• Eomac + Kyoka = Lena Andersson

    アイルランド人プロデューサーEomacと、日本人アーティストKyokaのコラボレーションプロジェクトに迫る。…

    Interviews

T-Minus

トロント在住のヒットメーカー、T-Minusによる40s VERY OWN KEYSとKOMPLETE NOW、そしてFL Studioを使用した制作プロセスを覗いてみよう。

「私は新しいプロジェクトには白紙の状態で挑むのが好きなんだ」とトロント在住のプロデューサー、Tyler “T-Minus” Williamsは語る。「白紙の状態で挑むことで、1つの音色から着想を得たり、知らない扉が開けたりするんだ。」

この「白紙状態から始める」アプローチが有効であることは、T-Minusがこれまでにプロデュースしたヒット曲が証明している。2008年から2011年頃の彼の初期時代のサウンドは大胆なカットや印象的なドラムサウンドが特徴的で、彼はDrakeの『The Motto』、Lil Wayneの『She Will』、Nicki Minajの『Moment for Life』など、主にYoung Money所属のアーティストをプロデュースしていた。近年、彼のトレードマークであるサウンドはYoung ThugからEminem、Justin BieberからJuice WRLDに至るまで、幅広い層に支持されている。彼はJ. Coleとのコラボレーションも頻繁に行なっており、今回、我々がトロントにあるRevolution Studiosを訪ねた際も、彼はノースカロライナ州でのColeのアルバム制作から戻ったばかりだった。

即興で素晴らしいビートを作り出す彼の姿からは、制作の才能とメロディレイヤーのセンスが伺えた。長年のNative Instrumentsユーザーである彼に対して、今回はあえて40’s VERY OWN DRUMS40’s VERY OWN KEYS、KOMPLETE NOWプロダクションバンドルなど、彼が触れたことのないインストゥルメントを使用してもらった。40’s VERY OWNシリーズはNIと、同じくトロント人でありスタジオのスパーリングパートナーでもあるNoah “40” Shebibで共同開発したものだ。T-Minusが1からトラックを作る姿をこの動画で確認して、制作のコツを学ぼう。そして、T-Minusの制作プロセス、そして彼の手掛けた大ヒット曲の制作の裏側について読み進めよう。

「私は初めてパソコンを手に入れた時から、FL Studioを使っている。約20年は使用しているからソフトにはとても慣れているよ」とT-Minusは語る。今回、彼はFL Studioの中に取り入れたBATTERY NOWのオーディオサンプルを使用して、Sketches用のビートを作成した。「私は基本的にメロディから作り始めるんだ。サンプルがなければ、キーボードで何かを作る。メロディさえ作れてしまえば、相性の良いドラムサウンドはすぐに見つかるよ。メロディやハーモニーについて悩んだり、適したサウンドを探すのはとても大変で時間がかかるけど、ベースやハイハット、イカしたスネアを組んでいくのはとても楽しい作業なんだ。特にドラムを組み上げる作業が大好き。自分が最もリラックス出来る、セラピー的な作業なんだ。」

長年のNI製品ユーザーであるT-Minusは慣れた手つきで好みの音源を立ち上げ始めた。「私はKONTAKTが大好きなんだ。この1つのプログラムの中にはあらゆるサウンドが収納されていて、サードパーティ製の音源も含めて、自由自在に扱うことができる。ストリングスはこれ、ベースはこれ、みたいにね。必要な音は全てKONTAKTに揃っている。特に好きなのはRickenbacker Bassで、過去4、5年はリアルなベースサウンドの代用として使用しているよ。Lo-Fi Glowも大好きな音源だね。とても幻想的なシンセサウンドが揃っているんだ。自分は「これは何だ?」と思わせてくれるテクスチャーが好きで、この音源にはそのような音がたくさん含まれているんだ。」

