• Eomac + Kyoka = Lena Andersson

    アイルランド人プロデューサーEomacと、日本人アーティストKyokaのコラボレーションプロジェクトに迫る。…

    Interviews
by Chandler Shortlidge

レコード契約を結ぶ方法

自分の音楽にぴったりのレーベルを探そう。

多くのベッドルームプロデューサーにとって、成功とは、目隠しして険しい谷間を飛び超えるようなことで、自分の音楽を携えて底知れぬ深い穴を越えるようなことだとも感じている。 もう一方では、成功があなたを待っている。 デジタル時代には成功を実現する新しい方法がたくさんあるが、レコードレーベルはこれからもミュージシャンにとって重要な役割を果たす。

「レーベルはすでに死んだと思っている人がいる」と話すのは、著述家で元プロモーターのPietro Liciniだ。「特に新しいアーティストに関して言うなら、それは絶対に間違いです。インターネットの登場で音楽レーベルの力が衰えたのは確かですが、それでもレーベルは新しい人材を世に送り出す上で、大きな役割を果たしています」

レーベルと契約することで成功が保証されるわけではない。 彼の著作 「Underground: Aguide for emerging DJs and producers」は、アンダーグラウンドのダンスミュージックのアーティストの成功に必要なステップを詳細に説明しているが、何よりも成功に必要なのは才能だ、とLiciniは言う。 とはいえ、しっかりしたレコードレーベルが提供するプロモーションツールを過小評価することはできない。

「レーベルはアーティストにある種の保証と信頼を与えます」とDefected RecordsのマネージングディレクターWez Saundersは言う。 20年の経験と、それに伴うネットワークと人間関係を持つDefectedは、アーティストの曲を世界中で流通させる技量を持っている。 社内にはプレス担当のPRチームが存在し、アーティストの露出を増やし、より多くのファンがライブに足を運ぶよう働きかける。 もちろんすべてのレーベルがDefectedのようなパワーを持っているわけではないが、たとえ小さなレーベルであっても、新人であろうとなかろうと、どのアーティストにとっても単独でやるより大きなメリットがある。 しかし、世の中には数えきれないほど多くのレコードレーベルが存在するし、テクノを扱っているレーベルだけでも何千も存在する。 どうすれば適切なレーベルが見つかるのだろうか?

「重要なことは3つ」 とLicini は言う。 「まず始めに、自分のサウンドを見つけること。 レーベルを探す前に、少なくとも音楽的な面だけでも、自分で自分が何者か分かっている必要があります。 次に、音楽をたくさん聴いて、自分を心から楽しませてくれるレーベルを見つけて、そのレーベルがどんなレーベルなのかしっかり理解することです。 最後に、好きな音楽を作ること。でも同時に、自分のサウンドとレーベルの間で、うまくバランスが取れているべきです。 似すぎても、離れすぎてもいない、そんな魔法のバランスポイントでなければいけません。 InnervisionsのボスのDixonが以前こんなことを言ってました。『レーベルが過去にリリースしたものに囚われちゃいけない。次に何が来るのか前を見ないと』ってね」

この3つを実行しても、あなたが追いかけているレコードレーベルと契約できるかどうかは保証されないだろう。 特に小さいレーベルだったら、あなたが連絡を取る前に新しいアーティストを1人見つけてしまい、それ以上アーティストと契約する余裕がないこともある。中には、ある程度の知名度のある新人アーティストを探しているレーベルも存在する。 新しいアーティストを獲得するのはギャンブルで、すでに熱狂的なファンを持つアーティストと契約することは、潜在的なリスクを軽減する助けとなる。 だから、ソーシャルメディアの重要性を過小評価してはいけない。 でも忘れないで欲しいのは、必ずしも数字のゲームじゃないということだ。

「ソーシャルメディアは重要になってきていますが、そのリーチ数は、本質と創造性に追い越されてきていると思います」とMark Lawrenceは言う。 Association For Electronic Musicの前CEOとして音楽業界で長い経験を持つLawrenceは、現在、出版会社とレーベルマネージャーとしての業務を行いながら、Black Rock RecordsのA&Rを務めている。

