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by Sam Taylor

RAZOR 10周年: 生みの親であるErrorsmithが10年間を振り返る

強力な加算合成シンセサイザーの実験的な出発点、そしてそれを最大限に活用するためのプロのヒントを紹介。

私たちはちょうど10年前の今日、REAKTORをベースにした加算合成・シンセサイザー、RAZORを発表しました。そしてそれは、おそらくそれ以前、それ以降のどのNI製品よりも、本当に「未来のサウンド」を感じさせるものでした。10年経った今でも、それは変わっていません。Mark FellやJlinのような実験的なトラックから、Kendrick LamarやDua Lipaのようなメインストリームのヒット曲まで、そのデジタルなシグネチャーサウンドを聴くことができ、Jean-Michel Jarreのコレクションの中にでさえ、この製品が入っています。

RAZORの功績と切っても切れない関係なのが、生みの親であるErrorsmithことErik Wiegandです。この節目を記念して、ベルリンを拠点とするアーティスト、プロデューサー、プログラマーであるErrorsmithにインタビューを行い、RAZORの実験的な起源や成功の秘訣について語ってもらいました。最後に、RAZORを最大限に活用するためのヒントやTIPSをご紹介していますので、お見逃しなく。彼の無料プリセットもご用意しています。

RAZORの由来を探る前に、まずRAZORとは何かを定義しておきましょう。剃刀のようにシャープで正確な、紛れもないデジタルサウンドのシンセサイザーであることは、その名前が物語っています。「加算合成シンセシスとは、周波数と振幅が正確にコントロールされた単純な正弦波である部分音を積み重ねることで、複雑な新しいサウンドを作り出すプロセスです。従来のアナログシンセサイザーで使われている一般的な減算方式とは対照的に、加算方式ではユーザーがより正確にサウンドを作り上げることができます。「自分のような、何でもコントロールしたがるのシンセサイザー開発者にとっては、夢のようです」とEricは語っています。

「加算合成では、音の和声や不協和音の具合をコントロールすることができます。例えば、リングモジュレーションやFMなど、従来の手法を使って似たようなことはできますが、それには限界があります。その点において、加算合成は、言わば遊び場のようなものです。個人的には、不協和音のエフェクトはRAZORが得意とする特徴の一つだと思っています。」

RAZORに着手する10年あまり前、Ericは当時のハードウェアシンセサイザーの限界に直面していました。時にはシンセサイザーを分解し、自分のニーズに合うように改造することもありました。しかし、コンピュータサイエンスの経歴を持つEricにとって、REAKTORの前身であるGENERATORの登場が、ある種のひらめきをもたらしたのです。「それはまるで、自分のニーズに合わせて作られたかのように100%マッチしていました。Generatorのおかげで、僕は自分がもうテキストでコードを書きたくないんだということに気付きました。僕にとってはReaktorのパッチベースのプログラミングの方がはるかに簡単で、すぐに結果を聞くことができる、いろいろなことをすぐに試すのに役立ったんです。Reaktorを使い始めてからは、アナログ・シンセを改造する必要がなくなりました。ライブラリから何かを取り出して、そこから学んで改造したり、ゼロから独自のものを開発したりできるようになったんです。」

EricはErrorsmith名義で1999年に『Errorsmith #1』をリリースし、デビュー。同年、Native Instruments社の品質保証チームに参加し、最終的にはREAKTORライブラリ自体のメンテナンスを担当しました。そして、2004年にフリーランスになった後も、Erik氏はアップデートのたびにライブラリに貢献し続けました。

2009年、次のREAKTORのアップデートのアイデアを求められたEricは、加算合成を駆使した、傑作のファーストドラフト(訳註:初稿)を提出。それは、RAZORの名を冠したライムグリーンのアンサンブルで、のちにトレードマークとなるビジュアルの初期バージョンでした。このコンセプトは、共振型ローパスフィルター(現在のシンセサイザーではLowPass Rampと呼ばれているもの)を通したノコギリ波(訳註:ソーウェイブ)の加算合成シミュレーションで、シンプルながらユニークなアイデアでした。

