ディレイとは、原音を繰り返し鳴らす、時間をコントロールするオーディオエフェクトです。一見すると、ディレイは同じ音が繰り返されるだけのシンプルな機能に思えますが、実はこの地味なエフェクトが現代の音楽に大きな影響を与えているのです。ロックンロールのスラップバックから、ダブの洞窟のようなサウンド、エレクトロニックミュージックの人工的な空間まで、ディレイは私たちが愛する音楽のサウンドを形作るために、他のどのエフェクトよりも多くの役割を担っています。
ディレイを自分の作品に上手に扱えるようになるには、まずはディレイの底力と多様性を理解することです。では、音楽におけるディレイとは、いったいどのようなものなのでしょうか?この記事では、この疑問に詳しくお答えします。ディレイとエコーの違いを説明し、様々な種類のディレイエフェクトと一般的なディレイパラメーターについて解説します。そして、あなたの作品にディレイを効果的に使用する方法をご紹介します。
目次:
本記事ではREPLIKA XTを使用して解説します。
音楽におけるディレイとは?
ディレイは、入力されたオーディオ信号をキャプチャし、決められた時間後に再生する、時間ベースのオーディオエフェクトです。信号が約30ms (30ミリ秒) 以上遅延されると、リスナーは原音 (ドライ) に続く明確な「エコー」として聞くことができます。一般的には、遅延信号を複数回繰り返し、繰り返すたびに音量を減少させていきます。また、遅延を作り出すために使用されるテクニックによっては、元の信号とは異なる音質特性を付加する場合もあります。
ディレイは、1950 年代以降、ポピュラー・ミュージックをはじめ、様々な分野でも重要なエフェクトとして使用されてきました。ミックスに深みと奥行きを与えるために使用したり、リズミカルな「ピンポン」エフェクトから、アブストラクトなサウンドデザインまで、よりクリエイティブな用途にも使用できます。特にディレイのテクニックとテクノロジーは、ダブやアンビエントなどのジャンルの中心的存在であり、現代の音楽制作においても中心的なエフェクトであり続けています。
デジタルディレイの音を聴いてみよう。
エコーエフェクトとは?
ディレイは、しばしば自然界で聞かれる「エコー」と呼ばれる現象を再現します。現実の世界では、音は私たちの耳に届く前に、物体や表面に跳ね返ります。この反射が多数、短時間、かつ無秩序である場合、私たちはそれを残響として聞くことができます。しかし、ある音が遠く離れた1つの面で跳ね返り、約30ms (30ミリ秒) 以上経ってから私たちの耳に戻ってくると、この反射は元の音の明確な繰り返しとして聴こえます。崖や渓谷で手をたたいた時や、山岳地帯での”こだま”がこれにあたります。
ディレイ vs. エコー
まず、ディレイとエコーの違いを理解しておきましょう。これは、よくある混乱を解消するのにも役立ちます。ディレイとエコーは同じ意味で使われることが多いですが、見ての通りこれらは異なるものを指しています。エコーは実生活で起こる音響現象なのに対し、ディレイはオーディオ処理効果の1つで、エコーを模倣することがあります。 (特に約30ミリ秒以上の遅延時間を使用する場合です) しかし、ディレイはミックス時に空間を演出したり、この世のものとは思えないようなサウンドを作り出したり、また他にも様々なことができるのです。
ディレイの種類について
1950年代にディレイが初めて音楽で使用されて以来、ディレイエフェクトは様々なタイプのものが使用されてきました。テープマシン、ラックユニット、ペダル、ソフトウェアプラグインなど、音楽技術が進歩するたびに、それぞれに固有の味や性質を持った新しいディレイエフェクトが誕生してきました。最近のプラグインは、これらの様々なディレイ・タイプを模倣していることが多く、プロデューサーはそのようなディレイの世界観からプラグインを選択することができるのです。ディレイの種類を選ぶことは、効果的なディレイを作るための最初のステップとも言えるでしょう。
REPLIKA XTに搭載されている主なディレイ・タイプをご紹介します。このパワフルでクリエイティブなディレイプラグインは、5種類のディレイタイプと、ディレイをクリエイティブに使用するための刺激的なコントロールを豊富に備えています。
Tape delay (テープディレイ)
初期のディレイエフェクトは、入力された信号の記録と再生に磁気テープを使用していました。1958年発売のCopicatや1959年発売のEchoplexは、ローテクながら非常に個性的なエフェクトを提供しました。磁気テープが経年劣化で徐々にローファイな音になってくるのですが、それがまた味わい深く、このようなテープマシンの機械的な欠陥はフラッターやワウなどの歪み効果も得ることができます。