Lawrenceによれば、アルゴリズムがリスク軽減に十分役立つレベルになってきていて、これはA&Rの伝統的な役割がSpotify時代にややシフトしたことを意味しているのだそうだ。「アルゴリズムの登場によって起きた変化があります。商業的成功における『数学』の支配が大きくなり、(アルゴリズムを意識した)数学的アプローチが増えるにつれて、創作的なリスクを生み出す人間的な要素が減少してきたのです」と彼は言う。 「影響力と勇気を持っていない限り、おそらく、成功を生み出すアクシデントなんてあり得ないでしょう」

優れたA&Rであっても「現在と未来の音に耳を傾ける」ことが必要で、「創造的リスクから商業的な成功を生み出すのだという視点を持って、現在と将来のアーティストから受け取った音楽にその耳を傾けるべきです」とLawrenceは言う。

Atlantic Recordsの副社長でありA&R Artist DevelopmentのRiggs Moralesにとって、それは契約の可能性があるアーティストのライブショーはチェックしなければならないことを意味する。「とても重要ですよ。だってそのアーティストがお客さんが3人でも100人でも1,000人でも楽しませることができるのか、ちゃんとチェックしなきゃいけないですからね」

Atlanticの彼の同僚、EVP & HeadのA&RであるPete Ganbargもそれに同意する。 「一番重要なのは、強く自信のあるライブ・ショーを開催することだ」と彼は言う。

しかし、もしA&Rがまだ一度もあなたの音楽を聞いたことがない場合は、強く自信のあるライブショーでもまだ足りないだろう。特にあなたの目標がAtlanticのような大手レーベルならなおさらだ。 それでは、どうすればレーベルに注目されるのか? それはあなたが誰に連絡を取ろうとしているかによるのだ。

「まずはレーベルの背後にどんな重要人物がいるのか突き止め、可能な限り、彼らとのつながりを見つけることです」とLiciniは言う。 Liciniによると、必ずしもレーベルのA&Rと友達になる必要はないが、レーベルで働いている人の直通メールアドレスを見つけられれば、demo@labelname.xyzといった一般向けのアドレスよりは、よっぽど有利だろう。

「もちろん、メールの受取人の注意を引くことも必要で、コピー&ペーストのメールを30のレーベルに送るようでは、間違いなく失敗です」とLiciniは続ける。 「個人的で現実的。敬意と情熱のあるメッセージ。 短編小説のように、あなたが誰で、なぜレーベルに惚れてるのか伝えてみましょう。 そのサウンドを初めて聞いた伝説的なパーティーについて言及してみましょう。 そうすれば、メッセージがすぐにゴミ箱に行くことはないでしょう」

Lawrenceは頷く。 「一般的には、コピーして他の人に送っていない個人的なメールと、リサーチのよく行き届いたデモが重要です。個人的で、サウンドがしっかりレーベルにフィットするように心がけてください。 デモはメールによる就職面接のようなもので、自分自身を訂正する機会はないのです」

どれだけの数のデモを受け取ろうと「Defectedはそのうちの90%は絶対に聞いている」とSaundersは言う。 すぐにでも新しい曲をリリースしたいと思っている場合、Saundersの忠告を良く聞いておこう。 「デモを立て続けに送らないように。 多くの人がこれをしてしまいます。 レコードを一枚送って、聞いてもらって、またすぐに別のレコードを送るみたいにね。 私の思考過程では、あなたが送ってくれた最初のレコードが現段階で最高のレコードのはずだと考えます。 すぐに別のものが送られて来ると、最高傑作がどれなのか分からなくなる。

慌てないで。 落ち着いて。どうしてそのレコードが適切じゃなかったのか意見を聞くと良いです。 音が良くなかったとか、クオリティーがあまり良くなかったとか、ドラムを変えたほうが良いとか、ベースラインがクラッシュしていたとか。私たちは正直ですから、意見に耳を傾けて、また戻ってきてください。それをすることなく、すぐに次のレコードを送りつけないでください」

