• Eomac + Kyoka = Lena Andersson

    アイルランド人プロデューサーEomacと、日本人アーティストKyokaのコラボレーションプロジェクトに迫る。…

    Interviews
by Ralf Theil

Philo Tsounguiが、ドラム演奏と音楽監督、そしてMASCHINEを使った制作について語る

クラシック音楽出身のヒップホップドラマーが、制作とパフォーマンスに対するコンセプチュアルなアプローチについて説明する。

ミュンヘンのMusikhochschuleでクラシック音楽の打楽器を学んだ Philo Tsounguiがヒップホップのドラム演奏に興味を持ち始めたきっかけは、ジャズミュージシャンであるRobert GlasperのドラマーMark Colenburgとの2013年の出会いだった。3年後、Mannheim Pop Academyに転入し、クラシック音楽の外の世界に出た彼女は、様々なラップのライブショーによる新時代の音楽コンセプトを披露して一躍評判になった。

今年初頭、彼女が32個のドラムワンショットと4つのドラムループをNIのCOVID-19チャリティサウンドパックであるCOMMUNITY DRIVEに提供してくれた直後、Philoにインタビューを行った。彼女のBATTERYMASCHINE、Ableton、Logic用のアコースティックとエレクトロニックのドラムキットは、ここから無料でダウンロードできる。

ブレーメン近くの彼女のアパートからのビデオインタビューで、Philoはドラムセットに囲まれて座っていた。ツアーができなかった数ヶ月間、彼女は音楽制作、ビートメイキング、そして、サンプルやループパックの制作に没頭していた。そして、最近の世界的な危機状況でステイホームを強いられている中、彼女のご近所さんが感謝することに、Philoはドラムを静かに演奏することが何よりも得意だったのだ。

アパートでドラムを静かに演奏することを楽しめていますか?  

もちろん挑戦的なことではあるけど、楽しんでいます。もう一度、思いきり大きな音で演奏したいという駆り立てられるような気持ちはありますけどね。静かに演奏することは、これまで慣れていた演奏方法とは全く違った結果を生み出したので、単にボリュームだけが何かの埋め合わせになることはないですね。

 

あなたの仕事のことを教えてください。

音楽監督とドラム演奏が混ざったものですね。両方とも同じような仕事を含んでいるのですが、レベルが違うんです。音楽監督としては、スタジオで制作したものをライブ向けにアレンジする。ドラマーとしては、手持ちの機材だけを使って曲をライブにあう形に変換させる。そんな感じです。

 

ドラム演奏から音楽監督へ足を踏み入れるためには、どんな要素が必要ですか?

初めに何よりも大切なことは、組織的な才能と、事務的なぐらいドライなやり方で物事を取り扱うことですね。私はクラシック音楽出身で、様々なジャンルで働いて、たくさん演奏や勉強をしてきました。ヒエラルキーや構造がはっきりしてる環境での仕事を通して、良い点と悪い点をじっくりと観察してきたんです。 それに加えて、良く鍛えられた耳を持っていることと、カメレオンのようなアーティストとしてのビジョンを持っていることも大切です。

 

ワークフローについてお聞きしたいのですが、どのように制作を始めますか?

まず最初のステップは、 曲の中から必要になる楽器編成やステムを全部取り出して、セットを作ることですね。もちろん、そのセットはとても大きなものになります。解体された曲がごちゃごちゃになっている中から、あまりアレンジをし直さなくてもサウンド的に全てを繋ぎあわせてくれるような共通の要素を探し出します。ドラマー的な観点から言うと、例えば、808のキックとスネア、ハイハットがあるとして、「そのサウンドの特徴を失わないでどのように制作することができるか? 」「その上でドラムを演奏するために、どの部分を残して、どの部分を差し替えなくてはいけないのか? 」について考えます。レベルのことも考える必要があり、サウンドエンジニアのストレスになるような要素を完全に取り除いて、適切な形でミックスします。その他には、ショーのドラマツルギー的な構成も重要で、つまり、パズルを組み合わせるような作業や、要素を後ろへ押しやったり戻したりするような作業を進めます。こういったこと全部がDAWの最初のセットの中で起こっていて、そこから、最終的には最大でも8chまでのアウトになる形でトラックをミキシングし、できる限り小さいCPUで動くライブパフォーマンス専用の新しいセットにします。

曲のオリジナルバージョンから、どれぐらい違う要素を取り込みますか?

曲の始まりの部分は、スタジオバージョンに近いものに留めておく形が好きです。オーディエンスもそれが気に入ってて、ドアの中にさっと一歩足を踏み入れるような感じですね。ドラムを加える時は、より大きく力強い感じにするようにしてます。プログラミングしたパターンを自分自身で演奏し直して全く同じ形でグルーブを生み出すことも大好きで、レイヤーが複数になっている場合でもやってます。ライブの体験が素晴らしいものになるように、25小節ごとのスネアの一打にいつも全身全霊を捧げてしまうので、それ以上は集中できなくなってしまいます。こういった部分はバックトラックの中に入れておくこともあるし、結局なんであれ道に迷う結果になるので、そのままにしておくこともあります。

 

セットリストの中で、何が重要ですか?

イントロ、アウトロ、曲間、そして、コンサートを徐々に盛り上げて集中させていく要素がとても大切ですね。単にステージに上がって、再生ボタンを押して、レコードと全く同じ内容を再現するということではなく、もっと高い基準を掲げてます。

 

アカデミックな音楽教育の要素を取り込みながら、独学で音楽を学んできた音楽家達とたくさん一緒に制作をしていますね。どうやって共通の音楽言語を見つけるのですか?