REPLIKA XTのようなモダンなディレイプラグインは、このような不完全な部分までをもエミュレートします。この例では、非常に古いテープのゆがんだファジーなサウンドを聴くことができます。
Analog delay (アナログディレイ)
60年代から70年代にかけて、テープディレイの内部的技術は少しずつ洗練されていきましたが、その物自体はというとサイズが大きく不便なままでした。1970年代に登場したアナログディレイは、ディレイ効果を得るために複雑でない方法を提供してくれました。BBD (Bucket Brigade Delay) テクノロジーを採用し、入力された信号をソリッドステート部品に取り込み、再生するという方法により、テープディレイに比べまろやかでファジーなより一貫した忠実なサウンドが得られたのです。
例では、REPLIKA XTはBBDモード “Warm “に設定されています。
Digital delay (デジタルディレイ)
デジタルディレイは1970年代後半に登場し、すぐに主要なディレイタイプになりました。デジタルディレイは、入力された信号をデジタル領域でサンプリングし、バッファに保存し、それを割り当てられた時間後に繰り返すことによってディレイ効果を得ます。これは、あらゆるタイプの中で最も柔軟性と信頼性が高く、最高の精度を提供してくれます。
80年代から90年代にかけてデジタルディレイが発展するにつれ、プロセッサーのパワーやその他の技術的な制限によって各ユニットは独自のキャラクターを持つようになりました。最近では、最新のプラグインを使えば複雑なディレイエフェクトを完璧に再現することができます。しかし、完璧であるがゆえに、時に退屈に聞こえることがあります。そのため、最近のプラグインの多くは、ビンテージデジタルディレイのエミュレーションが多く見られます。
この例では、スーパークリーンでモダンなデジタルディレイを聴くことができます。しかし、REPLIKA XTは、より個性が必要な場合のために、Vintage Digital Modeも用意されています。
Diffusion delay (ディフュージョンディレイ)
ディレイとリバーブは関連するエフェクトです。どちらも、オーディオ信号の遅延を繰り返し生成することで空間を作り出します。ディレイは通常、信号の単一の明確な繰り返しを提供しますが、リバーブは複雑な反射の渦を生成し、内部空間で跳ね返る音を再現します。
テープ、アナログ、デジタルの各モードに加え、REPLIKA XTのような最新のデジタルディレイにはDiffusion Delay Modeが搭載されているものもあります。このモードは、ディフュージョン (拡散) をディレイ信号に適用することで、ディレイとリバーブの境界を曖昧にするものです。ディレイ信号が微妙に異なる多数のリピートに分解され、あたかも信号が複雑な内部を跳ね回っているような効果を生み出します。
この不思議なディレイとリバーブを合わせたような効果で、ディレイにリバーブのような空間を加えたり、従来のディレイタイプでは不可能な複雑な雰囲気のエフェクトを作り出したりすることができるのです。
ディレイのパラメーターについて
ディレイの種類を選ぶことは重要な第一歩ですが、ディレイを形作ることはそれだけにとどまりません。最近のディレイプラグインに搭載されている主要なパラメーターを把握することが重要です。ここでは、それらのパラメーターについて見ていきましょう。
Delay time (ディレイタイム)
ディレイタイムは、遅延した信号が発音されるまでの時間の長さを設定します。非常に短いディレイタイムは、音に深みを与えることができ、30ms (30ミリ秒) 以上のディレイタイムでは、ドライ信号とは異なるエコーとして聞こえるようになります。数百ms (数百ミリ秒) 以上のディレイは、強いリズム感を持ち始め、独立した音として認識されるかもしれません。
この例では、ディレイタイムが長いものから短いものへと変化しているのがわかります。
Tempo/sync (テンポ/シンク)
Tempo/sync は、ディレイタイムをDAWのテンポと同期させるかどうか、またどのように同期させるかをコントロールします。シンクをオンにすると、ディレイタイムをDAWのテンポに応じた音符の長さに設定することができます。
REPLIKA XTは、Straight (ストレート)、Dotted (ドッテッド)、Triplet (トリプレット) の3つのシンクモードを搭載しています。これらのモードでは、グローバルテンポを細分化することができます。例えば、Dottedモードでは音符の長さがStraightの1.5倍となります。Tripletモードでは、ビートが通常の2音ではなく3音に細分化されます。