「自分のサウンドを特徴づける大きな要因はGuitar Rigだ。ややクレイジーなんだけど」と彼は続ける。「全ての制作過程の中で、Guitar Rigはとても重要なんだ。リードにはもちろん、ドラムにもかけることがあって、サウンドに新しい色を足してくれる。作業の手順としては、まずはリードに対してGuitar Rigをかける。例えば作っているメロディがただただ繰り返すような形だとしたら、それにGuitar Rigを足すことで、音が引き伸ばされたり、リバーブ、ディレイ、そしてディストーション要素が加えられたりする。それにpsychedelicを少し加えれば音程がオクターブ上がって、全く新しいサウンドに生まれ変わるんだ。」

ご察しの通り、KONTAKTとGuitar Rigはサンプルのチョップ、ツイスト、フリップとの相性が良く、それらを多用するT-Minusの制作スタイルにも適している。そして使用可能なサンプルは無限に存在する。2021年6月に開設されたTylerのTwitch配信をご覧になった方はすでにご存知かもしれないが、彼は世界中のサンプルメーカーと交流を行っている。「とても高品質なサンプルを提供してくれる方々がいて、未発掘の才能に驚かされるよ。とあるフランス人の方が提供してくれるループ素材はよく使用するし、もちろん、アメリカ人の提供者もたくさんいる。『認知されていない才能がこんなにいるのか!』と驚いているよ。」と彼は語る。これらの提供されたオリジナル曲はT-Minusを通じてトップチャートのアーティストにも提供されており、若い作曲家達、中には15、16歳もいる。

次世代のプロデューサーはとある難題に直面している。高額な音楽ライセンス費用をかけてまで、既存のレコードをサンプリングする意味があるのか、という問題だ。「もしも私がプロデューサー等にサンプリングについてアドバイスするとしたら、やってみろ、と言うよ」とT-Minusは語る。「ほとんどの場合、適したアーティストがサンプリングを行うのであれば、ライセンスに必要な費用は支援者やレーベルが負担してくれる。正直、音楽はビジネスではなく、純粋にクリエイティブな作業であるべきなんだ。その作業にビジネスが入り込むと、アートに悪影響を及ぼす。」

「もう1つのアドバイスは、可能な限り多くのプロデューサーとネットワークを築き、仕事を共にすることだ」とTylerは語る。「プロデューサーというゲームはコラボレーションが全てだ。学びが全てだ。1人で部屋にこもってビートを作るだけでは、永遠に成長しない。1人でスタジオにこもるだけでは、永遠に人と作業することを覚えないし、新しいテクニックを学ぶこともない。」

ラッパーやボーカリストとのスタジオ作業では特にそのようなコミュニケーション能力が必須になってくる、と彼は語る。「分かると思うけど、アーティストと共にビートを作る、というのは家で一緒に料理するのとは訳が違う。アーティストと仕事する時は、その人のために何かを作らなければ、というプレッシャーが常につきまとう。だから、彼らの経歴はどのようなものなのか?どのような曲がプロジェクトで進行しているのか?どのような心境なのか?どのような曲を作りたいのか?などについて考えなくてはならない。そのアーティストが今伝えたいことをビートで表現しなければならない。その答え探しに重要なのが、プロデューサーとアーティストのコミュニケーションなんだ。最近の気分や、考えていることについて話し合えば、自然と目的地が見えてくるはずさ。」

「私は今、コラボレーションの波に乗っているんだ」とTylerは語る。「私は身の周りの人々、そしてスタジオ作業を共にするプロデューサー等からエネルギーをもらっているんだ。私は彼らの能力を最大限に引き出し、自分もベストを尽くそうとしている。私のキャリアの大半は新人アーティストとの仕事なんだ。私は新しい才能と仕事をするのが大好きなんだ、彼らは常に新鮮な視点を持ち合わせた『未来』の人たちだからね」と彼は語る。T-Minusはトロント出身の仲間であるDZL (Future, Chris Brown, Miguel, Kehlani)やAlabamaのWu10 (H.E.R., Jazmine Sullivan. Mary J. Blige)の名前を注目すべきプロデューサーとして挙げている。

