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音楽制作におけるフランジャーの使い方

what is a flanger

Flanger (フランジャー) は、独特の「シュワー」といったジェット機のような音を作り出すオーディオエフェクトの一種です。これは、ソースとなるオーディオ信号をわずかに遅延させ、変調させたものと組み合わせることで作成されます。

フランジャーはすべてのプロダクションに登場するわけではありませんが、登場すれば必ず分かります。フランジャーは、音に不気味でメタリックな光沢を与えたり、楽器をドラマチックに盛り上げたりすることができます。フランジャーを微妙にかけることはほとんどなく、正しく使用すれば、きっと強力なクリエイティブツールとなることでしょう。

では、フランジャーとはいったい何をするものなのでしょうか?そして、フランジャープラグインを使って、あなたの作品に独特のひねりを加えるにはどうすればいいのでしょうか?この記事では、フランジャーの内部と外部について、このエフェクトの背景にある科学とその特性やパラメーターを探ります。そして、あなたの作品に効果的にフランジャーを使用する方法を、主要なインストゥルメントとテクニックを使ってご紹介します。

目次:

以降は弊社プラグインエフェクト製品FLAIRを使用し解説していきます。

FLAIRの詳細

フランジャーとは?

フランジャーは、複製された同じオーディオ信号を2つ組み合わせることで機能します。コピーの1つは、ほんの少し (通常20ミリ秒以下) 遅延され、もう1つのコピーと位相がずれます。このわずかな位相差により信号に干渉が生じます。周波数スペクトルが変化しComb (クシ) の歯のようなピークやノッチが生じます。

さらに面白いことに、変化した信号の遅延量は時間とともに徐々に変化し、この “Comb Filter (クシ形フィルター) 効果によって周波数スペクトルが上下に変化します。これによりフランジャーの特徴である渦巻き状のエフェクトが生まれるのです。

ここでは、ドライボーカルの後にフランジャーを適用した例を簡単にご紹介します:

フランジャーの仕組みについて

この仕組みを理解するために、もう少し波形の仕組みついて深く掘り下げてみましょう。

まずはじめに、あなたの疑問に答えましょう。”位相” とはいったい何なのか?

すべての波形は周期的です。ゼロから始まり、正と負の間を振れながら移動し、最後にはゼロに戻る。この繰り返しがあるからこそ、私たちは波形をある周波数や音程で聴くことができるのです。(例えば、1秒間に440回繰り返すと、440Hz: Aのキー (ラの音程) という周波数になります)。

位相とは、この周期における波形の位置のことなのです。2つの同じ波形の位相がずれていると言われる場合、ゼロからゼロに戻る経路は同じだが、その経路上のそれぞれの振幅の位置が異なることを意味します。2つの波形のうち、片方が少しだけ先に進んでいるなど。

2つの同じ信号を合成すると、その波形は位相の相互関係で、音そのものの聴こえ方が変わってきます。2つの信号が同位相であれば、つまり時間的に完全に一致していれば、結合してより大きな信号が生成されますが、2つの信号の位相が完全にずれている場合、一方は周期の中で最も高い位置にあり (正の振幅) 、もう一方は最も低い位置にある (負の振幅) ことを意味します。この場合、波形は互いに打ち消しあい、無音となります。

この2つの極端な位相関係の間に ある信号を組み合わせると、さらに複雑なことになります。また、信号間の位相関係を時間的に変化させることでも、さらに複雑になります。まさに、フランジャーはこのような状況を意図的に起こしているのです。このように、2つの信号の位相関係が複雑に変化することで、周波数スペクトルのある部分はブーストされ、ある部分はキャンセルされるため、クシの歯状のフィルタリング効果が得られるのです。

フランジャー vs. コーラス vs. フェイザー

この情報は、よくある誤解を解消するのに役立ちます。フランジャー、コーラス、フェイザーの違いは何でしょうか?多くのプロデューサーは、これら3つのエフェクトをごちゃ混ぜに使っていますし、どれも位相シフトを利用しているので理解できます。しかし、この3つのエフェクトには重要な違いがあります。

コーラスは、その名前が示すとおり、同じパートを演奏する楽器全体のコーラスの効果を模倣した、厚みのあるクリーミーなサウンドを作成します。フランジャーと同じように、2つ (またはそれ以上) の信号のコピーを組み合わせて、そのうちの1つをわずかに遅延させるという基本的な手法を使用しています。しかし、2つの重要な違いがあります。

