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by Angus Finlayson

RAZOR 10周年: 名アディティブシンセサイザーが彩った名曲10選

誕生から10年、実験的なアンダーグラウンドからトップチャートに至るまで幅広く使用されてきたRAZORのシグネチャーサウンドの歴史を振り返ろう。

数年前、ドイツ人デュオのModeselektorは「ソフトシンセを使う時は大体Razorを使用するよ」と我々に話してくれた。そして今でも「一番良いサウンドのソフトシンセさ」と語ってくれている。目まぐるしいスピードで変化し続けるデジタルプロダクションの世界で、ErrorsmithとNIのコラボレーションによって生まれたアディティブシンセのRazorには多くのプロデューサーを掴んで離さない「何か」がある。

その「何か」とは、もしかしたらアディティブシンセシスへの新しいアプローチなのかもしれない。インターフェースはシンプルで扱いやすくもありながら、320倍音のエンジンは驚くほどクリアなサウンドを作り出すことができる。何より、フィルターやリバーブ等のエフェクト加工のほぼ全てがシンセの構成倍音の形作りによって再現されており、それが実にユニークなサウンドを生み出している。SafeBassのように実用的なファインチューニング機能も備えたこのシンセは、ミュージックチャートを彩るようなポップス、 ビッグルームなレイブ、そして最先端のサウンドデザインなどに使用されてきた。それでは10周年を迎えたRazorがインスパイアしてきた音楽の歴史を見返してみよう。

Dua Lipa – New Rules

Razorはワイルドな音のイメージが強いかもしれないが、滑らかに制御された音を作ることもできる。そしてそれはプロデューサーIan Kirkpatrickの好みのサウンドだ。彼はRazorを欠かせないシンセだと話しており、「ベースの自由度でこれに勝るものはない」と語っている。とてもクリーンなアディティブシンセシスがその要因の1つだろう。その中でも特に倍音の細かいバランスをコントロールすることができるSpectral Clipモジュールの影響が大きいと彼は語る。

Razorの正確さはKirkpatrickがUKスターのDua Lipaのためにプロデュースしたこのトラックにも表れている。このアレンジの中では主にサポート役をしているが、バースでは前面に現れ、印象的な正確で滑らかなピッチベンドを披露している。

Mark Fell – Materialisation epic razor chord and LatelyBass version with found voice

Mark Fellの2011年のアルバムManitutshuに収録された曲の多くには共通の特徴があり、作曲に使用されたツール名ががそのままトラックタイトルになっているのだ。様々な場面でRazorは使用されており、この曲では鋭いシンセスタッブの裏に鳴っているコードがタイトルの一部となっている。

ManitutshuはRazorを使用した最も初期のレコードの1つだろう。FellとRazorには特別な縁があり、実際に採用されることはなかったが、彼は製品のリリース時にRazor用プリセットの制作依頼を受けていたのだ。その経緯を踏まえるとFellが自身の音楽にRazorを取り入れたことも頷ける。長きに渡ってアバンギャルドな感性と眩く鮮明なサウンドのバランスを追求してきたシェフィールド在住のプロデューサーに対して、Razorはそのサウンドを提供し続けて来たのだ。

Rian Treanor – Obstacle 4

FellのManitutshuがRazorの使用された最も初期のレコードだとすれば、エレクトロニックミュージックの限界に挑むFellの息子、Rian Treanorが2月にリリースした「Obstacle 4」はRazorの最も最近使用された例になるだろう。Fellの場合と同様、TreanorのサウンドにもRazorは自然にマッチしたようだ。しかし、この曲の場合はシンセのレイブ的な面がより強調されている。

この曲はドラム以外、全てRazorで作られている。肝となるのはガラスのようなデチューンがかったディケイで、カオス的でありながらも制御された印象を与える。トラックが段々と色あせて広がりを見せる中でも、そのサウンドは鋭く鮮明なサウンドを保ち続ける。実に「Razor」(レーザー)と呼ぶには相応しいだろう。

Kendrick Lamar – Money Trees (feat. Jay Rock)

Razorはその特徴あるサウンドから、しばしば「フィーチャー」楽器として扱われることがある。Razorに馴染みのある人であれば、そのシグネチャーサウンドを聴いただけでRazorだと認識することが出来るだろう。このように特徴的な音が印象的なシンセだが、繊細な役割を担うことも可能で、制作タスクに応じた実用的な使用も可能だ。

DJ DahiがプロデュースしたこのトラックでもRazorは繊細な役割を担っている。確証はないが、ベースラインにはRazorの「Caffeteria」プリセットが使用されているのではと噂されており、我々もその可能性は十分にあると考えている。この曲でのRazorの役目は808のベースサウンドに繊細な捻りを加えることだが、重さと正確さを理想的にバランスさせたサウンドでその役割をそつなくこなしている。

Fever Ray – Wanna Sip

複雑な気持ちを引き起こすRazorの芯のある周波数豊かなサウンドには「何か」がある。設定を振り切ればとても攻撃的なサウンドになるが、同時にその派手な音にはアニメっぽい要素も含まれている。Fever Rayと「スタジオのカメレオン」であるスウェーデン人のPeder Mannerfeltの共作として2018年にリリースされたこのトラックの鍵となる要素は脅迫とユーモアの混ざり合いだ。

男女の恋愛を「衝突と欲望」と捉えて、それを「toxic habit (毒のある習慣)」として描写したこの曲の歌詞は、リフレインに現れる稲妻のような有害なクラクションによって表現されている。しかし、希望がないわけではない。その音の終わりに時々現れる不安定なピッチベンドにはちょっとした遊び心を感じることができ、全体のムードを和らげてくれている。