シンクモードは、長いディレイタイムを扱うときに便利です。しかし、時にはディレイを自由に走らせたいこともあるでしょう。シンクをオフにすると、ディレイタイムをms (ミリ秒) 単位でコントロールできるようになり、超ショートディレイやグリッドに沿わないリズムを作成することができます。
これにより、ディレイタイムの変更もスムーズに行えます。この例の前半ではディレイタイムを同期させています。ディレイタイムが変化すると、ディレイ信号が2つの長さの間で急激にステップする様子をお聴きください。後半ではシンクされていないディレイ (msモード) がディレイタイム値の間を滑らかに移動しています。
Feedback (フィードバック)
フィードバックは、遅延された信号を何回繰り返すかを制御します。フィードバックを0に設定すると、音は1回だけ繰り返され、スラップバック効果を生み出します。フィードバックの値を大きくすると、繰り返す回数が増え、100%になるとディレイ信号は無限に繰り返されます。フィードバックを低く設定すると、タイトなディレイやコントロールされたリズミカルなエフェクトに適し、フィードバックを高くすると、ディレイが独自の意思を持ったかのような独立した音になります。
フィードバックを100%以上にすることができるディレイプラグインでは、ディレイ信号が繰り返されるたびに大きくなっていくのがわかるでしょう。(シグナルチェーンの最後にリミッターを挿すのもオススメです。)
この例では、まず低いフィードバック設定、次に高いフィードバック設定、そしてその中間のディレイタイムに設定しています。
Low cut/high cut filter (ローカット/ハイカット・フィルター)
多くのディレイプラグインは、ディレイ信号に影響を与えるローカットとハイカットのフィルタのコントロールを備えています。ローカットコントロールを上げると、ディレイ信号から低い周波数が除去され、ハイカットを上げると高い周波数が除去され、消音または減衰効果を生み出します。
なぜこれが重要なのでしょうか?音にディレイを加えることは、EQ やサチュレーションのように、単にその音に色をつけるだけではありません。信号の繰り返しを生成することで新しい信号をミックスに加えるディレイは、ディレイ信号を他の信号と同様にコントロールすることが重要です。ローカットフィルターとハイカットフィルターを使用することで、トラックの低域をすっきりさせたり、高域を純粋な状態に保つなどすることができます。
この例では、1つ目のギターコードにハイカットフィルターをかけ、2つ目のギターコードにローカットフィルターをかけています。
Dry/wet または mix (ドライ/ウェット)
Mixノブは、ドライ(ディレイなし)信号に対するディレイ信号の量を調節します。100%ドライに設定するとディレイ信号が全く聴こえなくなり、100%ウェットに設定するとディレイ信号のみが聴こえるようになります。
ディレイは、ディレイシグナルがドライシグナルを圧倒しないよう、ウェット50%以下で最も効果的に機能する傾向があります。ただし、ディレイプラグインをバス (Auxトラックで起動) で使用する場合は、ミックスを100% Wetに設定する必要があります。
この例では、まずディレイをローミックスし、微妙な効果を出しています。クリップの後半では、ミックスノブを50%ウェットまで上げ、さらにそれを超えて、ディレイ信号がドライ信号より大きく聴こえるようにしています。
ディレイのオススメの使い方
ディレイは、vocalsからドラムまで、トラック内のほぼすべての音に有効です。正しい使い方を覚えれば、ディレイはあなたの音楽制作ツールの中で最もパワフルなツールの1つとなるでしょう。
それでは、ディレイを使ってトラックを盛り上げる方法をいくつかご紹介しましょう。まず、ディレイなしのトラックを聴いてみましょう。
奥行き感を演出する
このトラックのギターの雰囲気は良いのですが少しドライ気味です。ディレイを使ってこの音にスペースを与え、ミックスに奥行き感を出してみましょう。
ここでは、ドライシグナルにスムーズに溶け込むようなディレイサウンドが欲しいので、温かみのあるアナログディレイタイプにします。ディレイタイムとフィードバックは非常に小さく設定し、ディレイがはっきりとしたエコーとして聞こえるのではなく、原音を太くしたような音になるようにします。
以下がその結果です。まずギターのドライな音が聴こえ、クリップの途中からエコーが追加されます。
隙間を埋める
では、ドラムを見てみましょう。ビートが少しまばらです。ドラムグループに微妙なリズムのディレイをかけることで、ヒット間のギャップを埋めることができます。