我々とのSketches動画やTwitchの中で、T-Minusは一汗も流すことなく、最も簡単に素晴らしいビートを作り出す。しかし20年のキャリアを誇る彼でも、我々と同じように制作に対する迷いや行き詰まりに直面することがあるという。「最近とても良いアドバイスをJ. Coleからもらったんだ」と彼は語る。「彼の制作哲学は『とにかく作り始めること』なんだ。どんな仕事でも慣れてしまうと、作業プロセスについて考えすぎてしまうことがある。ある事を決まった方法で行わなくてはいけない、スタジオに入ったら必ず最高の成果を出さなければいけない、などと考えてしまう。しかしこのJ.Coleのアドバイスは『小さなことから始めればいい。些細な閃きを見つければいい』という事を思い出させてくれる。音楽のアイデアが浮かばなくても、とりあえず簡単なドラムパターンを作ることで、メロディのイメージが湧いてくるかもしれない。だから最近の制作ではいつもこの考え方を意識しているよ。」

T-Minusとの撮影をRevolution Studiosで行った際、彼は彼がプロデュースしたトップチャート曲の制作の裏側について我々に語ってくれた。Drake, Kendrick, DJ Khaled, そして40との制作話について読み進めよう。

J. Cole – Kevin's Heart

「J. Coleとの仕事はとても新鮮なんだ。最高のアーティスト、そして最高のプロデューサーと同時に仕事している状態だからね。彼の役割は広くて、作曲、パフォーマンス、そしてプロデュースなどを行う。だから私の役割は彼の世界に入り込んで、適切なタイミングで、彼がサウンドに求めるものを提供することなんだ。彼には求めるサウンド象がしっかりと見えている。我々がスタジオで作業をする時、彼はよくサンプルを持ち込んでくる。彼は様々なサンプルやカットをまとめた巨大なラックを所有していて、それらをチョップするのがとても上手い。だから彼はその中からイケてる素材を探して、私はドラムのプログラミングをしたりする。彼はアイデアが浮かぶと『こんなバウンスはどうだ?ブンブン、カッ、ブブンブン』のようにビートボックスで表現してくる。そして私はそのリズムに合いそうな音色を割り当ててみる。そこが自分の音響的な強みかもしれないね、正しいキックやスネアの音色を選択できるという事が。彼が求めているサウンドをきちんと理解して、最適な答えだけを提供できる、という私の能力は彼のようにどのようなバイブスに対してラップをしたいか、という世界観がはっきりしている相手にとっては相性が良いと思うよ。」

Drake – March 14

「約4年前、Drakeとの仕事で1週間ほどマイアミに滞在したんだ。この時は彼が求める作品イメージを掴むのに苦労したよ。スタジオでは彼に様々なサウンド、サンプル、ビートを聴かせてみたんだけど、『いや、これじゃない』と言われ続けたのを覚えているよ。最終日も近づいたある日、友人がD’Angeloの『My Lady』のイカしたサンプルを聴かせてくれたんだ。そして私はそれをリバースさせてみた。私は最高のキックとスネアを見つけて、『素晴らしい。特に何かを足す必要もない』と思ったよ。それをDrakeに聴かせると、彼はしばらく座っていた。そして、『あぁ、これだ。曲が出来たな』と言った。そこからは彼に任せた。数ヶ月後、その曲は 『March 14』としてScorpionのアルバムに収録されたんだ。最高だったよ。曲の内容も素晴らしくて、彼は自身の息子について歌っているんだけど、私にも息子がいたからとても共感したんだ。最高の経験だったよ。」

Kendrick Lamar – Swimming Pools

「自分がプロデュースした作品で最も好きなのは、同率1位でDJ Khaled, Drake, Rick Ross, そしてLil’ Wayneの『Swimming Pools』と『I’m On One』かな。その理由はどちらも自身のサウンドの入口のような存在であり、エネルギーに満ち溢れているからだ。Kendrickはすごい。特に『Swimming Pools』が好きな理由は、私が制作時に想定していなかった世界を彼が書き足したことだ。この曲は元々、Trey SongzのR&Bトラックを想定して作り始めたものだったから、よりクラブ的なバイブスをイメージしていたんだ。でもKendrickが見事にそれを変化させて、素晴らしい作品にしてくれた。グラミー賞のソングオブザイヤーにもノミネートされたのもすごいことだよ。」