Saundersは次のようにアドバイスしている。「いつでもストリーミング可能なリンクを用意し、トラックはダウンロード可能な状態にしておき、トラックタイトルにはアーティスト名、タイトル、メールアドレスをきちんと入れておきましょう。 私は移動中にデモを聞きますが、調べようとしても誰のデモなのか分からないことがよくあります」 もしDJやパフォーマーなら、まず始めに現場でテストプレイしてみるのも良いだろう。 「デモを送る前に、お客さんがどう反応するか試すのも良いですね」もしギグの予定がないなら、「あなたの曲をプレイしてくれそうなDJと仲良くなってみたら」と言う。 「Sam DivineかDennis Ferrerに送ってみて、彼らが興味を示すか見てみましょう。もし何か反応があった時は、私たちにデモを送る際に、誰がそのレコードをサポートしているのか知らせてください」

しかしながら、Sony、Universal、そしてAtlanticが傘下にあるWarner Music Groupのような大手レコード会社はデモを受け付けていないので、SaundersやLawrenceのアドバイスは、より小規模な独立系レーベルに向いていると理解してほしい。 メジャー系レーベルと接触するにはいくつかの方法がある。 例えば、Universalは、未契約のアーティストに向けてSpinnupというデジタル配信サービスを提供しており、Universal Music Groupのネットワークからスカウトの機会を得ることができる。 しかし別の方法もある。バイラルだ。

独立系レーベルは信頼を重視するかもしれないが、3大レーベルとその関連会社はリスクをはるかに嫌う。 バイラル・スターと契約すれば、最低でも短期間の間は、売上利益が約束されている。 しかしバイラルになることは、どのアーティストにとっても同じことを意味するわけではない。誰もがAtlanticのBhad Bhabie (Cash Me Outside girlで有名) みたいになる必要はない。

Billie Eilishの場合はどうか? この17歳の天才少女はつい最近Coachellaフェスティバルでプレイしたばかりだ。 彼女の名が世に知れ渡ったのは、デビュー曲「Ocean Eyes」がSNSや口コミで広まったことが大きい。 2015年に兄のFinneas O’Connellが書いた曲を、彼女のダンス教師が振り付けできるようにとEilishが録音したのが発端だ。 彼女は後に、あまり深く考えずに、この曲をSoundCloudにアップロードした。 しかし音楽紹介サイトのHillydillyがその曲を最初にシェアしてから大きな話題となり、現時点で再生回数1750万回を達成した。 それからまもなくInterscope Records (Universal Music Group傘下)からのアプローチを受け、2016年11月に「Ocean Eyes」を世界リリースするに至った。 StereogumのChris DeVilleが「これは間違いなくメジャーヒットする」と発言したことがメディアの火をつけた。 彼は正しかった。 彼女のデビューアルバム「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」は、Apple Musicで80万件先行追加され、2000年代生まれのアーティストでナンバー1アルバムを獲得した初のアーティストになった。

彼女のように、名声への道は、物語がほとんど何もないところに敷かれていく。 メジャーを見つけるということは、まずはリスクをいとわないインディーを見つけることを意味する。 「大手レコード会社は、インディーズ、マネージャー、トレンドメイカーのネットワークを利用して、既に勢いのあるトラックやアーティストを探すことができる。しかし一方で、小規模の独立系レーベルは、新人アーティストや様々なスタイルにリスクを負うのです」と Lawrenceは語る。

ここでLiciniのアドバイスが役に立つ。独自にリサーチして、メジャーに進めるレーベルを探す。それからメールを送り始めるのだ。

レーベルとの契約には独自の難題が伴う。 契約が成立したら、「著作権の割合が低いこと、アーティストのシェアに対する高額なコスト、契約書に隠されている条項、監査条項がないことなどに、気をつけるべきです」とLawrenceは言う。 疑いがあるときは助けを借りよう。 「初めのうちは経験豊富なアーティスト、パブリッシャー、マネージャー、または弁護士に手伝ってもらうのがいいでしょう」

このツールをポケットに入れておけば、深い谷の反対側にいても、すぐに成功への道へと踏み出せる。

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