱい!』って思ってましたね。」

カナダのゲーム開発者であるMaddy Thorson氏とNoel Berry氏が、ゲームジャム(訳註:ゲームクリエイターが集まり短時間でゲームを制作するイベント)中に4日間で『Celeste』のプロトタイプを完成させたことが話題になった。Lenaはゲームの制作を「目立たないプロセス」だと言っていた。チームはSlackチャンネルを介してコミュニケーションを取り、彼女は当時日雇いの仕事もしていた。「仕事で疲れて帰宅すると、自分が実際に所有権、代理権を持っているものに夢中で取り組んでいました。」

MASSIVEを使用することで、Lenaは『Celeste』のサントラに対するクリエイティブなビジョンを実現することができた。彼女は次のように述べている。「MASSIVEは本当に表現力豊かで、プロフェッショナルなサウンドを作るためのツールになりました。良い音を作るために大きな予算は必要ないですね。Lo-fiな音にディストーションやフィルターを掛けたり、コンプでメチャクチャに圧縮したりするだけで本当にクールなサウンドを作ることができました。これが今の音楽制作の形なんです。いい音を作るために、自分が優れたミキシングエンジニアになる必要はなかったです。」

今、Lenaは、広く認知され、賞賛されて行くにつれて、スケジュールがどんどん過密になっていくことに気がつき始めている。COVID-19やロックダウン、その他ここ一年のうちに起きた変化は、多くのプロデューサー、エンジニア、ミュージシャンに共通する不安をもたらした。彼女が今年、冷静に、集中して、生産的にスタジオで過ごすため、どのようなテクニックを身につけたのかを聞いてみた。

「机の横に小さなホワイトボードを置いたり、毎日どんな事をしたらいいか勧めてくるカレンダーアプリも使ったりしています。すべてのプロジェクトを書き出してカンバン式の小さなボードにセットして、それを動かして進捗状況を確認しているので、自分がどれだけ何もしていないか思い知らされて落ち込むこともありません。毎回、週の初めにチェックリストを作って、その日の終わりに更新するんです。たまに『あぁ、今日は全然進まなかったな』と思ってリストを見ると、実際には3分の2は終わっていたりして驚きます。『大丈夫、作業は着実に進んでいるし、それでいいんだ』という感じです。」

彼女は最後に、自分自身を大切にすることの重要性について一言コメントした。「最近、セルフケアが自分を甘やかすということだけではないと気がつきました。「自分に優しくしたり、自分を褒めてあげることも時には大切です。自分が取り組んでいることについて非常に健康的に取り組むこと、そして時にはノーと言う勇気を持つことです。」

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