• Eomac + Kyoka = Lena Andersson

    アイルランド人プロデューサーEomacと、日本人アーティストKyokaのコラボレーションプロジェクトに迫る。…

    Interviews
by Ronan Macdonald

Patch and play with ENA and MASSIVE X

商業音楽からアンダーグラウンドをカバーする音楽プロデューサーENAが
手掛けたMASSIVE X パッチを無料ダウンロードしよう。

東京を拠点とするプロデューサー、ENAは日本のアンダーグラウンドシーンの第一人者であり、2000年代半ばからその研ぎ澄まされたダークさと痛ましいほどの美しさを備えた電子音楽で独自のスタイルを築いてきました。クラシックなドラムンベースからレイブミュージック、ヒップホップやヘビーメタルまで、めまぐるしいほど多彩な音楽スタイルが共存しています。ベースサウンドとノイズの巧妙なコントロールと緻密な構築が、彼のサウンドの醍醐味であり、実験的な音楽の他にもポップスやコマーシャル音楽の制作を行っています。

そこで今回Native Instrumentsは、彼のハイコンセプトかつ熟考されたサウンドデザインを捉えたMASSIVE Xパッチの制作依頼をしました。結果、8つのマクロを活用した明るいパーカッシブなサウンドからダークでゆっくりとうごめくパッド、またその中間のサウンドがシームレスに変化する多彩な質感と表情を持った用途範囲の広いパッチを制作して頂きました。このパッチの特筆すべき部分として、2つのノイズジェネレーターのボリュームとピッチがトリガーシンクされていないPerformer 1と2のモジュレーションによって、絶え間なく動く無調層が構成されることや、Envelope 1やMacro 1と並行してアサインされているPerformer 2がフィルターに適用されており、持続するサウンド部分に動きが加えられています。

制作されたパッチが実際にどう動作するのか、ここから無償ダウンロードして試してみましょう。また、このMASSIVE Xの名パッチがどのような思考プロセスで制作されたのかを以下で紐解いていきましょう。

ご自身の音楽的な背景や制作されている音楽のことについて教えていただけますか?

クラシック音楽の家系で育ったので、自然と音楽を始めて現在にいたる。それがざっくりとした背景です。なのでもともと楽器を演奏してきたし、今ももちろん演奏しますし。今やっているのは、何ですかね。ダンスミュージックのはずです。(笑) 自分はダンスミュージックのつもりでやっているんですけど、ダンスミュージックと認識されないことも多々あり。そこは聴いてくれた人がどうやって受け止めてくれるか次第ですけどね。

制作されている音楽スタイルがとても多様だと感じました。普段から音楽のインプットは意識的にされていますか?

トップ40、いわゆるチャート系から、 トラディッショナルなソウルとかのブラックミュージックも含め、60sとかも聴きますし。あとは普通にヘビーメタル大好きだし。これといって聴かない音楽っていうのはないかもしれないですね。J・J・ケイルとか、あとはアルバートキングが好きなんですよね。自分がやっている音楽には程遠いですけど。そういった音楽こそ、数字で置き換えられない音楽じゃないですか。別に周波数とかプロダクション的には全然整っているものでもないけど、ないものねだりみたいな感じだと思うんですよね。今の音楽にないものがすべて濃縮されていて。特にアルバートキングはよく聴きますね。

そういったアーティストの方々から、制作する音楽に影響することはありましたか?音だけに限らず考え方や姿勢だったりとか?

計算されていてよくできた音楽ってあんまり心に響かなかったりするじゃないですか。もちろんケース・バイ・ケースでもちろん絶対ではないですけど、でもアルバートキングとかはド直球じゃないですか、あのパワー感が。今の音楽というかエレクトロニック系の音楽に一番欠如してる部分だなと思うんで。潜在的に近づけたらいいな~みたいな、そういう面での影響はあると思いますね。音譜上の影響はないにしろ、スタンスだったり、クオリティーかもしれないし、潜在的なパワーみたいなものには憧れますけどね。

初めてMASSIVE Xを使った印象はいかがでしたか?

