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by Angus Finlayson

Mr. MitchがニューアルバムLazyの制作で使用したツールやテクニックについて語る

グライムの革新者である彼のロンドンのスタジオをバーチャル訪問。制作での"バランスの取れた無駄の削ぎ落とし方"について語ってもらった。

Miles Mitchellは最新アルバムをLazyと名付けた理由について「僕は毎日椅子に座って音楽を作るタイプの人間ではなく、小さな爆発のように、時間や想像力がある時に作るんだ。」と語る。しかし、ベテランプロデューサーであり、Gobstopperレコードのボスでもあり、Boxed nightの共同創立者である彼のことを、誰も「怠け者」とは責められないはずだ。「別の角度から見れば、『僕は音楽を作りながらレーベルとナイトクラブの運営をして、3人の子供を育てながらフルタイムの仕事もしているんだ。だから確実に”Lazy=怠けている”じゃないよね』って思うよ。」

MitchellのMr. Mitchとしての音楽を理解するために重要な教訓がある。それは「十分にやらない」のと「やりすぎない」には大きな違いがあるということだ。10年以上も前にロンドンのグライムシーンから出現したMitchellの音楽は、スタイル的な枠組みは広がりつつも、徐々に簡素なものへと変化している。彼は柔らかなポップス、クラブ的なダンスホールミュージック、レフトフィールドハウスなどのジャンルを問わず、軽いミニマリスト的なタッチを作品に与える。そこには重要な要素のみがあり、余分なものはない。

この手法の原点はPeace Dubsにまで遡る。Peace Dubsは彼が2013年から点々とリリースしてきた名盤を簡素にエディットしたもので、グライムの”war dubs=ダブ戦争”のコンセプトを反転させたものだ。「Peaceの編集で行った実験が全てのきっかけだったんだ。いくつかのトラックを解体して、基本要素のみにした時に気付かされたんだ、多くの要素は必要ないんだってね。」

現在、彼の音楽制作は2つの手順で行われる。まず、DAWの性質に誘惑されるがまま、音のレイヤーや素材を足していく。「全てのレイヤー、異った要素やメロディーで相性の良いものをどんどん足すんだ。」そして、減らしていく。「僕のプロジェクトのページはかなり埋まって見える。トラックだらけだけど、その多くはミュートされているんだ。必要で残すのはほんの少しだよ。」

何を減らすかを決めるとき、Mitchellはやみくもにしきたりを守るのではなく、自身の内なる想像力の声に耳をすませる。「多くの場合、正しい時にはわかるものだよ。何か足さないと、と言ってくるのは自分の外にあるものだ。『これをしなきゃ、これを足さなきゃ正当なトラックじゃない』と言ってくるのは他人だ。自分がこれで完成かな、と思えたら多分終わっているんだよ。」

その結果としてミックスには広い空間が生まれ、そこには演奏されていない音の「ヒント」が残る。「多くの場合、要素を取り除くと、それはまだそこに残っているような感じがするんだ。それらは幽霊的な音で、他の人たちに聴こえるかは分からないけど、僕には聴こえるんだ。なぜかは分からないけど、存在感だけが残るんだよ。」

Mr. Mitchのミニマリスト的なアプローチはLazyのタイトルトラックで1つの頂点に達している。Mitchellは不快感のあるジャズ的なコード進行からトラックを作り始めた。彼は、Logicで打ち込んだものをラック型のProphet ‘08のポリフォニックシンセに通した。彼はコードについて「すごく良い音だったから、他に何もいらないと感じたよ」と語る。そしてフィルターのカットオフやアンプリチュードエンベロープに巧みな変化を加えることで興味を保ち、ボーカリストのManga Saint Hilareのための空間も十分に残している。ここでもMitchellの”Less is more”のアプローチが鍵となり、ボーカルはシンプルでありのままのサウンドとなった。

「グライムのMCでは全てのダブル、全てのアドリブ、全ての異なるスタックを録音しないといけないという暗黙のルールのようなものがあるんだ。僕が多くのMCのプロジェクトを聴いて感じるのは、音を満たそうとするあまり、レイヤーをしすぎて自然なエネルギーや抑揚が失われている。僕は昔から1トラックに対して1ボーカル、というのが好みなんだ。特に”Lazy”のようにミニマルなものだと、ボーカルにレイヤーを重ねに重ねる必要はないね。」

LazyはSaint Hilare, ピアニスト兼作曲家のDuval Timothy, プロデューサーのSocial Stateなどとのコラボレーションが特徴的だ。共作するにあたり、MitchellはMaschine Jamを使用することで制作のプロセスに自発性を足している。その中でもNote Repeatの機能と、スライダーを使用した流れるようなピッチ操作はパーカッションに表現を足すのに役立っている。Jamの素早く感覚的なステップシーケンサーは彼にLogicの前に使用していたDAWであるFL Studioを思い出させたようだ。

