• Eomac + Kyoka = Lena Andersson

    アイルランド人プロデューサーEomacと、日本人アーティストKyokaのコラボレーションプロジェクトに迫る。…

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by Kevin McHugh

デジタルをアナログ風に仕上げる4つの方法

あのビンテージ機材や懐かしのサウンドをソフトウェアで再現するテクニックをご紹介しよう。

ここ数十年、デジタル音楽の技術革新と共に、「昔ながらのアナログツールは現代のデジタルツールよりも優れている」派と「技術革新によってデジタルはアナログを超えた」派による論争が続いている。中には中立の立場で双方の考えに賛同する人たちもいる。デジタル機器の利便性と信頼性に価値を感じる人たちもいれば、アナログ機器の操作性と親しみやすさに価値を感じる人たちもいる。しかし「快適さ」という概念はあまりにもユーザーの主観によるものなので、その議論に答えはないだろう。

特にアナログサウンドとデジタルサウンドについては議論が白熱する。アナログとデジタルオーディオには明確な違いがあり、メディアにより生じるその違いは双方に制限と長所を与えている。デジタルオーディオのメリットは、アナログオーディオに比べて、ノイズなどの影響を受けにくく「正確」なことだ。それに対して、アナログオーディオのメリットはゲインの自由度が高いことと、その「不正確」な性質による自然で心地良いサウンドだ。それでは我々は何を指標にアナログ対デジタル論争を考えるべきなのか?音量対クリーン、暖かみ対正確さ、過去対未来、等々。例えば上記の好いとこ取りが出来たとしたらどうだろう?

この記事ではあなたのデジタルミックスをアナログ風に仕上げる方法をご紹介しよう。デジタルツールを使用しながら、アナログ信号の優れた部分を模倣するオーディオプロデューサーの技を覗いてみよう。

それではオーディオプロデューサーが使用する、デジタルオーディオをアナログ風に仕上げるテクニックをご紹介しよう。

 

1 サチュレーションとディストーション

アナログサウンドを再現するためには、アナログ信号の仕組みを理解して、それがどのようにデジタル信号と違うのか、を理解する必要がある。明確な違いの1つは、アナログ信号はアナログ回路の中で「変化」することだ。そして、このように信号に変化が加えられることを「ディストーション」と呼ぶ。「ディストーション」にはギターやシンセに対する「歪み」エフェクトのイメージが強いが、このような繊細な変化も全てディストーションであり、サウンドをより太く存在感のあるものにする効果がある。アナログ信号にゲインが足されるほど、信号の変化量(ディストーション)は大きくなる。そして、アナログ回路が許容限界まで信号で満たされた状態、原理のことをサチュレーションと呼ぶ。

サチュレーションはサウンドに温かみを与える、と言われる事が多。い。低音域が充実し、高音域が滑らかになる事でこのような印象が与えられるのだろう。サチュレーションにはその他にも、トランジェントに丸みを出すなどの繊細なコンプレッション効果がある。更に、高音域に倍音成分が足される「ハーモニックエキサイトメント」と言う現象も起こるのだが、これについては後ほど解説しよう。まとめると、サチュレーションとディストーションにはミックスの中で音をより目立たせる効果があり、デジタルのミックスでは重宝するツールなのだ

Native InstrumentsのGuitar Rig 6には豊富なモジュールが備わっており、様々なアナログサチュレーションを試すのに最適だ。

これらの無償Reaktorパッチを使用して、激しいディストーションサウンドを手に入れよう。

 

2 ダイナミクスとゲインステージング

アナログサウンドには一般的に「充実感と深み」のようなイメージがある。どちらもサチュレーションとディストーションの効果なのだが、それに加えて「コンプレッションとゲインステージング」も重要な役割を担っている。

デジタル機器とアナログ機器ではダイナミックヘッドルームが異なるため、クリッピングの概念を正しく理解する事が重要だ。クリッピングとは信号が機器の許容範囲を超えることによって一部の信号情報が失われた状態であり、言葉通り、「Clip=切り取り」が起きている。ミキサー、コンプレッサー、イコライザーなどのアナログ回路ではその性質上、クリップする前にサチュレーションやディストーションがかかる。つまり、0 dBを超過した信号にも対応が可能であり、結果として、ダイナミックヘッドルームが「広い」のだ。それに対して、デジタル機器では0 dB以上の信号を処理する事が不可能であるため、その分アナログ機器よりもダイナミックヘッドルームが「狭い」。

それでは具体的に、どのようにデジタル信号をアナログ風に仕上げるのか?重要なポイントはダイナミックヘッドルームを広げることで、アナログ機器の信号処理を模倣することだ。やり方は簡単。音量をチャンネルやインサートメーターの0 dBに触れない位置まで下げておくことで、ダイナミックヘッドルームを確保しよう。