すごく音がクリーンで、そのクリーンさが逆にアナログシンセっぽいなと。今までデジタル=刺さる、みたいな印象だったのが、ラウンドな感じの、いわゆるアナログシンセの感触、質感に似てるなと思いましたね。音が太いとかじゃなくて、楽器的で音に深みができたと言うか。機能的な豊富さよりかは、最終的な出音が単純にいいなと思いました。機能が増えたところで、良い音が出なければ意味もないわけだし。究極的には、一番大事なところは出音じゃないですかね。だからMoogやProphetしかり出音のキャラクターがあるというのが一番大事で、そういった部分がMASSIVE Xにはあると思いますけどね。

今までのプラグインのフィルターとかって、レゾナンスを上げるとピークが線みたくなっちゃうじゃないですか。MASSIVE Xは線になりにくいなという印象はあります。このMONARKフィルターの影響なのかもしれないけど、レゾナンスがすごく音楽的で、デジタルだけど、デジタルっぽくない。まあ理論的には完全にデジタルの音なんですけど、典型的なデジタルの音=トガって細いってイメージ、それがMASSIVE Xだと対極的でリアリティーがあって。そこがアナログ的なんですよね。でもローファイ感という意味でのアナログさは全然ない。

さらにアナログ感という点に関して、例えば生のピアノを弾くと、残響や共鳴も含めて、指を離した後も空気感は切れないですよね。今までのソフトウェアのシンセって、指を離すと、リリースが終わって音が止まると、急に空気感とか世界が切れちゃう感じがあったんです。アナログシンセってこの点が違くて、バックグラウンドノイズとか含めて、割と音が切れる時に世界が切れない感じであるじゃないですか。その感じがMASSIVE Xにはあるなと思って。

パッチングに関してもシンプルで見たまんまだし。エンベロープとかモジュレーションソースによってページを切り替えないといけなかったりしますけど、基本的にMASSIVE Xはスマートに音作りできますよね。多機能であるほど、階層を深く潜らないとダメだったりとか。その点、MASSIVE XのGUIはすごくシンプルで直感的だと思いました。

このパッチはどのようなアプローチで制作されていますか?

飛び道具的なパッチじゃなくて、普通に鍵盤で弾いて使えるパッチにしたかった。楽器として扱えるパッチということに加えて、マクロコントロールで打楽器的なプラックサウンドからドローンサウンドまで連続的にキャラクターが変化するような。一音がいろんな音に変化できればアンサンブルがなくても音楽を成立させることもできるし、このパッチはあくまでスタートラインで、これがすべてではないですけども。音の変化のバリエーションがあればいろいろな表現ができる。

例えば最近だとLatencyから出していたMohammad Reza Mortazaviの演奏とかを聴くとまさにその表現力があって、基本的にはドラムだから叩く場所によって音色はある程度違うけれども、あくまでも厳密に言うところの音階があるものでもないし、一個の楽器を極めるとここまでメロディーがなくても表現できるという点が結構ショッキングな発見で。

そこに近い考え方で1個のパッチでいろいろ連続的にテクスチャー、エンベロープ、周波数構成も含めた12音階以外の変化がたくさんあると新しい表現がやれるんですよね。音の感触や質感も含めて MASSIVE Xのキャラクターを生かした使い方をするとかっこいい感じになるんじゃないかと思って制作しました。

その他にもコンセプトやアイディアなどはありましたか?

今制作しているアルバムのコンセプトに一筆書きというものがあって、要は一個の音が様々な役割を持つと少ない音の構成要素で成立するようになってきて、今まで成立しなかったようなメロディーやリズムだったりフレージングが成立してくるようになってくるんですよね。それは結局テクスチャーとか質感がいいから音楽的に成立して聴けるようになる。今までの音楽の概念で成立しなかったものが成立できるようになってくる。音の良さだったりその一音の説得力みたいなものがあると、今までなかったようなミニマリズムみたいなものも成立できるようになって。そう言ったコンセプトをこのパッチに盛り込もうと思いました。