今回はテープディレイタイプを選択し、テープエイジを最大にして、擦れたようなリアルなサウンドを再現してみます。
ディレイタイムをテンポに合わせ、Rate (レート) を1/4程度に設定し、ディレイ信号がキックとスネアのヒットの間に入るようにします。
最後にハイカットフィルターを200Hz程度まで上げて、ディレイ信号がキックドラムの音とぶつからないようにします。
こんな感じのサウンドになりました。ディレイはクリップの途中から入ってきます。
リズムを生成する
もし、ドラムのビートがまだ退屈に聴こえるなら、トラックにリズムのユニークさを加える別の方法があります。
ギターパートにバウンシングディレイをかけ、ドラムとリズミカルに引き合うようにします。
今回は、このディレイに異なるキャラクターを与えるため、低品質に設定したVintage Digital Modeを選択します。
ディレイタイムをシンクし、Dotted (ドッテッド) モードにした状態で、1/8に設定すると、クラシックな跳ねるリズムになります。次にディレイをピンポンモードに設定し、ディレイ信号が左右のチャンネルの間でバウンドし、その動きを強調するようにします。
このクリップでは、リズミカルなディレイが途中から入ってくるのがお分かりいただけると思います。
ステレオ感を強調する
ディレイは、ステレオ感があまりない要素に幅を持たせるのに適しています。このトラックのオルガンのリフは現在はモノラルです。ディレイを使用して、幅を広げてみましょう。
今回は、クリーンでモダンなデジタルディレイを使用します。
ここでのポイントは、”Panning “パラメーターのL/R offsetを調整することです。これにより、ディレイ信号の左右のチャンネルにわずかなディレイタイムの差が生じ、幅があるように見えるのです。
最大25ms (25ミリ秒) に設定し、オルガン部分の幅をできるだけ絞り込んでみましょう。
クリップの途中からディレイが入ってきます。
パラメーターを自動化する
好みのディレイ設定が見つかったら、1つまたは2つのパラメータを自動化することで、ディレイに生命力と動きを与えることができます。これは、トラックのエネルギーや密度の変化にディレイが反応する場合に特に効果的です。
典型的な例としては、Feedbackを自動化し、ディレイテールのキャラクターを刻々と変化させることが挙げられます。
ギターのスタブに深みを与えるために追加した短いディレイに戻ると、これを実証することができます。4つの和音に1回のペースで、より長いディレイをかけるよう、Feedbackをオートメーション化してみましょう。リスナーはこのディテールに気づかないかもしれませんが、音楽に豊かさを加えることができます。
この例では、3回目のヒットでフィードバックが長くなります。
バス (Auxトラック) でディレイを使用する
トラックにディレイを加えることは、ミックスに新しいシグナルを加えることを意味します。この信号が他の音とぶつからないようにコントロールすることが重要です。
この場合、ディレイを単一チャンネルのインサートとしてではなく、独立したバスまたはセンドリターンチャンネルとして配置するのが最も効果的な方法です。この場合、ディレイのミックスが100% Wetに設定されていることを確認してください。
また、複数の楽器を1つのディレイエフェクトに送ることで、ミックスにまとまりを持たせる効果もあります。
これを実証するために、これまで作成したいくつかのディレイエフェクトを1つのバスにまとめてみましょう。ピンポンモードのリズミカルで跳ねるようなディレイは、ギターにリズム感を与え、オルガンパートに幅を持たせることができるはずです。
設定を変更し、ギターとオルガンのパートからディレイバスに信号を送ったら、ディレイ信号をミックスに統合するための処理を追加します。サイドチェーンコンプレッションを追加して、キックとスネアがヒットしたときにダッキングさせるようにします。
そして、以下が結果です。トラックに追加した他のディレイエフェクトと一緒に、ディレイバスの動作を聴くことができます。
さっそく作品にディレイを使ってみましょう
この記事では、ディレイについて深く掘り下げてきました。音楽におけるディレイとは何か、様々なディレイの種類とパラメーター、そしてディレイを効果的に使用する方法について解説しました。この重要なエフェクトについて理解したところで、いよいよあなたの作品にディレイを使い始める時が来ました。
REPLIKA XTは、クラシックなディレイから未来的なサウンドスカルプティングまで、あらゆるニーズに対応する完璧なプラグインです。