「最初は、加算合成アプローチで共振フィルターをシミュレートしたら、どんな音になるだろう?というアイデアだけでした。実際にそれを作って、そこにスペクトル・クリッピングを加えてみたのですが、もうその時点でとても満足できるものが出来上がったんです。これまでとは違う、キャラが強い音でした。そして、その後も、フィルターの形状やオシレーターの種類、コーラス・エフェクトなど、クラシックなシンセサイザーの機能をシミュレートしたらどんな音になるだろうかと考えていました。そうしたら、ひょっとしたらこのシンプルなアイディアには相当のポテンシャルがあるんじゃないか、ということに気付いたんです。当時、シンセサイザーは主にピアノの音を再現するなど、他の楽器をシミュレートするために使われていて、このようなアイデアを追求した加算合成シンセサイザーはありませんでした。」

そして、2010年初頭には、Erikが作ったRAZORのプロトタイプは、ブレンド可能な波形、複数のフィルターエミュレーション、ユニゾンやステレオエフェクト、不調和度や不協和音を追加するための独立したセクションなど、すべて加算合成の技術を用いたものへと成長していました。

この頃、Ericは古典的なコンセプトの面白さを超えて、自分のメソッドの可能性を探り、音を操る新しい方法を考えて始めていました。例えば、ウォーターベッドフィルターなどがそれに当たります。

「あれは、自分が考えついたフィルターの中で、最も奇妙で突飛なアイデアだったと思います。完全に自由な形のフィルターを作ることができるという、自由度の高さを示しかったので、水の波の形にしました。他にも、櫛形(訳註:コム)フィルターとフェーザーのような効果の間でモーフィングできるようなものもありました。また、バーバーポール(訳註:床屋のサインポール)フェイジングといって、ピークが連続的に上昇、下降したりして、一方のピークやノッチが消えるたびに、反対側に新たなピークが形成され、音響的なイリュージョンを起こすものもありました。」

「僕が重視したのは、既存のものを加算技術で再現し、さらにそれを発展させることでした。そうすれば、RAZORを開いたとき、すでに慣れ親しんだパラメータが並んでいても、それを使ってまったく新しいものを作ることができるのです。」

この理念に基づき、RAZORはどんどん成長していきました。2010年の秋に、Ericは最初のプロトタイプをNIに納品し、(ただし、本人によれば多少予定より遅れてしまったそうです)そこからは、コンセプトをより明確にし、人々がシンセサイザーを手に取ってクリエイティブな作業をしたくなるようなインターフェースをデザインする作業が始まりました。

「伝統的なアナログ・レイアウトで表現された、多機能で新しいシンセサイザー」

NIのリードデザイナー、Efflam Le Bivicは、この作業の大部分をコントロールの簡素化、つまり”複雑さを隠す”ことに費やしました。

“伝統的なアナログレイアウトで表現された、複雑で新しいシンセサイザー”というのが売りでした。RAZORでは、ディストーション以外はすべて部分音の演算で行われているので、アナログシンセのようにステージが次々とつながっているわけではありません。私がやったのは、オシレーターから始まり、フィルター、リバーブといった具合にアナログのワークフローを視覚的に再現することでした。

「次の課題は、各”モジュール”の複雑さを減らすことでした。例えば、ローパスフィルターには実際には16個のノブがありますが、すべてのモジュレーション量とエンベロープのノブは小さく、4個に見えるようになっています。』

インターフェースの仕上げに、EfflamはフリーランスのデザイナーPhilipp Granzin氏を起用しました。「Razorはエレガントで、使いやすく、視覚的に明確な構造でなければなりませんでした。私は構成されている要素の階層性を強調し、かつ現代の電子音楽をイメージさせる近未来的なグラフィックにしたかったんです。そのために、明るい、ハイコントラストなルックスと、寒色系の色や微妙なテクスチャーなどを組み合わせ、テクノカルチャーの雰囲気を表現しました。」

「最初にPhilippのデザインを見たとき、今までで最も高級なシンセサイザーみたいだ!と思いました。Efflamにもそう言いましたよ。高いものが必ずしも良いものだというわけではありませんが、これは本当に価値のあるものに見えました。もちろん、身内びいきなのもありますが、本当に今でも時代遅れな見た目にはなっていないと思います。」