まず、フランジャーよりもディレイタイムが15~35ms (15〜35ミリ秒) 程度と長いです。次に、遅延させた信号のピッチが徐々に変化し遅延量も変化します。このコピーされた遅延信号は、フランジャーと比べるとコピー元の信号との変化が大きいため、干渉が少なく、よりまろやかな効果になります。このため、フランジャーがとがった音になるのに対して、コーラスは心地よい厚みを与えるのに最適なのです。

フェイザーは、フランジャーやコーラスと同じ「位相シフト」効果を得ることができますが、その手段は異なります。コピーした信号にディレイをかけて位相をずらすのではなく、オールパスフィルターを使って、コピーした信号のタイミングを変えずに位相を変化させるのです。その結果、より繊細で幽玄な、ぼやけた質感のエフェクトが得られます。フランジャーが派手すぎると感じるときは、代わりにフェイザーを使ってみてください。

パラメーターについて

フランジャープラグインによって少々提供される機能は異なりますが、共通のパラメーターはいくつか存在します。これらをマスターすれば、微細なエフェクトから派手なsound designのテクニックまで、フランジャーであらゆることができるようになります。

それでは、弊社のFLAIRを元に、これらのパラメーターを見てみましょう。このパワフルなプラグインは、信頼性の高いクラシックなフランジング・エフェクトを提供しながらも、モダンなトリックに最適な機能も多数搭載しています。

ここでは、プラグインの様々なパラメーターをドラムループで実演してみます。効果を明確にするために、この例ではかなり極端な設定にしています。実際の用途では、ここまで極端な設定をする場面は少ないでしょう。

Rate (レート)

レートは、フランジャーの遅延信号が遅延量を変化させる速度をコントロールします。少し複雑に聞こえるかもしれませんので、詳しくご説明しましょう。フランジャーのコピーされた信号が遅延する量は、通常LFO (低周波発振器) によって制御されます。これにより、ディレイタイムが短くなったり長くなったりしても安定的に発振します。このLFO の速度、言い換えれば、ディレイタイムが変化する速度はRateノブで制御します。

低いRateでは微妙なスローシフト効果、速いRateでは急激なワーディングが目立つでしょう。

以下の例では、まず遅いRate、後半では速いRateで鳥の囀りのような効果を聴くことができます。

Amount (アマウント)

アマウントは、ディレイタイムを制御するLFOの深さを設定します。これは、フランジャーが短いディレイタイムと長いディレイタイムの間をどの程度移動するかを決定するものです。これはフランジャーの “スウィープ “の幅として聞こえます。低い値では、フランジャー音は狭い周波数帯域を動き回ります。コントロールを上げると、周波数スペクトルをより劇的に上下にスウィープします。

このパラメーターは、製品によってはDepth (デプス)またはIntensity (インテンシティー)となっていることもありますが、FLAIRでは、Amountとなっています。

以下の例では、まずアマウントを低く設定し、次にアマウントを高く設定します(高域から低域への広いスウィープにつながる)。

Feedback (フィードバック)

フィードバックは、処理された信号のうち、どの程度がシグナルチェーンに戻され、再びフランジャーの影響を受けるかを制御します。このトリックは、多くのフランジャーエフェクトにとって非常に重要です。フィードバックが高く設定されると、フランジャー効果が強調され、長く印象的なディケイと紛れもないキーキーとした金属のような音になります。

以下の例では、最初にフィードバックを低く設定し、次にフィードバックを高く設定しています。

Mix (ミックス)

Mixは、原音 (未処理の信号) に対し、フランジャー処理した音をどの程度混ぜるかをコントロールします。ミックス (またはドライ/ウェット) コントロールは、フランジャーの強さを調整するのに非常に重要です。ミックスを低く設定すると (少量の処理済み信号と多くのオリジナル信号の組み合わせ)、あまり目立たない優しいフランジングフレーバーが得られます。100%ウェットに設定すると、フランジャー処理された音だけが聴こえるようになるので、過激な音作りに最適です。

以下の例では、最初はMix量を少なく設定し、徐々にウェット100%に上げています。

その他のパラメーター

この4つの基本的なパラメーターを理解すれば多くのことができるでしょう。しかし、世に出ているフランジャー製品のほとんどは、より多くのオプションを提供しています。多くのフランジャー製品はステレオ幅のコントロールを備えており、モノラル信号のワイドニングツールとして活用できます。さらに、FLAIRは、ピッチを補完する複数のディレイラインを使用できる珍しいVoicesモードを備えています。基本的な使い方に慣れたら、フランジャーの他の機能を試してみるのもよいでしょう。

フランジャープラグインの使い方

フランジャーを使用する際は、設定を慎重に行うよう心がけてください。大胆で過激なフランジャー効果を生み出すことは簡単ですが、それをミックスに調和させることも考えなければなりません。また、すぐに耳を疲れさせてしまうのでComb Filter (クシ形フィルター) によるレゾナンスを過剰に上げないよう注意しましょう。

シンプルで単調なパートに少し動きを加えたい場合は、Feedback量を少なくし、Mixの設定を非常に低くすることを心がけてください。高い値にすると、フランジャーの動作が極端になり、楽曲にまったく新しい信号を取り入れたような感じになってしまいます。Mixの値は状況に応じて微調整しましょう。

シグナルチェーンのどこに挿すべきか?