基本的に多くの音楽が、例えばドラムーキック、スネア、ハット、キーボード、ベースなど、複数の楽器が重なってアンサンブルになっていますよね。今はシンセサイザーだったり、いろんなツールがあって、制作手法の可能性はたくさんあるのに、 生楽器を模倣した音楽だけをやるということよりも、当たり前にある西洋音楽的な伝統からどうやったら抜けられるかっていうことに自然的な興味が湧いていて。コラボレーターのRashad Beckerはシリアのルーツがあって、自然と西洋的じゃない音の要素が出てくる。その点で彼からもすごい影響を受けていて。いわゆる伝統西洋音楽にないもの。そう言った伝統から抜けてみるというのは、この何年かはずっと意識はしています。

音の質感、テクスチャーという要素が作品を作る上においてどれくらいの重要度を占めているのでしょうか?

今の音楽をやるんだったらかなりプライオリティーが高い要素だとは思いますね。というのも結局、基本12音しかないから、メロディーは出尽くされてるとか言われ続ける中で、テクスチャーとか新しい音色がそこに加わると、使い切られている音譜なのに、また新しいメロディーが出てくるじゃないですか。わかりやすい例でいうと、ワブルベースとかまさにそう。こういうテクスチャーがあることによって、今までは成立できなかったシンプルなものが、成立できたりという可能性はすごくあるし、実際そういうふうに成立してる作品が今はたくさんあるし。

このパッチで活用しているMASSIVE Xの機能に関して教えていただけますか?

まずはパフォーマーを使ってます。LFOよりもっと複雑なことをやれるし、これでテクスチャーをランダムに動かして同じ音になりにくくしているという使い方をしてます。これも見たまんまで使い勝手がいい。これをノイズジェネレーターのボリュームとピッチにアサインしてます。単純に2つのノイズジェネレータがなんとなくクロスフェードするようになってピッチも片方が上がったら片方が下がるというランダム性を持たせることによってことによってシンプルだけれども、複雑にも聞こえるような。

後ろでパフォーマーのモジュレーションが曲のテンポとか全然関係なく、ゆったり動いてるんですけど、それが二重にかけてあったり。これも同じ音が2回出ないようにする為にプログラムしてます。デジタルっぽい音って、全く同じ音が2度出ちゃったりすることがあるので。例えばギターで言えばアップピッキングとダウンピッキングで音が違う。もう一回弾いたら音も全然違うわけだし、ある程度のランダム性を持たせるようにして、テクスチャー感を持たせてます。その部分が特に凝っている部分ですね。

あとは、マクロでフィルターの開閉に合わせてちょっとだけ音量を動かしてるんですけど、これはフィルターの周波数を変えると音量が変わるというのが、普通のフィルターの特性で、その音量変化が楽曲中で使いにくくなることが結構あるんですよ。なので、フィルターが開閉しても音量が均一になるように、ちょっとレベルを抑えたり、上げてみたりというのをマクロにプログラムしてあります。

エキサイターエンベロープも使っていて、これはアタック部分に深みとコントラストが付けられるんですよね。ただの単純なエンベロープのアタックだとできない独特のアタック感が出せて、普通のエンベロープとは全く別のキャラクターになりますね。

プリセットという存在が音楽制作に与えている影響はありますか?

特に商業音楽の制作をやっている場合ですけど、結局プロジェクトのリードタイムがないというのが全てなので、プリセットをひたすら選んでそこから微調整とかしつつ、プリセットがないと締切に間に合わないですよね。締切がタイトなことが多いので、決められた時間の中で求められた楽曲を提供する、時間との勝負になってきますよね。だから必然とプリセットの使用は必須になっていると思います。

 

Interview: Ryo Takahashi (NI Japan)

Header photography: Jimmy Mould

今回インタビューに答えて頂いたENAさんの作品はこちら。インタビュー内でも触れられている一筆書きをコンセプトに制作された最新アルバム”One Draw” (Nullpunkt Records)はBandcampから聴くことができます。是非チェックしてみて下さい!

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