DJ Khaled – I'm on One

「この曲の制作と音選びはとても上手くいった。この曲とLil’ Wayneの『She Will』 ではGuitar Rigを使用しているよ。Guitar Rigはいつでも私の曲を想像を超えたものへと進化させてくれる。または単純に、キーボードでは再現が難しい表現を可能にしてくれる。シンセでは不可能な、音を引き伸ばすような表現ができるんだ。『I’m On One』のリリースに対して、クラブの反応はとても良かった。あの夏に、このレコードは強烈な印象を残したんだ。」

Ludacris – How Low

「私の初ヒット曲は間違いなく『How Low』だ。2008年に私は友人であり、当時のマネージャー的存在であったBrendanを通じてLudacrisと知り合った。彼はすでにラッパーとして成功していて、新しいビートを探していた。まだ18歳の私にとって、彼は兄貴的な存在だったよ。心の中で、私は常にLudaに提供できることを考えていた。私は『How low can you go』のサンプルを見つけて、それにビートを付けて、そこから伝説が始まったんだ。私のキャリアの足がかりとなった作品だよ。」

Nicki Minaj – Moment 4 Life (feat. Drake)

「『How Low Can You Go』のリリースから、私はとても強いプレッシャーを感じていた。プロデューサーの座は容易に入れ替わると聞いていたし、レーベルや出版社からは『次の『How Low』はまだか』と圧力をかけられ、より良いものを作らなければという焦りがあった。そして前作から6ヶ月後、納得のいくバイブスが出来上がり、リリースされたのがNicki Minajの『Moment 4 Life』だ。実はこのビートの制作時にはまだアーティストの想定がされていなかったんだ。私はきっとPussycat Dollsなんかのポップスグループに採用されるのではと思っていた。しかし適切なアーティストの手に渡ることによって、私が想定していたクリエイティブの方向性は大きく軌道修正された。この曲はDrakeの手に渡り、彼がヴァースを書いて、それがNickiに渡されたんだ。だから彼女が受け取った時には一括取引のような状態だったはずさ。この曲は確実に私のプロデューサーとしての立場を確固たるものにしたと思う。一発屋として終わるかどうかはヒット後の作品にかかっているからね。私はまだNickiと実際に会ったことはないけれど、多くのレコードを一緒に作ってきたよ。」

Drake – Under Ground kings

「40と出会ったのは2010年だったと思う。私がLil Wayneの『She Will』を作っていた時だ。私はDrakeを通じて彼と知り合った。彼の仕事はとにかく天才的なんだ。彼とスタジオを共にする時、私はいつも彼の仕事を観察しているよ。彼は全てが別次元なんだ。私はピアノが弾けないからカチカチと時間をかけてプログラミングするんだけど、彼は鍵盤が得意だから、スラスラと打ち込んでしまう。彼の選択するリード、テクスチャー、メロディなどのセンスも抜群だ。彼はとてもR&B的な思想を持ち合わせている。私は彼がシンセリードを入れて、音楽をフィルターするようなバイブスが大好きだね。例えばDrakeのアルバム、Take Careに収録されている『Cameras』という曲の中で彼はリードを入れて、サンプルをリバースさせている。私が一番好きなDrakeの曲の1つだよ。」

Drake, Lil Wayne, Jay-Z, Nas, Sade, Alicia Keys, PartyNextDoor, そしてAction Bronsonらを手がける、輝かしい受賞歴を誇る伝説的プロデューサー、Noah “40” ShebibとNIが共同開発した40’s VERY OWN KEYS & DRUMSは現在発売中だ。5月30日までの期間は99,00 €でペア購入することができる。

 

Save on the bundle

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Words: Vivian Host

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