もう1つの手段として、コンプレッサーとエクスパンダーを使用してダイナミックレンジを維持する方法がある。コンプレッサーはダイナミクスレンジを狭める事しか出来ないと思われがちだが、賢く使うことでダイナミクスレンジとヘッドルームを広げることも可能なのだ。

アナログコンプレッションやダイナミクスによるサウンドの変化を試すにはSupercharger GTが最適だ。

Reaktorライブラリで配布されている無償ダイナミクスツールもチェックしてみよう。

 

3 ハーモニックエキサイトメントとEQ

ハーモニックエキサイトメントとはサチュレーションのセクションで触れたように、主にサチュレーションの結果として発生する。オーディオ信号がアナログ回路を通過する際、その信号に対する調和倍数が足されることがある。例えば、C2 (65 Hz)のデジタルサイン波があるとしよう。その信号をアナログのプリアンプに流し、ゲインを足すと、そのゲイン量に比例した調和倍数が発生する。それらの調和倍数は和声的な音程で出現し、主にC3 (130 Hz)やC4 (261 Hz)などのオクターブ関係や、G3 (196 Hz)などの5度関係の音程で発生する。この現象によって、高音域の成分が足されるため、特に低音域の信号はミックスの中で聞こえやすくなる。一般的な回路はサチュレーションの強さに比例した調和倍数が発生するが、稀にゲインやサチュレーションを足していない「素通り」の状態でもハーモニックエキサイトメントが発生するもの、また、偶数や奇数の調和倍数のみが発生するものなども存在する。

それでは「アナログのハーモニックエキサイトメントがデジタルサウンドに僅かな倍音を足している」現象をEQで模倣してみよう。倍音を強調するには、倍音以外を減らせば良い。C2(65 Hz)の例で引き続き考えよう。偶数の倍音(2×65=130, 4×65=260等)を強調させたい場合は、奇数の倍音(3×65=195, 5×65=325等)を減らしてみよう。不要な周波数を減らすことで、このようにアナログ回路を使用せずにアナログ風なサウンドを再現する事が出来る。

ハーモニックエキサイトメントの現象実験にはiZotopeのNeutron 4に収録されているExciterが最適だ。

Reaktorの無償ローファイ、テープエフェクトはこちら。

 

4 「不正確性」による変化

デジタルサウンドの特徴は、音や操作を「正確に」繰り返せることだ。例えばデジタルシンセはいつでも、何度でも、同じ音を再現する事が出来る。同じくデジタルフィルターのLFO、MIDIノート、シーケンスなども設定通りの操作を正確に繰り返す。それに対して、アナログ機器は「不正確」だ。再現の度にタイミング、尺、エンベロープ、パターンなどに起こる変化、その「不正確さ」にはサブリミナル効果があり、人間はこのような「不正確さ」を実際のミュージシャンの演奏のように、自然で心地良いものとして認識している。たとえ無意識であっても、脳はこのような「不正確さ」に対して親しみや好ましさを感じているのだ。定番のアナログシーケンサー、Roland TR-808やTB-303などには「ドリフト」と呼ばれる有名なタイミングずれの現象があり、このような「不正確性」はモダン音楽の定番要素として認知されるようになった。

これらの知識を応用して、デジタル信号をアナログ風にすることが出来る。音楽はパターンで構成されているので、そのパターンに些細な変化を加えるだけでも、聴き手に何かが起こっている印象を与えることが出来る。フィルターや音符のタイミングを時々少しずらすだけでも、十分なアナログ感が出せる。少しで十分、というのは大事な考え方なので、ぜひ覚えておいてほしい。聞き取れないほどの変化であっても、効果は存在しているのだ。

最近ではアナログ的な変化をプラグイン内の機能で再現出来るものが増えている。特にここ10年のアナログ信号モデリング技術の進歩は目覚ましく、プラグインメーカーはあなたのパソコンの処理能力を使用して、デジタル信号にアナログ的な処理を施すことがとても得意になった。

Replika XTディレイの「アナログ」機能を試してみよう。

Reaktor用の無償シーケンサーツールを使用して楽しい変化をあなたのトラックに与えてみよう。

 

デジタルサウンドをアナログ風にする際に最も重要なのは、自分の耳に頼ることだ。あなたの好みは、あなたしか知らない。アナログの中でも好き嫌いがあるだろう。トラックをローファイで汚れた感じに仕上げたい場合もあれば、暖かみのある定番なサウンドに仕上げたい場合もあるかもしれない。「正しい」答えは存在しない。あなただけの正解を見つけ出すことは、目先の結果よりも重要だ。

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