それはとても面白い旅で、たくさんの不確定要素を取り扱います。私のことを理解してもらえてると思い込みすぎる時もあるし、反対に、相手の方が理解できないと思い込んでる場合や真面目に受け止めてもらえない場合もあります。だから、たくさんの質問をするように心がけていて、同じ目線のオープンマインドでコミュニケーションすることが大切なんです。お互いゴールは同じですからね。

 

ステージ上で、あなたとサポートアーティストの2人だけの時もあれば、4人以上で演奏している場合もありますね。こういった違いについて、どのように対応していますか?

例えば5人がステージ上で演奏している時は、責任も5分の1になる感覚があります。逆に1人の時は、完全に集中して常に100%でいなくてはいけないし、それに加えて、ラップトップやインターフェースにも気を配る必要があります。だから、たった1人で90分のショーを創りあげることは挑戦ですね。

ステージ上でのセットアップは、具体的にどのようなものですか?

中心になっているのは、ラップトップ、DAWとインターフェースですね。DAW上ではあまり多くのことはやってなくて、事前にミックスしたトラックをハイ、ミッド、ローの周波数帯域に分けて配置してます。照明用に、それとは違うクリックのトラックや違ったタイムコードも走らせてます。万が一ラップトップがバグってしまった時のために、2台目のラップトップも準備してますね。全部MIDIでコントロールしていて、一方ではRoland SPD-SXを、もう一方では、キーボードかMIDIコントローラーとしてMASCHINEを使ってます。MASCHINEの大きなパッドが使い慣れてるので、Ableton Liveのセッションビューでパッドを使って、サンプルを連発させたり、再生停止の操作をしたり飛び回ったりしてるんです。ドラムの演奏中に停止ボタンを素早く押さなくてはいけない時は、指でコントローラーを扱うのではなく、ドラムスティックでSPD-SXを叩いてます。ドラムなしで曲を演奏する時は、いつも、切り刻んだサンプルをMASCHINEのパッドで演奏してます。

 

制作方法について教えてください。MASCHINEをどのように使っていますか?

MASCHINEは、主にサンプルの演奏や加工に使ってます。いつも大抵Ableton Liveでループの録音やミックスをしていて、それをMASCHINEに入れて何ができるか試してみるんです。自分で録音したドラムを切り刻んで、MASCHINEを使って違ったパターンで演奏して、新しい視点で録音を理解することもやってます。私はドラマーで、ピアノの前に座ったら即座にコードやプログレッションのアイディアが浮かんでくるわけではないので、ハーモニーを探すインスピレーション源としてMASCHINEを使うこともあります。こうして生まれたメロディのメインはドラム的で、サウンドを磨き上げていくことにも繋がっているので、はっきりとまさしくPhiloループと言えるものですね。 MASCHINEを使うと、ドラムパターンについての新しい視点を発見できて、より多くの音色やレイヤー、多様性をループに与えることができるんです。

2本の腕と2本の足でのドラム演奏を、どうやってコントローラー用に置き換えていますか?

ドラム演奏はとても視覚的で、タムやシンバルといったものはすべて、三角形か四角形に配置されているんです。グルーブを聞くとすぐに演奏時にどのような配置になるかが頭に思い浮かぶので、それを機材上ではどう置き換えたらいいか考えます。例えばシンバルは一番上でハイハットはその下、次にスネアを置いたら一番下はキックドラムといった感じに、16個のパット上でサンプルがドラムセット風になるように視覚的な試行錯誤をするんです。

 

使っているサンプルは、いつもあなた自身のものですか?

その時にいる場所やそこで録音が可能かどうかによって違いますね。時にはグルーブをMASCHINEで作って録音して再度使うこともありますが、2本の腕と2本の足だけではできないことをコンピュータ上でやりたいので、これは難しい挑戦ですね。

普段の演奏とは違う感じのものを、コンピュータの画面上で制作しますか?

ええ、もちろんです。最初にハイハット、キック、スネアのグルーブを想像しますが、その後、例えばグルーブをポリリズム風に邪魔するレイヤーのように、何か他の要素が聞こえてくるんです。脳の中に思い浮かぶということは演奏可能という意味なので、そうなると私は野心的になっちゃうんです。たぶん今のバージョンのDAWで可能なことに近づけてグルーブを考えるべきなのかもしれませんが、そうやってMASCHINEと自分との間でアイディアを行ったり来たりさせながら制作を進めてますね。

 

ドラマーとして、どんなエフェクトを使ってますか?

エフェクトは、人間ドラムコンピュータとしての私のセルフイメージを形作って、新しいドアを開いてくれました。グルーブの変化はすべて意識的に決断するべきで、耳は調整が必要な瞬間をしっかり聞き取っています。演奏しているのが人間だろうとDAWであろうと、単調な部分は特にそうですね。意識的なレベルでは気づかないぐらい小さい部分でも、小さな変化に真の価値があるんです。このことは私のドラム演奏に多くの活気を吹き込んでくれました。四小節ごとに、はっきりと熟練の技や才能を見せつけるような、何か新しいことを提供しなくてはいけないとは思っていません。才能溢れるQuestloveやChris Daveといった人達は、ハイハットとスネアとキックのシンプルなセットで信念を貫いた迫力あるグルーブを演奏でき、タムを打った瞬間に、全く違う何かが一瞬で生み出されるんです。

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