Rrose – Waterfall

ここまではRazorが持つ正確さ、攻撃的さ、そして怪しさについて参考例と共にご紹介してきた。そして今からご紹介するRroseはまた別のアプローチでRazorを使用している。このアメリカ在住のプロデューサーはテクノミュージックを催眠術のように捉え、シンプルなサウンドに潜む豊かな要素を発掘し、テクノという枠組みの中に心理音響的な現象を作り出している。

とあるインタビューの中でアーティストがRazorの特徴を「insane spectrum of overtones (とても豊富な倍音を含んでいる)」と称したように、Razorが持つ豊かな倍音は音作りのソースとして適している。

このトラックの中でRazorは基本ループの基盤として使用されている。繊細なうねりから大きな波にビルドアップするように使用されているフィルターサウンドがそれだ。このパートは全てシンセから録音した1つの半小節のサンプルを元に加工をし、発展させて作られている。

Caterina Barbieri – Fantas

イタリア人シンセシストのCaterina Barbieriは必要に応じてアナログとデジタルの境界を行き来する。彼女はモジュラーシンセのセットアップでよく知られていると思うが、4DSOUNDシステム用に作った曲の中でRazorを使用したことを我々とのインタビューで語っており、その「数学的でハイレゾな正確さ」はアナログ方式では到底再現することは出来ない、と話している。

彼女は以前行った主にモジュラーセットアップのライブや2019年にリリースしたアルバム、Ecstatic Computationを代表するトラックであるFantasでRazorを使用している。「Fantasの作曲には鮮明なオーディオシンセシスを備え、細部のコントロールが可能なRazorがベストな楽器だと感じたわ」と彼女は語っている。彼女の言うことはトラックの軸となっているアルペジオを聴いて頂ければ理解できるだろう。約10分もの間、それはダッキング、グライド、そして質感の変化をし続けるのだ。

Second Woman – 200601je6

Second WomanのJosh EustisとTurk Dietrichは制作セットアップを制限することを信念としている。複数のツールを行き来するよりも、1つのシンセを深堀りした方が良い、という考え方だ。そういう意味ではRazorは彼らの道具箱に常備された存在であり、何かしらの形で、彼らのほとんどのトラックで使用されてきた。

その中でも彼らの2016年のデビューアルバムに収録された200601je6がRazorの一番衝撃的な使用例だろう。スタッターの効いた催眠的なこのトラックはRazorがもつアーティキュレーションのクリーンさと、幅広い表現力の可能性の両方の性質を上手く見せている。Max For Liveを使用して外部からモジュレーションをかけることで、複雑な質感のある掴み所のないリズムを作り出している。彼らはこのトラックのことを「我々がRazorの可能性をどれだけ深堀りできたのか、を示す楽しいコンセプトの証明」だと語っている。

Le Dom – Blossom

純粋なレイブミュージックを紹介せずにRazorをフィーチャーしたトラックリストを構成するのは怠慢だろう。過去10年間、多くのクラブシーンではその芯のある大きなサウンドから、Razorが愛用されてきた。ベースミュージックのプロデューサーからは特に好まれるようで、どれだけカオス的にサウンドをレイヤーさせても低音の重みが損なわれないSafe Bassの機能はその要因の1つだろう。

Blossomはまさにその適例だ。フランスのレーベル、Paradoxe ClubのLe Domはこの8小節グライムのリフの中で極端なデチューンを試みており、サウンドシステムを通せばそれは巨大なサウンドを生み出す。

Modeselektor feat. Otto Von Schirach – Evil Twin

次にご紹介するパワーユーザー系のデュオ、Modeselektorは「約70%のトラックにRazorを使用している」と推測している。彼らの音楽のベースがそこから生まれる所を想像するのはとても楽しいが、Evil TwinではRazorの新たな機能が使用されている。

このトラックの最も衝撃的な要素はボーカルで、エキセントリックなフロリダ人、Otto Von Schirachによる喋り言葉のターンだ。ボーカルが歌う「Evil twin is the master / Everybody has one…」はRazorのボコーダー機能を使用することであのようなサウンドに仕上がっている。捻りを加えた王道的エレクトロファンクのロボット加工されたボーカルサウンドとModeselektorの21世紀のサウンドが相性良く組み合わさった1曲だ。

Errorsmith – Lightspeed

さて、10曲の予定をオーバーして次は11曲目の紹介になるが、Razorの生みの親を含めずしてこのリストは完成されないだろう。Razorが持つサウンドとアプローチの多くはベテランプロデューサーであるErrorsmithの「大胆さと遊び心ををユニークな方法で兼ね備えた」音楽性を反映している。彼の2017年のアルバムSuperlative FatigueはRazorを多くフィーチャーしており、シンセが持つ多くの風変わりで素晴らしい可能性を見せてくれる。

LightspeedでErrorsmithは母音フィルターの性能を試すように1つの繰り返し音から独創的なロボットのスキャットソロのようなサウンドを作り出し、それがトラックが進行するに連れておふざけ感が増すように構成している。Errorsmithは繊細にかけたピッチベンド(繊細でないケースもあるが)を完璧な状態にすることに一番時間がかかったと語る。「それによって我々が持つリアルとロボットの認識にこれほど影響があることに驚いたよ。それも踏まえて、自分が求める音に辿り着くのにかなり時間を費やしたよ」と彼は話す。

 

Razorの開発と成功について話した我々とErrorsmithの最近のインタビューもぜひお見逃しなく。彼はこの機会のために、おすすめの機能をデモンストレーションした無償プリセットを提供してくれた。

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