当時、RAZORの最も特徴的な視覚的要素はまだ未完成でした。そう、インターフェイスの中心にあるあの3Dスペクトルビジュアライゼーションです。

「Matt Jackson(当時はNIのコンセプチュアル・プロダクト・デザイナー、現在はAbletonに在籍)から、もっとビジュアル的に訴えるものができないかと聞かれました。スクリーンセーバーのようなものですね。安っぽく見えるものや、間に合わせのために何か付け足すは嫌でしたが、やがて、むしろ役に立つものであればいいんだと気付きました。ただ、ジョイ・ディビジョンの『Unknown Pleasures』のジャケットのようなものをやってみたいという明白なアイデアが出るまでは、完全には納得できませんでした。」

2011年の春には、新しい3Dビジュアライゼーションが追加されたRAZORの最終的なレイアウトが再構築され、現在のシンセサイザーが誕生しました。「最終版を見たときには、正しいGUIがもたらすインパクトの大きさに改めて驚かされました。 それはもう、どこにでもあるありきたりなシンセサイザーではなく、RAZORだったんです。」

「レコードをリリースするのとは感じが違いましたけどね。僕はRAZORを単なるツールではなく作品として捉えていますが、自分にとって音楽制作は、よりパーソナルで情熱的で、時には痛みを伴う作業だと思います。だから、自分の音楽をリリースすることとは、これとは違う感覚なんです。」

「シンセサイザーを作るということは、僕にとって音楽制作の一部です。でも、今回は最終的に他人に使ってもらうために作っています。もし誰かに「もっと聴きやすい音楽を作ってくれ」と言われたら、「余計なお世話だ」と答えますが、RAZORの制作に関してはNIからのフィードバックが嬉しかったですね。自分にとってプリセットの種類が豊富であること、そして自分の音楽のスタイルに限定されないことが重要でした。それと同じ理由で、紹介ビデオ用の音楽も作りたくなかったんです。」

RAZOR 1.0は、2011年3月にようやく一般公開されました(NIのAntonio de Spirt氏がサウンドトラックを担当したビデオも公開されました)。当時のComputer Music誌では、”素晴らしい”、”魅力的”、”ノリが良い”と評され、著名なアーティストからも同様の反応がありました。(NIのウェブサイトで例をいくつか紹介しているのでチェックしてみてください)

Ericは自分のシンセサイザーがラジオで流れたとき、どう思ったんでしょう?RAZORはその後、現代のほぼすべてのジャンルのプロデューサーに支持されていますが、Ericはそんなに頻繁に起こることではないと言います。このシンセサイザーは、現代の基準から見ても非常に個性的なサウンドを持っていると言えますが、正確なトーンの調整が可能なRAZORは、例えば他の楽器にサブベースのレイヤーを追加するような、より一般的な作業にも適しています。

「たとえ、自分が特別好きな曲じゃなくても、曲中でRAZORが使われていると気付いたら、いつも嬉しいですよ。RAZORが曲作りに貢献し、ユーザーにインスピレーションを与えたと聞けば、それだけで嬉しいものです。」

「もちろん、高くい評価をしているアーティストもいます。例えば、Mark Fellですね。彼はコードを作るためにRAZORをかなり使っていますが、それは僕の領域ではありません。自分の音楽でコードを使うことはないので、RAZORをそうやって使うことは想定の範囲外でしたが、彼のやり方はとても気に入っています。細い音のような、彼の音楽に完璧にマッチした特別なものです。彼の息子、Rian Treanorは、もっと荒いアプローチのサウンドデザインをしていて、僕がやっていることに少し近いです。Le Domも僕が好きなアーティストの一人で、彼の曲にはRAZORが目立った使われ方をしていますね。」

RAZORの生みの親であるだけでなく、Ericは2017年に発表したErrorsmithのアルバム『Superlative Fatigue』の全曲をはじめ、自身の作品でもこのシンセを多用していることで知られています。

RAZORがErrorsmithのサウンドツールキットの中で最も重要な構成要素であることを考えると、Ericは、他のプロデューサーがRAZORを簡単に使えるようにしたことについて、何かデメリットを感じているでしょうか?