特に実験的なsound designの場合、フランジャーを置く位置について決まったルールはありません。しかし、一般的には、フランジャーをシグナルチェーンの最後に置くのが理にかなっています。EQやサチュレーションエフェクトの後、信号の最後の仕上げに使うと効果的です。一般的には、ディレイやリバーブなどの空間系エフェクトの前に置くとよいでしょう。しかし、長いリバーブやディレイの余韻をフランジングすることで、興味深い効果を得ることもできます。

一般的な使用例

フランジャーの使い方を理解したところで、一般的な使い方をいくつか見てみましょう。これらのヒントに従えば、すぐにプロ並みにフランジャーを作品に取り入れることができるはずです。

ボーカルへの使用例

フランジャーは、ボーカルに微細な動きと幽玄な輝きを与えることができます。これは、声をエレクトロニックな世界観に置く場合に特に効果的です。

低いRate (FLAIRでは約0.085Hz) でAmountを最大にすると、ゆったりとした贅沢なスウィープエフェクトを生むことができます。Feedbackは低め (37%程度) に設定し、少しだけ低めの値にすることで、過剰な効果にならないようにします。最後に、Mixノブを50%に設定し、ドライとウェットの信号が均等になるようにします。

例では、前半でドライなボーカルを聴かせ、後半でフランジャーが入ってきます。

ギターへの使用例

フランジャーは何十年も前からギターペダルの定番となっていますが、ここではフランジャーを使用してギターの音をレトロな印象にしてみましょう。

まず、Rateを高くして急速なワープ効果を出します:6Hz程度が良いでしょう。このままではかなり強烈なサウンドのため、Amount量を50%程度まで減らして調整します。Feedbackは中程度に、Mixはウェット50%程度 (またはそれ以下) にして、クリーンギターの音色が輝くようにします。

このクリップでは、ギターフレーズの途中からフランジャーがONになります。

ドラムへの使用例

フランジャーは、エレクトロニックな世界観を持つ制作における強力なサウンドデザインツールになり得ます。極限まで追い込むと、フランジャーはそれ自体が楽器になり得るほどです。テクノのドラムループにスパイスを加える古典的なトリックを使って、これを実証してみましょう。

シンコペーションしたクラップにFeedback値の高いフランジャーをかけると、パーカッションに全く新しい音が加わったような大きな個性が生まれます。

クラップにFLAIRを適用し、Feedbackを80%程度まで上げて盛大に響くようにします。

次に、フランジャーの動きをビートに合わせて変化させます。音量を100%に保ったまま、Rateノブの上にある音符マークをクリックし、FLAIRの動きをトラックのテンポに同期させます。次に、ゆっくりとしたレート (4/1程度) を選択し、フランジャーが数小節にわたって上下に大きくスウィープするようにします。

最後に、クラップのアタック感を残すためにMixを50%以下に設定します。

すると以下のようになります。4小節目を過ぎた箇所からフランジャーが入ってきます。

シンセへの使用例

Synthsの場合、より過激なフランジャー設定が効果的になります。リードサウンドは、ジェットエンジンのような “シュワー “という音を加えることで、より大胆さを強調させることができます。

そのためには、Rateを低くAmountを最大にして、幅の広い安定したスウィープを設定します。

Feedbackは30%程度に抑え、Mixを上げることでフランジャー効果を強調します。70%程度にすると、フランジャーサウンドが非常に強調されシンセにシュワーとした迫力を与えますが耳が疲れるほどではありません。

FLAIRのVoiceノブを最大まで上げると、さらに効果を高めることができます。これで4つのフランジャー信号が間隔を空けて配置され、非常に大きな音が得られるようになります。

以下の例では、途中からフランジャーのフレーズ入ってきます。

フランジャーを制作に取り入れてみよう!

本記事では、フランジャーについて、このプラグインが何をするのか、どのように機能するのか、そしてあなたの作品に効果的にフランジャーを使用する方法について詳しく見てきました。フランジャーがどのような働きをするのかが分かったところで、いよいよ自分の作品にフランジャーを使い始める時がきました。

FLAIRの詳細

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