「FL Studioのステップシーケンサーではとても直感的にドラムが作れたんだf。Logicに移ってからは全てがドラッグアンドドロップ方式だから、エネルギーのあるドラムを作るのがとても難しくなったんだ。だからMaschine Jamでステップシーケンサーをまた使えるようになって、色んなサンプルへのアクセス、レイヤー、そして様々な形への処理が簡単になった。コラボレーション時のドラムループ作りがとても楽で速くなったよ。」

Omnisphereや彼が若き日に集めたサンプルパックと並び、MaschineのドラムライブラリはMitchellの制作ツールとして欠かせないものだ。長年デジタルの制作ツールを集めて来た彼だが、最近ではその使用を減らし始めている。彼の最近のトラックの多くは「3つの重要要素」のみを使用しており、彼いわく、「僕はシンプルな状態のまま、それを毎回新しいものに作り変えたいんだ。それを実現させるのが僕の使用するエフェクトのプロセスなんだ」と語る。

エフェクトをかける際、Mitchellの薄いアレンジを特徴付けるのに不可欠なのがサチュレーションだ。「クリーン、またはクリーンすぎるサウンドは好きじゃないんだ。特に自分のミニマルなトラックだと、更にはデジタル音主体で構成されているものだと、プラスチック的なサウンドの要因となってしまうんだ。存在感を足すのが好きなんだね、きっと。もっと生きた感じにするために。そのためにサチュレーションは重要なツールなんだ。」

ディレイとリバーブもMitchellの音楽の大きな空白を取り扱う上で重要な要素だ。特にSoundtoysのEchoboy JrとWavesのKramerのディレイを使っている。「僕のトラックの多くはチャンネルの使用量としてはとてもミニマルなんだ。だから変わったエコーやとても短いディレイをかけることで少し空間を埋める、というのが好きだね。あまり多くのことせずに、存在感を出せる。」

Lazyの最後のパズルピースはサンプリングだ。Mitchellはとても特徴的な方法でこれを行う。

彼のサンプリングの手法に技術的な秘密はない。彼はオーディオをLogicに入れ、たまに内蔵サンプラーなどを使用し、面白いものができるまで遊んでみる。「刻んだり遅くしたり色々とやってみて、何ができるか探ってみるんだ。できるだけ素材の本質的な部分は残しつつ、でも新しい、という音にしようとしているよ。」

しかしMitchellが優れているのは「サンプルの選択」であり、シンプルでありながらもリッチなサウンドを選ぶことで音楽に深い意味を足している。そしてこのアルバムでは彼の父の存在が何度も登場する。穏やかな雰囲気の曲”Proud”では、サンプルされたJamie Foxxが「僕が成したことを見るためにあなたがここにいてくれたらと願う / あなたがここにいたらと願う、あなたはきっと自分の息子を誇りに思う」と歌っている。一方、他の2トラックはMitchellの生前、父がミュージシャンであった頃の古いデモを基盤に作られている。

「僕が子供の時に使用していた父親の古いパソコンが何年か前に壊れたんだけど、とある会社にとても高額なお金を払って、ハードディスク内のファイルを全て復元したのを覚えているよ。結局全て復元できたんだけど、全てのファイル名が消えてしまっていて、ただのファイルの山のようになっていたんだ。そして僕はその中から彼が録音したいくつかのデモを発見した。彼は何年も前にテープからコンピューターに録音していて、僕はそれをとても気に入ったんだ。」

Movin Upはそのデモの1つを基盤に作られており、珍しいグルーブ感のトラックに甘くゆったりとしたエディットを施している。

一方の“Did We Say Goodbye”では、ギターの断片やピッチダウンされた声がミュート掛かったハウスのキックの上で鳴っている。Mitchellはこれを「音楽的に父と繋がることなんだ、僕の音楽的な素質は彼から受け継いでいると感じているから」と語る。しかしサンプルには曖昧な一面もあり、後者のトラックの場合、時間と共にその意味は変わってしまった。

「“Did We Say Goodbye”はロックダウンの直前に作ったんだ。そして多分、この状況下だと曲の意味合いが変わってくると思う。僕は過去数年間のツアーの様子を小さなハンディカムに撮りためていたんだ。そしてそれを曲と併せたとき、すべての辻褄が合ったよ。」作成されたトラック用の映像はMitchellの動画とツイッターのフォロワー達のクラブ通いの思い出を合わせたものだ。タイトルの”goodbye”はまた別の意味を持つことだろう。

ある意味、このアルバムは全体的に昨年のロックダウンをインスピレーションとしている。MitchellはBandcampで自由に流れ行く音楽を目の当たりにし、影響を受け、自身のアウトプットを重く捉えすぎないようになった。「数年前だったらこれらの曲をまとめて、世に出す勇気がなかったと思うよ。このアルバムは色んな要素を含んでいて、1つも共通したメッセージがないからね。まるで自分自身、そして自分の今ハマっている音楽を形にしたようなものなんだ。過去1年で確実に学んだよ、とにかくやりたいことをすればいいんだってね。」

 

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