「確かに、他の人も僕のような音を出せるようになりました。アルバムに収録されている代表的な曲『I’m Interesting, Cheerful & Sociable』は、「Joker (Turn Ratio)」プリセットをドラム以外の音として使用していますが、プリセット名に使用方法の説明も付けています。いい音だと思うんですが、他に使っている人がいないんですよね。僕のようなサウンドを簡単に作れるようにしたんですが、結果そうはなりませんでした。」

「シンセサイザーはそれ単体では音楽になりません。その音を使って何かを生み出さなきゃいけないんです。だからこそ、『僕の音』を他人にあげてしまう可能性があることについて心配はしていないんです。自分の作品を作る余地が常にあるし、それは他の人がやることとは違います。また、誰よりもこのシンセサイザーを知っているからこそ、自分の興味やニーズに簡単に合わせることができます。」

Razorを作ったとき、僕はどんなアイデアもためらったことはありません。全力投球して、自分の能力を示したかったんです。」

今までシンセサイザーを改造してきた彼が、この10年間RAZORをいじらなかったとは考えられません。実際、Ericは長年にわたって様々な機能を追加してきました。彼のカスタムバージョンには、アンプエンベロープに追加されたホールドステージや、さまざまなフィルタータイプの微妙なバリエーション、そして加算式EQなど、いくつかの小さな仕掛けが施されています。しかし、これらは特定のトラックの特定の部分のための特別な改造です。Ericによれば、彼の創作活動において、シンセのコーディングと演奏との境界線はほとんどないそうです。

長年にわたって追加してきたものは、リリース版には大して影響しないものです。RAZORの大きな強みは、無駄がなくすっきりしていて、何が起こっているのかを簡単に理解できることです。特定の作業にしか使えないようなノブを追加しても意味がありません。

「RAZORを作ったとき、僕はどんなアイデアもためらったことはありません。全力投球して、自分の能力を示したかったんです。」

10年経った今でもRAZORのサウンドはフレッシュですが、次の展開が気になって仕方がありません。Ericは「絶対にないとは言い切れない」としながらも、少なくともすぐに「RAZOR 2」がリリースされることはないようです。「今の状態にとても満足しています。足りないと思うものもあまりありません。これを拡張するとより複雑になるので、私がやりたいことではありません。」

「今でも音楽を作るときにはRAZORを使っています。”僕の考え方はいまだに加算式中心です。もし次回作があるとしても、それも間違いなく加算式になると思います。飽きが来ないんですよね。」

初心者のためのRAZOR: Errorsmithが教える3つの極意

最後に、Ericが気に入っているRAZORの機能と、その使い方について聞いてみました。「僕は本当にミニマルなアプローチなんですよ。一度に一つのことしかしません。それがRAZORの好きなところです。一つの機能を選択して、別の機能を追加すれば、もう完了。2つのオシレーター、2つのフィルター、不協和音効果や、ステレオなどは必要ありません。」

RAZORと向き合おうとしている方のために、Errorsmith氏によるお勧めの3つの機能と、それらを使いこなすためのヒントをご紹介します。また、Ericの好意により、以下のデモのために作成されたすべてのプリセットと、Abletonプロジェクトファイル(Live 9以降用)が提供されています(パックのダウンロードはこちら)。

まだRAZORをお持ちでない方で、興味をお持ちの方は、こちらから無料デモをダウンロードしてください。

 

純粋な不協和音

「まず、不協和音のエフェクトを試してみることをお勧めします。「Errorsmith」セクションのデフォルトのプリセットにアクセスすると、フィルター付きのノコギリ波が出てきます。フィルターをオフにして、不協和音のエフェクトに行き、まずはそれで遊んでみてください。中には、それだけでサウンドの主役になるような過激なものもあります。明るすぎると感じたら、フィルターをオンにして、少し足してみましょう。個人的には、それだけでもうクールなサウンドになります。」

 

フィルターではなくフォルマント

「フォルマントオシレーターでは、フィルタリングが不要な場合もあります。フォルマントの周波数を変化させるだけで、十分リッチなサウンドになるんです。ステレオエフェクトを1つ加えるだけで十分な場合もあります。シンプルな方がいいんです。」

 

ダブル掛け

「不協和音の場合、部分音がすでに不調和なので、歪ませるとさらに部分音が増えてしまいます。だから、不協和音のエフェクトと一緒に歪みを掛けてみるのも面白いです。例えば、非常に激しいものとして、小さなカミソリのアイコンが付いてる「Clipper」があります。これは、基本的に2段階のウェーブフォルダーなんですが、これを不協和音に適用すると、非常に荒々しいものになりますよ。」

 

Errorsmithの最新情報は、InstagramTwitterFacebookでチェックできます。彼の最新の音楽は、BandcampSoundCloudでストリーミングや購入が可能です。

 

写真: Camille Blake

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